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浅葱色の春  作者: 冬馬 凪
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伝承Ⅳ

登場人物紹介



〜主人公〜

如月(きさらぎ) 蒼人(あおと)

私立弥生学園二年生→私立星ヶ丘大学二年生

本作の主人公。

夜明、緋菜とは中学校時代からの幼馴染。

小5の春休みの記憶を失くしている。夜明、白音とはクラスメート。

実は恥ずかしがり屋な一面もあったりする。



〜ヒロイン〜

浅葱(あさぎ) 白音(しらね)

私立弥生学園二年生

本作のメインヒロイン

蒼人と夜明のクラスメート。さぼり常習犯で成績上位者。

学校では何も喋らない、笑わないことから無言無感情の冷徹姫などと呼ばれている。だが面倒見は良い。実は感情を失ったわけではない・・・・?



各務原(かがみはら) 緋菜(ひな)

私立弥生学園二年生→私立東山大学二年生

蒼人、夜明とは中学校時代からの幼馴染。

二人とは違う大学へ進学した。喫茶店アリスでバイト中。

男女問わず人気で特に女子の後輩からは絶大な人気を得ている。カジュアルファンションが好き。高校一年生のとき京華とクラスメートだった。


〜主要人物〜


さゆり

私立星ヶ丘大学一年生

蒼人、夜明の後輩。

明るく、可愛いいがなぜか友達がいない。

蒼人にいつも奢らせている。

蒼人たちの過去に関係しているらしいが・・・?


奏多(かなた) 夜明(よあけ)

私立弥生学園二年生→私立星ヶ丘大学二年生

蒼人と緋菜とは中学校からの幼馴染。

蒼人などいろんな人から頼られるみんなの良き理解者。


柳瀬(やなせ) (はるか)

喫茶店アリスの店主

昔は魔女と呼ばれていた。

蒼人たちの過去を知る数少ない人物。伝承について何か知っている。

不可解なことについて正体がわかったらしい。


名取なとり 京華きょうか

私立弥生学園二年生

蒼人と白音と夜明のクラスメートで委員長。仕切るのが上手い。

神社の一人娘でもある。


名取なとり 真澄ますみ

京華の母親。遥とは知り合いのようだ。

4月20日


終桜祭まで、今日を含めてあと5日。


どこのクラスを見ても準備で忙しそうで、うちのクラスも担任の授業を潰してまでもやっている。本当にそんなことやっていいのかは是非ぜひを問うが、担任自体がやる気があって自ら時間を差し出したのだ。だから俺たちは何も心配することなく作業に取り掛かっていた。


委員長が俺を見つけるなりこちらへ近づいてきた。


「如月くん。ちょっとメニュー見てくれる?」


俺は委員長から手渡されたメニュー表(仮)を開いてみる。

するとそこには綺麗に達筆で書かれた品目名、和風っぽさをイメージしたイラスト、装飾が施されていた。

しかし、品目名を見てみると、お抹茶と団子セット、お抹茶とアイス最中セット、お抹茶とお抹茶(冷ため)セットなどと素晴すばらしくもレパートリーが無いうえに最後の品目名を二度も凝視ぎょうししてしまった。

