宇都紗耶香(高校生)【1】
鹿児島県鹿児島市
4月28日(木)
今日こそ告白するんだと決めたのはこれで何度目かわからなかったし、今日だってやっぱり大里くんと二人きりになる時間は持てないまま家に帰ることになりそうだった。いや二人きりになったところで――と宇都紗耶香は思いなおした――あたりさわりのない話をぎこちなく交わすだけで、自分の部屋に戻ったあとで会話を一からやりなおし、もっと気の利いた返し方や感じのいい笑顔がどうしてできないのかと頭を抱えることになるだけなのだけれど。
それでも今日はいつもと少しだけ違う。学校が終わってから愛璃と史織の三人で駅ビルのショッピングプラザに行くことになっていたが、そこに男子が二人、大里くんともうひとりが合流することになったのだ。
「えー、紗耶香よかったじゃん」
愛璃が肩を小突いてくる。
「いやいやいや。史織さんに感謝はしてますけども」
大里くんたちを誘ったのは史織だった。彼女は大里くんと同じアパートに住んでいて、小さいころから仲が良いのだという。
確かに二人が仲良く話しているのはよく見かける。遠慮なく史織が大里くんの背中を叩いたり、逆に大里くんが史織を小突いているのを見たこともある。心なしか大里くんの笑い声も――考えすぎかもしれないけれど、紗耶香は思わずにはいられなかった――いつもより楽しそうに聞こえるときだって。
そんなとき紗耶香は不思議としずかな気持ちになる。じくじくと胸を締めつけるものがあるのは確かだ。けどそれよりも、ああ、そりゃそうだよなあ、お似合いだもんなあ、と、すとんと納得してしまうのだった。
そう、今だって。紗耶香の目線の先、廊下の窓からこちらに身をのりだした史織の横には、大里くんがいる。窓枠が額縁のように二人を、きらきらと青春の画に切りとっている。
「愛璃ー、紗耶香ー、もう行けるー?」
「あ、行ける行けるー」
愛璃が応えて席を立った。紗耶香も高校指定の通学鞄を抱えて立ちあがる。いつも鞄が触れるところだけ、コートに毛玉ができていた。帰ったらお母さんに毛玉取り借りなきゃなあ、とぼんやり考えた。
駅前のショッピングプラザまでは自転車で五分たらず。もっとも紗耶香は自転車通学ではないので、愛璃のうしろに乗せてもらっている。五人でわあわあ言いながら、赤い夕陽がべったりとはりついた坂道を下る。
「そいえば、今日の迫ちんやばくなかった?」
史織が誰にともなく大声で言った。
「体育のとき?」と男子の一人――隣のクラスの山崎くん?――が応える。体育は二クラス合同なのだ。
「そうそう。めっちゃ気分悪そうだったじゃん」保健室いってから帰ってこなかったよねー、と史織の声が風に流れた。
迫さん――迫亜美さんはもとからそう元気なほうではないけれど、今日の体育の時間はたしかにいつもより顔色が悪かった。日焼けを知らない白い肌がほとんど灰色みたいになって、先生に抱えられるように保健室に連れていかれたのが、今日の二限目だ。帰りのホームルームのときも姿を見なかったから、早退したのだろう。