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大里浩一(高校生)【9】

「やめろ!」

 浩一は宇都さんの右腕をつかんで引きながら、男の顔面に拳を叩き落とした。助走の勢いと体重をのせて、思いきり殴りつけたつもりだった。だが男は動じない。その目が痙攣したように振れながら浩一を捉えた。赤く血走った眼球。収縮した瞳孔は錐で穿たれた孔のようだ。顔色は生気がなく、ぐしゃぐしゃにまるめた紙を開いたもののように皺だらけで、血を浴びた口許ばかりが真っ赤だった。

 ほとんど狂乱状態でもう一度ぶん殴りながら、浩一は気づいた。この男、さっき郵便局のまえで、警察官に取り押さえられてたやつだ。

 ぐいと男が自分の顔をひねり上げた。剝き出しにして喰いしばった歯のあいだ、宇都さんのうなじから、ぶちぶちと肉の繊維を引き千切りながら。いましめを解かれ、彼女の身体が崩れ落ちる。浩一はとっさに片腕で抱きとめると、もう片方の腕をやみくもに振りまわして男を威嚇しながら後退った。吼える口から血と肉片を撒き散らし、男はなおもこちらに迫ろうとする。だが救急車のなかで身体が引っかかっているのか、それ以上近づくことができないでいた。

 浩一は腕のなかの宇都さんを見た。首元の傷は広く深く、撹拌機で搔き混ぜたみたいにぐちゃぐちゃだった。全身が激しく痙攣している。血が止め処なく、噴き出すように流れている。出血を止めなければならない。だがこれほどの深傷をどうしたらいいのかわからず、その傷に触れて大丈夫なのかもわからず、浩一はやり場なくかざした手を右往左往させるだけだった。これが命にかかわるものであること、そしていましも彼女の目が閉じてしまったら取り返しがつかないこと、それだけをはっきりと直感した。ひきつる咽喉の奥からかろうじて呼びかけつづける。

「宇都さ――宇都さん……!」

「浩一! こっち!」

 肩を強くつかんだのは史織だった。無事だったのか、と安堵する間もなく、「やばいよ、はやく出て!」と店の外に促される。史織は二人に手を貸しながら、横転した救急車のほうに険しい表情を向けた。血まみれの男の激しい動きに応えて、すこしずつではあるが、その身体がフロントから滑り出してきている。

「なん、なんなんだよ、あれ……」

「わかんない! でも離れなきゃ!」

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