表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
浅葱色の春  作者: 冬馬 凪
4/7

伝承Ⅱ

一方、蒼人と白音とはぐれてから約10分後。

人混みから抜け出せた夜明と緋菜は少し落ち着いたところで休憩していた。


「蒼人たちにメール送ったんだよね??何か返事返ってきたの?」

「いや何も返事は返ってきてないな。二人で買い物しているんじゃないか?」

「そっか....」


彼女は軽くため息をついた。その理由は彼には気づいていた。


「俺が相手ではご不満でしょうか?お嬢様?」


俺は執事のポーズをして彼女を茶化した。


「やめてよ夜明ー!からかわないで!」


彼女は笑っていた。

その笑顔を俺はずっと見てきた。

いつもの笑顔。

俺やクラスの友人たちに見せる笑顔。

しかし、昔見たことがあった。

中学3年のとき俺が委員会があって、二人を待たせていたときだった。

緋菜が蒼人に見せる笑顔は、今まで見たことのない笑顔をしていた。

そのとき二人に声をかけようとしていた俺はとっさに隠れてしまった。

二人はただ会話をしていただけなのに、俺は頭ではなく本能的に隠れたのだ。

ただただ悔しかった。

俺と二人きりのときでもあんな笑顔したことがない。

見たことない緋菜の一面があることを知った。

だからこそ俺はあの時を忘れることができない、しっかり目に焼き付いている。


「おーい夜明!!聞こえている??」


突然掛けられた声にびっくりした。


「あ、ああ。聞こえてるよ。ちょっと考え事してただけ」


「夜明が考え事?珍しいね!」


まあなと俺は返事をした。そして思い出したように話を続ける。


「そういう緋菜もさっきまで考え事してたよな?」


「う、うん。」


この返しは話上手な緋菜も詰まっていた。何を考えていたのかは分からないが、思いつきで行動しているような緋菜にしては考え事は珍しい。

まあ人のことはあまり言えないが。いつも考え事をしているのは蒼人ばかりなので、こちら側の対応は二人とも不慣れである。

そんなことでも考えていると携帯が鳴った。

確認してみると、蒼人からのメールだった。


〈返信遅れて悪い。こっちは買い物終わったけどそっちは大丈夫か??とりあえず俺たちは、最初に入った店の向かいの店で休憩してるからこれたら来てくれ。〉


内容を確認した俺はすぐに返信を返す。


〈ごめんいまは・・・〉


俺は打ちかけた言葉を消して打ち直す。


〈わかった。すぐに向かう〉


「なんてメール来たの?」


「最初にいったお店の反対側にあるお店で休憩してるってさ」


「じゃあ私たちも向かおっか」


「そう・・・だね。」


本当は嫌だった。もっと二人で過ごしたかった。

でもそんなわがままは通じない。

俺たちは蒼人たちのもとへ歩き出した。


「時間結構経っちゃったね」


俺は腕時計を見てみると休憩し始めてからすでに10分経っていた。


「そうだな。お互いに考え事してただけどな」


「そうだね!」


緋菜は笑っていた。本当に彼女はよく笑う。その笑顔を見た人たちも一緒に笑うことができる優しい表情。

だからこそ思う彼女の泣いた顔なんて見たくないと。


「さあ早くいこうよ!!」


俺は彼女に手を引かれていた。


「おう!!」


俺はそのままつられて歩いて行った。




3分後 俺と緋菜はお店の前に着いた。

店の前で窓越しに蒼人と白音がいるか探していた。

彼らは窓から一番遠い席に座っていた。かといってこちらからも見える位置にいるので、気づくように手を振ったが二人は気づかず、会話に夢中のようだった。


「二人とも気づいてないなこれ」


俺は緋菜に話しかけたが彼女は軽く下を見て二人を見ないようにしていた。すると突然呟いた。


「二人とも本当にお似合い.....」


その言葉は皮肉交じりだった。しかし彼女自身に言い聞かせるようにも感じた。


「そうだな。」


「ん?何のこと??ごめん聞いてなかった!」

やはり先ほどの言葉は無意識に発した言葉だったようだ。

彼女に本能で敵わない。いや叶わないと悟ったのかもしれない。

だが本当の気持ちは彼女しか知らないのだ。どの方向に向かうのであれ、決めるのは俺ではない。


「届くよ。きっとね」


緋菜は首を横にかしげていた。



俺は待つことに決めた・・・すべて終わるまで。







俺と白音はイヤリングを買った後、何処で休憩しながら夜明と緋菜を待とうか考えていた。

その悩んだ結果として俺たち二人は和風カフェで休息を取っていた。


「二人とも遅いなー」


〈もうそろそろ来るんじゃないかしら?メールはちゃん送ったのでしょ??〉


「うん返信も返ってきたし」


そんな話をしていると噂の二人は店内に入ってきた。

彼らは店内に入るなりすぐにこちらの方に向かってきた。

俺は少し驚きその理由が知りたく話しかけた。


「二人ともよくすぐに俺たちがここにいることに気づいたな」


すると緋菜は不満そうな顔をしてその問いに対する答えを出した。


「だってさぁ、さっきから二人に手を振ってたけど気づかないから来たんだよ??」


「それはすまん!!」


俺はすぐに謝った。


まあいいけど。などとちょっぴり緋菜はご機嫌ななめの様子だった。

それを見て夜明はやれやれとした表情をしていた。


二人も席に座り、オーダーを取り俺たちは雑談をし始めた。

最初は4人で雑談していたがいつのまにかガールズトークが盛り上がってきて男二人はなかなか口が出せなくなってきた。


「なんでこのお店にしたの?もっと洋風のよさそうな店もあったけど?

