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崎山優城(高校生)【1】

               鹿児島県鹿児島市  

               4月28日(木) 


 崎山優城はゾンビ映画をそこそこ観ている。

 古今東西あらゆる作品を網羅しているわけではなかったけれど、世間一般の基準に照らして鑑賞本数がいささか多めとは言えるだろう。ゾンビ物というジャンルにそれなりの造詣はあるものの、しかし、本当にゾンビが好きな人からすればたいした理解もこだわりもないという自覚もあった。

 別にゾンビ映画ばかり好きこのんでいるわけでもない――TSUTAYAやGEOで毎週のように借りるDVDの中に、だいたいゾンビが一体まぎれている程度のものである。いくら映画サイトで評判がよくてもわざわざ海外版を取り寄せることはないし、そもそも映画はレンタルで楽しむだけである。古典も知らないもののほうが多い。ゾンビ映画最大の巨匠、現代的ゾンビのほとんど産みの親と言ってもいいジョージ・ロメロの作品でさえ、2000年代以降のものしか観たことはない(これはさすがに後ろめたい気持ちもあるが、だって『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』なんて昔の白黒映画、近所のTSUTAYAに置いてないんだから)。ちなみに『ドーン・オブ・ザ・デッド』は観ている……ザック・スナイダーのリメイク版の方だが。

 要するに崎山優城は、怠惰で不真面目なゾンビ映画愛好家だった。

 ゾンビの定義をめぐるさまざまな論争があることも知っているが、崎山はどの立場にも積極的に与しようと思ったことはない。

 走るゾンビは邪道だろうか?――いや別に。

 喋るゾンビはどうだろうか?――それはそれで。

 知能があり道具が使えるゾンビは?――どこからどこまでがゾンビかはともかく、いいんじゃないだろうか。

 屍体が甦って生きている人間に嚙みつき、嚙みつかれた人間は死んだあとまた甦って他の人間に嚙みつく。それがゾンビ。

 だからあの流血事件の現場に居合わせたとき、崎山が真っ先に思いついたのはもちろん、

「ゾンビ」

 おそろしそうにひそめた声で、しかし笑みを含んでそう言ったのは、同級生の羽島史織だった。

 高校からの帰り道。隣りを歩く彼女から上目遣いに覗き込まれ、顔が緊張でこわばるのを感じながら、崎山はこくこくと頷いた。意味もなく、竹刀袋に包まれた竹刀を右に左に持ち変える。彼女の好奇心にきらめく瞳から目を逸らすと、首をぐいと後ろにひねり、いま通り過ぎてきた場所を一心に眺めた。――いまの自分は不自然じゃなかっただろうか? 逃げるように視線を外したと思われなかっただろうか?

 だが羽島さんは既に、向こう隣りの大里浩一に「あほか映画の観すぎ」などと突っ込まれ、楽しそうに笑っている。こちらなどとっくに眼中にないようで、ほっとしたような恥ずかしいような、薄暗い苛立ちの混じったざわめきが一瞬だけ胸を満たした。だがいつものように、それもすぐに消えてなくなるだろう。崎山は努めて意識しないようにした。

 あらためて背後に目を凝らす。人だかりは既に遠くなっているが、不穏な空気が立ち込めているのはわかる。

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