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羊の三題噺。

【三題噺】硝子玉の中の壊れた関係。

作者: シュレディンガーの羊
掲載日:2017/01/08



きっと世界はもう壊れかけていた。

扉を開けた瞬間にむせ返るような薔薇の香りが、私の体を包み込む。

暗い部屋の中、引き裂かれたカーテンの傍らに彼女は佇んでいた。


「……ビー玉みたいだわ」


そう彼女が囁く。それが独り言だったのか、私に向けられた言葉なのかはわからなかった。

日に翳した硝子球が、彼女の頬に涙のような影を落とす。

無意識に踏み出した足が何かを踏んだ。目を向けたそこには薔薇の花束。深紅の花弁は醜くひしゃげていた。

それが意味するものに、私はとうとう自分の罪を自覚させられた。

顔を上げた私を待ち構える世界は、もう幸せな昨日には戻れない。


「私たちの生きる世界は、こんな風にちっぽけ」


ふっと彼女の指からビー玉が転がり落ちる。

やっとこちらを見た彼女の瞳は暗く澱んでいた。


「ねぇ、教えて頂戴」

「…………違うの」


思わずかぶりを振った私に、彼女は人形のように首を傾げる。

さらりと肩口から頬へと流れ落ちた髪で、彼女の表情が見えなくなった。


「ちがう?」

「違うの、私はただ、」

「ただ?」


うまく息が吸えない。

わかっている。わかっているわかっているわかっている。

それでも、むせ返るような薔薇の香りが思考を酔わせる。狂わせる。


「そんなつもりじゃなかったの……! あなたを傷つけるつもりなんてなかった!」


絞り出したその言葉はなんて、醜いんだろう。

ゆっくりと彼女が瞬きをする。

次の一言を私は祈るような思いで待って、そして、


「それでも、あの人は私の婚約者だったのよ」


彼女の瞳から零れ落ちた雫の、その美しさ。

彼女が損なわれていくその様を見て、私は今更に思い知る。

『君は彼女を壊しても良いと、そう思っているのかい?』

抱きしめるその腕を振り払えなかった代償は、なんて。

伸ばした手に身を翻した彼女は、引き裂かれたカーテンの向こう。

もう、帰らない。





一時間で三題噺を書く企画で書いたおそらく3作目。

お題は、薔薇、ビー玉、雫。

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