暗い森の中で僕は少女と出会う。
聞きなれぬ”何か”の声が聞こえ湿気を纏った生暖かい風が頬に張り付いて来て僕は目が覚めた。
明日からの高校生活に心を躍らせながら荷物の準備をし遅刻をしないようにとアラームを
三重にかけたのを確認してベッドに入り寝たはずだった。
それなのに目が覚めてみれば、ふかふかベッドの上ではなく湿気を吸って少しベタベタとした
土の上だった。
一体どこだここは……?
服に張り付いている土を落としながら秋人はゆっくりと立ち上がる。
辺りを見渡すと空は暗い雲に覆われていたが、時折雲間から顔を出す月がここが何処なのかを
教えてくれた。背の高い木々が生い茂り、辺りは勾配の無い地面が続いていた。
月明かりが照らしてくれたのはありがたかったがやっぱりここが何処かは分らなかった。
とりあえず僕は森を出ようと歩き出す。後ろから相変わらず”何か”の声が聞こえるし徐々にその声はこちらに向かって来てるのが分った。
「こういう謎の声からはとりあえず逃げるのが定石だよな漫画とかよく逃げてるし。」
……そういう奴らって大抵やられてない?
自分で不安を生み出しながらも声とは正反対のほうへ進んでいく。
しかしどれだけ歩いても景色は変わらず一度元いた場所に戻ろうと後ろを振り返っても自分がどっちから来たのか分らない程森は姿を変えていなかった。それでも僕は休むことなくひたすら歩き続けた。
2時間ほど歩いたところで少し疲れたので休むことにし、僕は辺りを見渡し一本だけ切られている木を見つけその切り株に腰を下ろした。
「どんだけ広いんだよこの森……」
溜息をつきながら空を見上げる。
木が切られているお陰でこの場所だけは空が良く見え空に掛かっていた雲はいつの間にか薄れており徐々に月が顔を出していた。月が出てきたなら進みやすいと思ったのも束の間、空に現れた三日月がここは自分の住んでいた世界ではないと教えてくれた
――三日月の中心には地球があった。
ここから見える地球には日本らしきものが映っており地球の青さが月の鮮やかな黄色をより強くさせていると思わせた。その現実離れした光景に呆気をとられていると突然後ろから声がした。
「あら、人間が来るなんて珍しいわね。でも今日はもう帰りなさい。」
突然の声に驚き、立ち上がろうとしたが体に力が入らずその場に倒れこんでしまう。
体力の限界が来ていたとか、足を怪我して立ち上がれなかったのではない、
文字通り体から力がストンと下に抜けていきその場に倒れこんでしまったのだ。
倒れこみながらも力を振り絞って顔を動かし声の主を見るとそこには
自分と同じ位の年齢と思われる少女が傘を差して立っていた。
「君……は……?」
「もし、もう一度会えたらその時教えてあげるわ。だから今日は帰りなさい。」
彼女のその言葉を最後に僕は意識を失った。
目を開けるとそこは自分の部屋のベッドの中だった。