しーらは和風が好きなの?」


〈まあ和風は好きよ。でも理由はそれだけじゃくて、終桜祭で和風喫茶をやるから参考にしようと思ってね。ところで緋菜のクラスは何をやるのかしら??〉


「たこ焼だよ!!いろんな具をいれたり、ロシアンルーレットのやつも作ったりしてね!!」


〈それは楽しそうね。必ずいくわ〉


「待ってるね♪」


かれこれガールズトークは1時間続いた。


その後何店舗か回って俺たちは石坂ショッピングモールを後にした。

空の色も暗くなってきたのですぐに駅に向かった。




「次は~ほしおか。星が丘」

車掌のアナウンスが車内に響き渡る。

その駅は今朝一度降りた駅であった。


「俺、アリスに忘れ物したから取りに行ってくるわ」


「そうか」

「じゃあねー!!」

〈蒼人またね〉


俺は三人と別れの挨拶を交わして車内を後にした。


忘れ物をした。というのは嘘である。

遥さんには聞きたい事があった。

俺と二人だけで。


俺は急いで、喫茶店へ向かった。





俺は店内に入ると、そこには手を振って俺を出迎える一人の女性が立っていた。


「やあ、来るのが遅かったな蒼人。買い物は楽しかったか?」


「なんで買い物行ったこと知ってるんですか.......」


「まあ店の前で結構大きな声で喋ってたからな」


ふうと俺はため息をついた。


「というか、俺が戻ってくること知ってたんですか。」


「あくまで推測だよ。推測」


本当ですかねなどと適当に相槌をうって俺は本題に移るため話を切り出した。


「で、本題に入るんですが。あのじk・・・・」


すると彼女は俺の発言を見越したように割り込んできた。


「時間の静止についた何かわかったなら話してください!!ってところか??」


本当にこの人と話すと自分のペースを崩される。

いや、そもそもこの人は相手にペースを乗せさせずに自分のペースに持っていく。そういう種類の人間だった。


俺は、再びため息をつき返事を返した。


「はい。遥さんの言ったとおりです。でもなんで分かるんですかね?」


遥さんはとても楽しそうに笑っていた。


「まあ君のことは君以上に知っているのかもしれないな」


「それは観測者としてですか?」


「まぁそうなのかもな」


今度は二人で笑っていた。そして遥さんは口調を変えて再び話始めた。


「それで先ほどの答えだが、大体は把握した。が答えというもの自体は私も理解できていない。そもそも答えというものが定まっていないし」


「個人的には原因か正体もしくはこの時間の停止が最終的にもたらす結果・・ですかね」


「結果だけはおおよそ予想できる。」


「それは・・・・?」


「蒼人。お前も大体は予想できているんじゃないのか?」


「時間の永久的な停止ですかね.....?」


「私もそこにたどり着いた」


俺は頭ではなんとなく予想はできていた。二回目の時間の停止の時から。


「ならそんなことになる前に一刻も早く・・・」


「私にはどうこうできる問題じゃないんだ。私が介入したところで何も変わらない。だから君たちで解決するしかないんだ」


「それは観測者としてですか?」


俺は再び同じ質問を問いかけた。

しかし先ほどと違い言葉に皮肉さを込めた。


「まあそれもある」


彼女は曖昧な表現をした。そのまま言葉を続ける。


「君に嘘はついていない。だけどこちらにはこちらの立場がある」


「遥さんには何かと助けられているので疑っているわけではないんですが、できればもっと協力してもらいたかっただけです」


「すまないな。今回ばかりは。だがヒントを教えよう」


俺は息をのみ彼女の言葉を聞いた。


伝承・・だよ。またあいつが関わってきてる」


俺たちのよく知る伝承が本来ならば、願いを叶えるはずの言い伝えだが、その伝承が俺たちに牙を向いたのだと言う。

実際、過去に一度俺に牙を向いたこともあった。

