出会い
2016年4月6日
空は雲一つない快晴で、太陽の光が直接浴びてぽかぽかする。
また時々吹く春風はとても気持ちがいい。
俺は学校にいくため町を歩いていると町中が騒がしい。
それもそのはず、この守川市では4月の26日から30日まで終桜祭という市になる前からずっと続いてきた伝統的な行事があり、町の人たちは3月の下旬辺りから祭りの準備を始める。そのせいかいつもこの時期になるとみんな忙しそうに準備に取り組むのだ。それほど、この祭りを楽しみにしている。年々規模も広がっていき都市部の企業も参入していくほど大規模になっている。
元々この祭りは森に棲む神様にこれまでの加護の感謝とこれからも守っていただけるようにお祈りするための祭りなのだ。
そしてもう一つ伝えられているものがある。ある伝承だ。
森の中のポストに願いを書いた紙を入れれば叶うなど言われているが、誰もそのポストさえ見たことがないので、この話は夢物語のように伝えられてきた。
「願いか....もし叶うならそのとき俺は何を願うのだろう」
ボソッと独り言を呟いた。すると後ろから聞き馴れた女の子の声が聞こえた。
「蒼人。願いって何のこと?」
誰もいないと思っていたのに、急に話しかけられたので俺はびっくりした。そして恐る恐る後ろを見ると知っている顔だったので安心して言った。
「な、なんだ、緋菜か、びっくりした」
「えー!私の存在に気付いていなかったの?5分以上後ろにいて何回も話かけてたのに!私のほうがびっくりだよ!」
緋菜は嘘をつくような人柄ではないのであっさり俺はその言葉を信じた。
それにしても、俺は相当悩んでいたということになる。
「ところで、もう一回聞くけど願いって何のこと?彼女欲しいとか?」
「ちげーよ。伝承のことだよ。伝承。」
「蒼人はあれ信じるの?」
「わかんないけど、ポストやら、そこに咲いている浅葱色の花びらの桜とか見つけたら信じちゃうかもな」
「まぁ私もそんなかんじかなぁ。森の中のポストはまだしも、その桜の木見つけちゃたらね...」
「まぁあくまで伝承だからな」
俺と緋菜で話していると、その声に気付いてか、一人が前方からこちらに駆け寄ってきた。
「お二人さん朝から何話しているの?」
「おはよう夜明。伝承のについてだよ。」
「さすがに、はなからは信じてないけど、珍しい桜の木とかあったら信じちゃうなーって」
「珍しいか。なら今日の俺たちもなかなか運がいいと思うぜ」
『え?』
俺と緋菜は思わず感情を口に出してしまった。
「ほら、前を見てみろよ。俺たちと同じ学年の浅葱白音だ」
同じ学校なのに2年目にして初めて見た彼女の印象は想像していたのとは違い、普通の人とは何か違う感じがした。
「あれが、浅葱白音か...」
「え?蒼人見るの初めてなの??といっても私も見るのは三回目なんだけどさ」
「まあ見たことのないのも無理もない、出席日数は単位をぎりぎり落とさない程度で来ているさぼり常習犯。しかしその一方で、成績優秀、その見た目はまさに大和撫子。まぁ不思議系美少女って感じか」
「学校に来たくないのかな??」
「そういえば何か噂みたいなのなかったけ??」
「あーあれか、誰とも喋らない、笑ったところを誰も見たことない。
〈無言無感情の冷徹姫〉っていうやつ?」
「あ、聞いたことあったわその噂のこと。浅葱白音のことだったのか」
すると緋菜が自分の腕時計を見て慌てて二人に向けて言った。
「早く行かないといつもより早く家を出た意味ないじゃん!