最後のあのセットはなんだ、飲み物2種類とかこれ考えた奴誰だよ。


俺はすかさず声を出した。


「おーい!このメニュー考えた奴だれ??」


「あ、それ俺が考えた」


「おい夜明。この最後の奴なんだよ」


「ほかに思いつかなかったから」


「お前仮にもお茶屋の息子だろ・・・」


「まあ。お抹茶を立てることくらいならできるぜ」


確かにお茶屋の息子が教えてくれるのは物凄い心強いのだが、それに合わせてメニューも考えるように頼んだのは失敗だった。


「わかった。今日の帰りにこの間行った石坂のショッピングモールの和風カフェいくぞ」


〈私も行っていい?実際作るときに参考にしたいの〉


俺に話しかけるときたまに行うこの制服をちょこんと掴むこの仕草に俺はいつまでも慣れずにいた。


俺は少し照れた仕草をし、いいよと返事を返した。


俺は彼女の仕草を見て、逆に不安なことも思い出してしまった。

あれからというものの時間の停止が起こっていない。


あの話を聞いてから俺は一つの仮説を立てた。

あのおとぎ話のような物語が仮にも真実の話だとして、あの願いの対価というものが時間の静止なのではないかと思っていた。

だがしかしそれを立証するような証拠も根拠もない。

それほど今の俺たちには情報が少なすぎるのだ。

誰にも話せていない、こんな忙しいときに話してもいい気がしない。

そんなもどかしさが胸の中に残っていた。



無言の彼女は彼の表情を見ていた、苦しんでいるような感じがしていたその顔つきを胸に刻んでいた。




授業後に俺と夜明、白音の3人で石坂ショッピングモールに向かった。

生憎あいにく、緋菜は自分のクラスの出し物で忙しいようで、誘いを断っていた。


俺たちは店内に入ると店員さんに案内された席に着くと偶然にも前回来た時と同じ席だった。

俺たちは5分近く手渡されたメニュー表を眺めていた。


「二人ともメニューは決まったか??」


〈私はこの抹茶の和風パフェにするわ。蒼人は?〉


「俺はそうだな・・・抹茶のシフォンケーキにするかな」


「二人ともそう行くのか、なら俺はぜんざいにしようかなー!すみませんー!!オーダーお願いします!」


彼は透き通る声で店員さんを呼んだ。彼はこういうのは得意だが俺は苦手な方なのでいつも任せている。


「そういえば白音ちゃんは作る当番だっけ??料理とか得意なの??」


〈作るといっても前日にある程度作り置きしておくけど一応厨房ちゅぼう担当よ。まあ料理はそれなりにできるわ〉


「そうなんだー。得意料理とかあるの??」


〈肉じゃがとか得意な方だわ。作るのは大変だけど〉


俺は二人の会話を傍観していた。すると夜明がタイミングを見計らって話を振ってきた。


「蒼人も料理得意だったよな?」


「あ、ああ。うちの家族で料理ができるのが俺と父さんだけだし、そんな父さんも今出張だから俺が作っているし」


〈意外だわ〉


「逆におばさんと瑠璃さんが作れないのが不思議だな」


「本当にそうだよ。母さんも瑠璃るり姉ちゃんも全く作れないのが不思議だよ」


俺は愛想笑いをした。これがちまたで流行りの遺伝ってやつですかね。


「まあ、俺の家族の話はまたにして。ほら頼んだものが来たよ」


俺たちは各々が頼んだものを口に運ぶ。その美味しさは絶品であった。

以前来たときもここのデザートを頼みその時もお茶屋の息子である夜明さえもここのデザートには唸っていた。実際、夜明の両親もここのデザートを好んでいるらしい。そんなお茶屋のお墨付き(非公認)もある本格的な和風デザートを出すこの店を参考にするほかないのだ。


「やっぱりおいしいなー!このざんざいの白玉もいろんな味の種類があってバラエティーゆたかだし、なんといってもこの量!!普通の店と同じぐらいの値段だけど量は2倍近くあるから、ぜんざいだけでもお腹が膨れる!」


