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宇都紗耶香(高校生)【3】

「なんなんだろ、飲酒運転とかかな。暴れてたみたいだけど……」

 山崎くん――いまさら苗字は聞けないのでとりあえず、山崎くんで通そう――が後ろを何度も振り返りながらつぶやく。史織がなんだろねえと相槌を打ちながら、「でもすごい血だったね。ナイフかなんか持ってた?」と顔をしかめた。

「いやよく見えなかったけど……」

 山崎くんはもう一度振りかえるけれど、もう人だかりからはだいぶ遠ざかっていた。それでも得体の知れないどよめきや慌ただしく交わされる声は、まだここまで届いているけれど。

「……なんか嚙んでなかった?」

 嚙んでた。

 山崎くんのことばに、さっきの男の人と警察官の姿が脳裏にまざまざと思い出される。首の傷を押さえて倒れていた警察官。顔は伏せられていてよく見えなかったものの、首から胸元にかけてを血で真っ赤に染めて転がり出てきた男の人。さっきは短い時間のことでよくわからなかったけれど、なら、あれは警察官の返り血なんだろうか。首に嚙みついて? 紗耶香は気分が悪くなった。異常だ。

「えー、それじゃアレじゃん。映画とかでよくみるやつ」

 史織が怖そうに声を低めて、けれど同じくらいおもしろそうに口もとに笑みをたたえた。

「ゾンビ」

 彼女の頭を軽くはたいたのは、大里くんだった。

「あほか。こないだの映画に毒されすぎ」

「おもしろかったねえ、『アイアムアヒーロー』。ゾンビすっごかった」

「そりゃおもしろかったけど」

 そんな二人のやりとりに、あ、と紗耶香はまた胸がちくりと痛むのを感じた。史織が口にしたのは、すこしまえのゾンビものの映画だ。それじゃ二人で観たんだろうか。DVD借りて? 一緒に? どこで? どっちかの家で?

 好きな俳優さんが出ているしホラー映画もそれなりに楽しめるので、いつか観たいなあ、と紗耶香はぼんやり考えていた。けれどこれで観ることもなくなったかな。いまの二人の会話をその映画ごと、心のなかの“あんまり考えたくないもの入れ”にえいっと押しやるよう努力する。

 心が軋むような考えから目を背けるのは、我ながら、それなりに上手なんじゃないかと思う。見ないようにしているだけで痛みはそこにあるし、少しずつ澱のように溜まるそれが心の健康によろしくないことぐらい、わかっているのだけれど。

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