なのでその言葉はすんなりと受け入れることができた。


「また伝承ですか・・・一体伝承とはなんですか?前回の時も結局よくわからなかったですし」


「それを含めて自分たちで解決してくれ」


「分かりました。それともう一つ質問いいですか?」


「ああ。もちろん構わない」


「白音って感情がないとか学校で噂されてるんですが、そんなことありませんよね??」


相手の先を読むことが得意な遥さんでも流石にこの質問は予想してなっかたらしく一瞬の戸惑いを見せたが、その後は笑っていた。


「君からそんな質問を聞くとは思っていなかったよ。そうだな答えはイエス。彼女は感情を失ったわけではないよ。それよりも君が人の暗い部分へ関わろうとするとは思わなかった。あああれか、さては白音ちゃんに一目ぼれでもしたか??」


「まあそれは置いといて」


俺はすかさず話題を変える。だが彼女は見越したように、言葉を割り込んできた。


「感情を失った理由とかを聞くならダメだよ。そんな個人情報私が教えるわけない。それが知りたいなら白音ちゃん本人に聞くべきだ」


「本当に怖いです遥さん。あなたは何者ですかね」


「ただの町の喫茶店の店主さ」


「わかりました。また何か聞きたいことがあったら連絡します」


「ああ来い。質問やヒントならいつでも答えてやる」


俺は会釈をして店を後にした。




店内に流れる落ち着いたBGMをただ一人で聞くこの店の店主は独り言を呟き始めた。


「蒼人。君が思っているより事態は深刻だ。このまま時間の停止が続いて時の永久的な停止になったとき君に恨まれるかもしれない。なぜ教えなかったのかと。でも私には役割がある。君たちを結末を見届けるための観測者としての役割が」


彼女は自分で淹れた珈琲コーヒーを口に付けた。

一口飲み終えるとテーブルにカップを置いた。


本当は気づいていたのかもしれない。けれど確信などなかったし、それを裏付けするような理由もなかったから。だけど既に条件は出揃っている。

なら導き出される解答こたえは一つしかないのだ。

しかし、その問題には数学や物理とは明らかに違う点があった。


「人の感情というものまで計算に入れるのは難しいな」


彼女は微笑み、再びテーブルの上にあるカップを手に取り口を付けた。


「今日のコーヒーはちょっとばかり苦いな」


そう呟き彼女は店の仕事に戻った。






こんにちわーっすを流行らせたい冬馬 凪です。

前回から投稿頻度が早くなりましたー!理由として単純に文字数から察する通り短くしました。これからは1話あたりだいたい4000~6000になると思います!ご理解のほうよろしくお願いします。

お知らせはこの辺にして、伝承Ⅱご覧いただきありがとうございます。

本当は前回のデート部分をこっちに持ってきたかったのですが、最初のほう一人称が蒼人くんから夜明くんに変わっているのお気づきでしょうか??夜明&緋菜ペアの視点で前半は書いております。

実はここを番外編に持っていこうと思ったのですがそうすると緋菜、夜明共にそれぞれの相手を思う部分が本編で少なくなっちゃうかなーと思って無理やりくっつけました。なので読みにくいかもしれませんごめんなさい。

というわけで番外編は登場が最近まったくないさゆりちゃんと蒼人くんの出会いについて書いてます。

いつぐらいに投稿するかは作者の根気次第ですw

だんだん物語は伝承の核心に迫っていきます!4人のそれぞれの恋はどうなるか?楽しみにしていただければ幸いです。

あさいろを読んでいただきありがとうございました。これからもあさいろをよろしくお願いします。

 追記300PVありがとうございます!!                                                                                  冬馬 凪

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