第2話 タベルトイウ行為
人が喰べられるーーこんなことはホラー映画で見慣れていると思っていた。しかしいざ現実でソレを見るなんて。
こんなの、こんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなのこんなの。
耐えられるはずがないじゃないか。
集団が警備員のおっさんに群がる。その光景から俺は、金縛りにあったかのように、目を背けることができなかった。
奴らがおっさんに噛み付く度に響く小さくない絶叫。
噛まれるごとに飛ぶ血飛沫の紅色が地面を染めていく。
無数の狂人に囲まれその姿が見えなくなって。
そして風に乗って漂う鮮血の匂いーー死の臭い。
うげろヴぇろヴぇろごっ…。
気がつくと体が勝手に吐いていた。それでも奴らの悪食から目を離すことができない。
やめろ。もうやめてくれ。俺はもう見たくない。警備員のおっさんだって死んじまう!
そう思った途端に、集団は彼に群がるのを止めた。なぜ、ともう一度彼がいた場所を見てみる。彼はなんと、立ち上がった。身体中に噛みちぎられた跡があり、満身創痍で顔面蒼白なのにもかかわらずだ。しかし、どうしてだろう。おっさんが生きていたことを喜ぶべきなのに、本能が危険を察知している。ヤメロ、ハヤクニゲロ。サモナイトシーー
「っくん! マっくん!マっくんってば!」
「っあ……。ま、舞子……?」
そこでようやく思い出した。俺は一人で屋上に来た訳ではなかったと。
「お、おい……あ、あれは一体……?警備員のおっさんを助けに行った方がいいんじゃ……?いやでもどうやって?そもそもあいつらは何なんだよ……?どうやって………」
「マっくん!!しっかりして!とりあえず一旦教室に戻ろう!」
「お前はどうしてそんなに冷静でいられるんだよ!!人がーーー 人が喰われてたんだぞ!」
「そりゃ私だって驚いてるよ!!でもここでウジウジしてても状況は変わらないんだよ!!そんな暇があったら早くみんなと合流した方がいいんだよ!!」
「っ! …………わかった、もう大丈夫だ。ありがとな、舞子。」
「うん!」
ーーそれでも、心の内では不安が広がり続けていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「おい、おいおいおい……。どうなってんだよこれ……!?」
屋上から教室に戻ると、クラスメイトの塚田が怪我をしていて、有久が縛られていた。
「……ぉお、真斗。遅かったじゃねぇか。心配したぞぉ?」
「何言ってんだよ正博!?俺らが屋上行ってる間に何があった!?」
「落ち着け簗月。どういう訳か有久が突然奇声をあげて塚田に噛み付いたんだ。その後塚田は気を失って、有久もとりあえず縛っておいた。ところで簗月、お前屋上にいたんだろ?なんか校門の方が騒がしかったんだが?」
「そっ、そうだ!先生、訳のわからない集団が校内に侵入して、警備員を攻撃してたんです!」
「謎の集団?それは有久の暴行と関係するのか?」
ぅぅぅぅぉぉぉぁぁあ。
ーーそれは小さな呻き声だった。それなのに物凄く鮮明に聞こえた。
〔 ArchiveNO: 0012.1338 〕