二人だってあの人込みが嫌だから今日早く来たんじゃないの?」
「やばい!すっかり忘れてた!緋菜サンキュー」
「クラス替えの発表は混むから嫌なんだよなぁ」
俺たちは急いで学校へ向かった。
その時、少女は一人の男子生徒を目で追っていた。
彼女は心の中でどこか彼に似ている気がしていた。
俺たちは学校に着くなり昇降口に向かった。案の定、人はそう多く来てはおらず、すんなりと新しいクラスを確認することができた。
しかし、そのあと俺は自分のクラスの出席番号1番を見ていた。
ただ俺は嬉しさのあまり呆然と立ち尽くしていた。
すると夜明が話しかけてきたが、反応に少し遅れてしまった。
「俺たちまた同じクラスだな!!・・・・どうした?俺たちはつくづく運がいいってことか??」
「そ、そうだな!!ラッキーだな俺ら!」
夜明はため息をつき会話を続けた。
「悪いことは言わない。浅葱白音はやめとけ」
「それはどうゆう意味?彼女が冷徹な姫だからか?」
「いや。普通に考えてだよ。何で誰とも喋らない、一回も笑わないんだよ。本当に人間かよ」
「夜明、流石に言い過ぎだ。彼女には彼女なりの理由があるんじゃないのか?」
「そうだな、言い過ぎた。いままで関わりなかったから何も知らないのに」
「いいじゃねぇかこれから関わっていけばさ。同じクラスなんだし」
「そうだな。とりあえずまた一年間よろしくな蒼人!」
「おう!よろしくな!」
すると一人だけクラスが別になった緋菜が不機嫌そうにしていた。
「なんで私だけE組で二人はB組なのよ!」
俺はすぐにフォローを入れる。
「まあいいじゃねか俺たちばっかりじゃなくて他にも友達つくればさ」
「まだ違うクラスは百歩譲っていいとしても、なんでE組は旧校舎なの!!」
「それはその・・・E組が一番最後のクラスで、新校舎に入りきらなかったからかな.....??」
緋菜はムスーっと顔を膨らませた。
「まぁ落ち着いて、今日帰り早いから帰りにカラオケでもいこうぜ」
夜明ナイス。俺は心底思った。
なぜなら、緋菜は大抵のことがない限りカラオケの誘いを断らないほどの大のカラオケ好きであるからだ。
その効果は覿面ですぐに緋菜は嬉しそうにして、誘いにのった。
そして各自の教室へと向かう。
「緋菜じゃあ、あとでなー!」
「またあとでねー!」
授業が終わった後俺らはすぐに駅前のカラオケ店に行き、かれこれ俺らは5時間も歌い続けた。
「緋菜はやっぱり歌上手いな!点数勝負しても勝てる気がしない」
「ありがと!でも、もうちょっといい点数取れた気がするんだけどなぁー」
「あれで本領じゃねぇのかよ、お前凄いな」
「褒めすぎだよ夜明ー!」
あながち緋菜は嬉しそうだった。
しかし三人で並んで他愛もない会話をしているときだった。
突然俺の見ている景色が静止した。
広場の噴水の水は噴き上げられたまま空中に静止し、すれ違う人々の声も途絶え、時計の秒針も動かない。
この場でただ俺一人だけがこの静止下で行動できている。
どうして俺以外が静止しているのか理解できなかった。
いや、正確には考えている間もなく元に戻ったのだ。
その秒数わずか10秒。その間に、俺が進んだ距離は5歩。
しかし10秒とはいえこの事態をほっといておけるわけがない。
時が止まる前と変わらない会話をしている二人に振り向いて話しかけた。
「二人ともこの後時間あるか?」
「あるけど」
「俺もあるけど急にどうした?そんな強張った顔して」
なぜこんなことになっているのか彼女なら知っているかもしれない。
そして、以前にも俺を助けてくれたように今回も。
「魔女に会いに行く」
時の停止が起きてから30分後
俺たちは魔女の棲む館・・・ではなく喫茶店に到着した。
俺たちは店に入るとそこには大人びた雰囲気の女性が立っていた。
彼女は誰かと話していたが、すぐに俺たちが入ってきたことに気付き、
すぐに会話を止めて、こちらの方へ来て出迎えてくれた。
「いらっしゃい。久しぶりね蒼人。今回はお友達も連れてきたの?」
「お久しぶりです遥さん。」
「初めまして各務原緋菜です!」
「初めまして奏多夜明と言います」
俺たち三人は順番に挨拶をしていった。
魔女こと柳瀬遥はこの喫茶店のオーナーである。
俺は以前ある事件に巻き込まれた際に遥さんに助けてもらい俺が信頼を置く一人であり、怪奇にも詳しい人である。
そして遥さんは本題となるものを問いかけてきた。
「で?蒼人何が起こった?話してみなさい」
「はい。二人も聞いていてくれ」
二人は息を呑んで頷いた。
すると先ほど遥さんと話していた人がこちらへ近づいてきた。
先ほどは物陰に隠れていて気付かなかったが、それは意外な人物であった。
「白音ちゃんも興味あるのか?」
その美しい少女は遥さんの問いにこくりと頷いた。
俺たち五人は一つのテーブル席に座った。
席に座るなり浅葱白音は携帯電話を取り出し文字を打ち出した。
〈何があったのかしら?〉
