表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/109

別府精一(警察官)【3】

「迫がカネを使ったのは、おそらく、そういった建築屋や資材屋です。ほかにも、建具屋、内装屋の確認がとれました。もしかしたら、電気や水道の設備屋なんかも、調べれば出てくるかもしれません」

「なんだ……家でも建ててんのか?」

 軽口を叩いたつもりだったが、八房は我が意を得たりとうなずいた。

「そうなんです」

「そうなの?」

「はい」

 八房は手許の手帳に目を落とした。

「最初の情報は、今朝がた、迫の実家の近くの建具屋――大薗建窓ガラス店で聞き込みしてたときでした。そこの主人が、迫が最近、『えらい厚さの鋼製の扉を買っていった』という話をしてくれまして」

「えらい厚さの」

「はい。普通の家に使うようなものじゃなくて、金庫とか、シェルターとかに使えるような、30センチくらいの厚みがあるやつだったそうです。店に在庫はなかったので取り寄せになったみたいですけど、迫はそれだけ買い求めて、軽トラックで運んでいったと。それが一年近くまえのことです」

 八房が手帳のページをめくる。

「同じ時期、迫は、同じいちき串木野市内の土木業者に、自分が所有する土地の根切りを依頼しています」

「根切りってなんだ?」

「建物の基礎をつくるための、土地を掘り返しですね。その深さが五メートル」

「家建てるのに、五メートルも掘らなきゃいかんのか」

「いえ、普通の平屋建てなら、五十センチも掘らないそうです。実際、迫は懇意の業者に依頼する際、『趣味の地下室をつくりたい』と言っていたということでした」

「地下室ね……」

 別府はうなった。ただ横領したカネを濫費したというだけでなく、また別種の胡散臭さが漂う方向に話が進みつつある。

「迫は別の業者に建物の躯体の建設を頼み、また別の業者に内外装の仕上げを頼んでいます。建具のように、自分で取りつけたものもあるようです。実家が建築屋ですので、迫自身もそれなりの技術があるんでしょう」

 なんでそんなことする必要があるんだ、とは思わなかった。ひとつの建物をつくるのに、ひとつではなく複数の業者に小分けで依頼するのは、その建物の全体像を他人に知られたくないからにほかならない。ましてや地下室だと? いかがわしい臭いが芬々としている。

「つまり盗んだカネで地下室つくってるんだと」

「はい」

「場所はわかってんのか?」

「いちき串木野市内の、白浜という地区です。名義が迫本人のものだったので、市役所で地番も確認してます」

「あー、白浜。知ってる知ってる」

 ただの偶然だが、別府は白浜地区にある海水温泉に何度か通ったことがあった。のどかな漁師町といった雰囲気のところだ。

「それで」、と八房が手帳を閉じ、椅子に座りなおした。

「ガサ状請求して、なるべく早くガサに入りたいと思うんですが、どうでしょうか」

「なるべく早くって?」

 いやな空気を感じて、別府は顔をそらしぎみで眉をしかめた。身を引いた距離だけ、ぐいと八房がせり出してくる。

「なんだったら今日でも」

「やだよ。非番だよ俺」

 別府の即答に、しかし彼の態度に慣れている八房は動じたふうもない。「今日は住吉さんが出てきてるみたいなんで、五分でガサ状もらえますから」とそんなことまで確認済みで、別府の意向にかまわず、すでに捜索に立ち入る気でいた。住吉さんというのは、二人が懇意にしている年配の判事だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