俺は饒舌じょうぜつな夜明の喋りを聞いた後、自分の頼んだシフォンケーキに手を付けた。

やわらかいスポンジに特製の小豆の生クリームを付けて食べると、口の中で甘さが広がりスポンジがすぐ溶けてしまう感覚だった。いつの間にか俺は無意識に言葉を放っていた。


「おいしい・・・・!!」


するとなぜか得意げに夜明が説明した。


「だろ!!流石、この守川市で5本の指に入る絶品デザートの店だよな」


「え!?そんなに有名な店なの!?」


「最近注目が集まってきたんだよ!だから早く来ないといつの日かこのデザートを食べるのにも凄い時間を掛けることになるぜ」


「甘いもの好きだよなー夜明は」


「まあな!でも個人的に一番おいしいのは沢山の種類がある中で特にミルフィーユが美味しい星が丘大学の近くのケーキ屋さんなんだが名前は忘れた」


〈ピール・ヴィルメのことかしら?〉


「そうそう!そんな感じの名前だった!白音ちゃん行ったことあるの?」


〈あるわよ。確かにミルフィーユはおいしかったわ〉


俺はこの後の夜明の言葉を予想もしていなかった。いやそれよりもその言葉を聞いた彼女の反応に驚きを隠せなかった。


「白音ちゃんはスイーツが好きなの?」


彼女は文字を打っていたしかしそれよりも早く夜明の言葉が先行せんこうした。


「それとも好きな人とスイーツとか食べに行くための予習とか??」


彼女の手が止まった。ただそれだけではなかった。彼女の瞳には何も映っていないように見えた。

そういえば前も教室で終桜祭の出し物を決めたときにも今思い出せば彼女の瞳はこんな感じだったような気がする。あの時は”ありがとう”だったけど今回は何が引き金になったのか全く分からなかった。


彼女はしばらくすると文字を打ち始めた。


〈私、お手洗い行ってくるわ....〉


彼女はすぐに席を立ち、席を外した。

彼女の姿が見えなくなると俺は夜明に向かって少しばかり荒い口調で言った。


「夜明!!いきなり何言ってるんだよ!」


「白音ちゃんには申し訳ないことをしたと思ってる。」


「なら・・・!!」


「あくまで予想なんだが彼女は昔好きな人を失ったのかもしれない」


彼女は本当は何を失ったのか。いや誰を失ったのか。

俺たちは分からなかった。


一人を除いたテーブルに少しだけむなしさが残った。







「なんでそんなことが分かるんだよ」


「だから言ったじゃんあくまでも推測だってさ」


確かに言われてみればそう言ってた気がする。俺は冷静さを取り戻す。


「本当にお前は白音ちゃんのことになると焦るよな」


「べ、別にそうでもないから」


俺は必死に隠そうとした。次第に俺の額から汗がこぼれてきた。


「まあいいけどさ。でさっきの続きいいか??」


「ほら、さっきの続きな」


「お前明らかに話題変えられて喜んでるだろ」


俺は苦笑いをした。しかし付き合いが長いとこういう会話に広がるのは正直悪い感じはしない。一人で居るよりもずっと。

それこそ起きたとき病室に一人でその前の記憶がない不安と孤独に比べれば。


「ほら、先に進もう」


「嘘付くの下手すぎ」

彼は小声で言っていたがなんとなくは伝わってしまった。


「まあ不本意だか話を戻すぞ。この間、白音ちゃんには特別に反応する言葉があるって言っただろ?」


確かに言い方は違ったかもしれないがそういう話をしたことは覚えている。

俺は頷き、彼はこちらの様子をみて話を続けた。



「白音ちゃんは英語で言うlikeとloveによって反応が違ったんだよ」


「そのままの意味で理解すればいいのか?」


「そう、かな。likeの好きは以前このカフェで緋菜が和風のものは好きという問いに対して平然というか何事もなく返事を返していた。それは今回の場合もそうだっただけど、好きな人つまりloveの好きには拒絶反応かはよく分からないが、少なくとも俺の目から見ても彼女の瞳は何も写してないように見えたんだ」