彼女は画面を見せてきた。喋らないではなく、喋れないのではないのか。病気での障害、事故での障害などいずれかの理由で言葉を発することができなくなったのであろう。だが俺はこの事について言及しなかった。自分自身、過去の記憶がないことを言及されるのは気持ちが進まないこともあり、他人の過去にはなるべく干渉しないようにしてきた。今回も例外ではない。そして緋菜も夜明もそのことに言及しなかった。
そして俺は覚悟を決めて言葉を発した。
「時が止まったんだ。俺以外のすべてが。」
『え?』
緋菜と夜明は驚いている。むしろ普通の反応であるだが、残りの二人は驚くことなく真剣な表情で、考え始めた。
すると一人が文字を打ち込み始めた。
〈どのくらい時間は静止していたの?〉
「10秒くらいかな。何か思い当たることある?」
〈申し訳ないけど何も当てはないわ。ただ一つ疑問があるのだけど〉
「俺が答えられそうなことだったら何でも答えるよ浅葱さん」
〈白音でいいわ。それで疑問というのは....本当に止まっていたのはあなただけかしら?〉
俺は30分前を思い返していた。あの時は分からなかったが今ならわかることがあるかもしれないと。しかし思い返しても自分以外が止まっているという認識しかなかった。
「少なくともわずか10秒では俺以外は止まっていた」
〈そう〉
少女は打ち込みを止めてしまった。初めて彼女と会話を交わした印象として噂通りだった。表情どころか、文面からも感情が篭ってない。過去に何があったのだろうか気になってしまった。俺らしくもないことを考えた。
すると遥さんが会話を続けた。
「いろいろ気になることがあるな。」
「何か思い当たることがあるんですか?」
「いや、ない。だが情報は必要だ。さっき白音ちゃんが言ったように他に静止下で動けるものがいるかどうか、範囲はどのくらいか、頻度はどのくらいか......など知りたい事は山ほどある。だからまた時間の静止が起こったらここに来い。私たちができる限り協力する。」
「ぜひお願いします。」
するとさっきまで驚いていて状況も掴めなかった二人も覚悟を決めたみたいだった。
「俺たちも協力する。なにが起こったかは正直今でも信じられないけど、困った時に助け合うのが友達だから」
「私たちだけ蚊帳の外は嫌だもんね!」
すると先ほど黙り込んでしまった少女も再び文字を打ち込み始めた。
〈私も協力するわ〉
素っ気ない文章でも俺は素直に嬉しかった。
「みんなありがとう。何かわかったら連絡をしてくれ。そうだ白音、メールアドレス交換しないか?そのほうが情報共有するのに便利なんだけど・・・・どう?」
〈いいわよ。ついでに緋菜と夜明も交換しましょ〉
すると二人は名前を呼んでもらえたことが嬉しかったのかすぐに返答した。
「よろしく!白音ちゃん!」
「よろしくね!しーら!!」
〈しーらという呼び方はどうなのかしら〉
「まあ、こういう奴らだから気にしないでくれ」
遥さんも笑っていた。その後、雑談を30分ぐらい話して俺たち3人は店を後にした。
俺たちの最寄り駅は全員同じなので、いつもの下校と同じように話していた。
「白音ちゃん、ぜんぜん思っていた印象とは違ったなぁ」
「だろ?人を見かけで判断するのはどうかと思うぞ?夜明」
「以後気を付けるようにするよ。でも無言無感情は本当だったな」
「そうそう!でも何か好きでやってる感じじゃなくてそうなってしまったっていう感じがする」
「きっと過去に何かあったんだろうな。」
「きっとつらい何かだろうね.....」
「ならさ、私たちが感情とか取り戻せるようにしようよ!一緒に遊んだりすればいつかはきっとね.....!」
「そうだな時間はたっぷりある。まだ俺たちは16歳だし」
この時はあの時間の停止のことなんてすっかり忘れていた。
この1秒1秒、時間は経過していく。
あの少女との出会いは俺たちの時間の感覚を歪めていった。
出会い編(終)
こんにちは。冬馬凪です。
前回はプロローグとして投稿しましたが、今回から本編に入りまして、タイトルは「出会い」となります。
ここから先はネタバレ注意です!
「出会い」からは新しい登場人物の白音ちゃんが登場します!えっ!?さゆりちゃんは出ないの?と思うかもしれませんが、その質問に答えるならば、
はい。出ません(笑)なんせ本編は2019年の蒼人たちが、さゆりに話している回想になっております。もしかしたら今後出てくる可能性はありますが、当分は出てきません。
そして話は戻りますが、新しい登場人物の白音ちゃんは、察しの良い方はお気付きかもしれませんが、ヒロインです。
今後、白音ちゃんは感情などをとり戻せるか!?また蒼人の気持ちは如何に!?
そして忘れてはいけない伝承とは何か!?など少しずつ影をちらつかせるのは、次の「伝承」になっていおります。また次のお話「伝承」で会いましょう。
浅葱色の春を読んでいただきありがとうございました。次回もよろしくお願いします。
冬馬 凪