最後の一言は俺の感じたことと全く一緒だった。


「やっぱり踏み込むべきなのか・・・」


「蒼人からそんな言葉が出るとは思ってもいなかった」


「そうだな・・・。でも今後も一緒に過ごしたいとお互いに思っているなら分かり合う必要があると思う。すぐじゃなくてもね」


「じゃあ、自分の過去を話してみるとか?」


「等価交換とか言いたいのか??生憎、俺には記憶がないし等価ではないよ。向こうが不利なだけだよ」


すると白音がお手洗いから戻ってきた。

先ほどよりも顔色は良くなり、俺は安堵した。

俺と夜明は小さな声でこの話はまた今度にすると約束をして、平穏を装った。



彼女は席に着くなり携帯を取り出した。


〈先ほどは申し訳ないわ。ちょっと体調が悪かっただけよ〉


「なら早く帰った方がいいんじゃないか?」


「これ以上体調を悪化させてもいいことないと思うよ」


俺たちは二人続けて心配の声を募らせた。


〈心配しなくても大丈夫だわ。他のメニューも頼みましょ。まだまだ食べて確認したいものがたくさんあるわ〉


確かに顔色も既に話を切り出す以前の状態に戻り大丈夫そうだ。俺は一応無理はしないように彼女に告げた。


〈次のメニュー頼むわ〉


俺はとっさに言葉が出た。


「え、まだ食えるのかよ・・!?」


〈他にも調べたいメニューがあるわ。だから昼ご飯を抜いたわ〉


「マジかよ・・・」


俺と夜明は彼女の真剣さに絶句した。

そこまでやる必要はなかったと思うがここは彼女のやる気を買うしかない。


「わかった。俺は白音が満足する最後まで付き合うさ。で夜明はどうするんだ??」


「もちろん、俺は大丈夫だぜ。スイーツは別腹、スイーツ男子舐めるなよ」


俺は安寧のため息をつき、メニューを開いた。




注文した品がテーブルに並んだ。

今度は俺が抹茶と黄粉のわらび餅を頼み、白音があんみつ、夜明が小豆ロールケーキを頼んだ。


各自は頼んだ品に手を着けた。


「やっぱり美味しいな・・・!!白音のも美味しい??」


〈ええ、美味しいわ。こっちの食べる??〉


俺はつい嬉しくてとっさに反応した。


「あ!食べる、食べる!!」


次の瞬間、俺は彼女の予想もしなかった行動に驚いた。


彼女はスプーンで具材をすくい、そのスプーンを俺のわずかに開いた口の中に入れた。


この出来事には隣にいた、夜明も驚いていた。それどころか周りの人たちにも見られている気がする。


驚きはあったものの、俺は嬉しかった。

体温が上がったのか顔周りが熱い。他の音は遮られ、胸の鼓動だけがしっかりと聞こえる。彼女に惚れていることは、もちろん理解していた。だけど今まで「恋をする」ということに疎かったせいか、告白されたことはあっても、その相手を受けいれることはしなかった。自分の中で自分が好きになれるか分からない相手に対して中途半端な気持ちで付き合っていいのかといつも思っていた。ある時、夜明に言われてたことがある。

「蒼人さーなんで告白されてもOKしないわけ??知らない子だから?」

「いや、その子のことを知らなくてもこれから知っていいけばいいとは分かってるしそう思ってはいる。でも俺は自分も相手も“一生隣にいたい”と思える相手と一緒にいるべきだと思うんだ」

「蒼人。お前の恋愛観はお前の自由だけど、今時そんな恋愛する人なかなかいないと思うぞ?でもちゃんと告白してきた子たちも本気だったんだから彼女たちの気持ちも理解ぐらいしてやってもいいんじゃないか」


あの時は自分の恋愛観をバカにされた気がして、あまり後半の所を意識したことがなかったけれど、今なら分かる気がする。「恋をする」ということがどんな形であれ相手に届けたい知ってもらいたい。ということが。


たとえ、届かない相手だとしても。届けたい。


俺は強く思った。


すると、その思いに呼応するように、頭の中に一人の少女がふと思い浮かんだ。唯一俺が覚えているあの時の記憶、草原で出会ったあの少女。

もう一人の届かない相手。

あの時の俺は・・・

いや、止めておこう。もう進むはずのない関係を考えても仕方ない。今は前に居る彼女との未来を望むことが俺の願いだから。





俺は口に入った甘いものを舌に移し、噛んだ後に喉へと通した。

その味は普段食べるものとはまた違った味がした。


「美味しいよ。白音」


俺は笑顔で彼女にそう言った。


























みなさん本当にお久しぶりです!冬馬凪です♪

まずは更新が忙しいとはいえなろうでは2ヶ月の放置申し訳ございません。これからも2ヶ月放置など多忙のためありえるかもしれませんがご理解のほどお願い致します。


というわけで伝承編も終わりがみえてきました!!

伝承編が終わったら次のタイトル何にしようかなとずっと考えてましたが、次は前夜祭編にしようかなと思っています♪さあ四人の関係はどのように動いていくのかぜひ注目していてください♪

今回も読んでいただきありがとうございました。

次回もよろしくお願い致します。


1800pvありがとうございます!!


冬馬凪

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