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輪の外に架ける橋

作者: 影山 ゆきひろ

輪の外に架ける橋


人は誰でも一生に一度だけその願いが叶うといいます。でもたいていの人は臨終の間際に安らかに天国へ導いてくださいと願ってしまうのだそうです。勿論その前に願いをしてそれが叶ってしまう人もいます。それが本当に真剣な願いであれば必ず叶うのだそうです。


私にも勿論願いがありました。その願いとは※※※(皆さんの願いは何ですか?心の中で思ってください)です。


皆さんだってこうなりたいとか、これが欲しいとか、そういう願いがあると思います。私の願いは深刻なことでした。そしてそのことでずっと悩んでいました。そしてもしこの願いを叶えても次にまた別の願いが生まれたらどうしようと思ったので、ずっとそのままでいてしまったのでした。


でも私には心の支えになってくれる人がいました。それは民雄という幼馴染でした。彼はいつも私の傍にいてくれるとても大切な人でした。


「そのうちなんとかなるさ」

彼はそう言っていつも私を勇気付けてくれました。それで私はその悩みをなんとかやり過ごすことが出来たのです。


ある日、私の前に俊介という人が現れました。そして私がそのことで悩んでいるのを知ると、自分がそれを叶えてやろうかと言い出したのです。私は同情なんていらないと彼に言いました。それに俊介がそんなことをしてくれなくても私には民雄という親友がいたのです。だから民雄がいれば俊介の安っぽい同情なんて不必要だったのです。


しかし俊介は懲りもせず私をよく訪ねて来ました。私はそれが迷惑でした。このままでは私から彼を遠ざけてくださいという別の願いが出来てしまうと思いました。


俊介は突然私の前に姿を見せたかと思うとぷいとどこかへ消してしまうことを繰り返していました。それでそんな根なし草みたいな人は信用出来ないと思ったのです。


私はとうとう民雄に頼んで俊介が二度と私の前に姿を見せないように約束をさせたのでした。するとそれまではしつこく私を訪ねて来た俊介がぴたりと姿を現さなくなったのです。私は新たな願いが出来なくて良かったと思いました。


ところが嬉しいことは続くようです。それから少しして私の願いが突然叶ってしまったのです。私は飛び上がらんばかりに喜びました。これであれこれ悩む必要がなくなったのです。私はきっと民雄がその願いを叶えてくれたのだと思いました。それで軽やかな心と体で民雄のところへ飛んで行ったのです。


私は民雄に会うと早速願いを叶えてくれてありがとうとお礼を言いました。すると民雄はそんなことを自分はしていないと言うのです。実は民雄は私たちの幼馴染のむつみと結婚したいと願ったのでした。それでその願いが叶って来週二人は結婚をすることになったから、私にもその式に来て欲しいと言ったのです。


その時私の頭には俊介のことが浮かびました。私はまさかと思ったのですが、気になって彼の家に走りました。もしかしたらあの願いを叶えてくれたのは俊介かもしれないと思ったからです。


私はどうしてそんな余計なことをしたのだと思いました。そしてこんなことをしてもらっても本当に迷惑だと思ったのです。それに私は彼のことをあんなに邪険に扱ったのです。だって彼とは何でもないからでした。幼馴染でもなければ、親友でもないのです。全くの他人だったのです。


やがて俊介の家が遠くに見えて来ました。しかしどうも様子がおかしいのです。なんとなくたくさんの人が彼の家に集まって来ているようでした。私は走るのをやめて歩き出しました。そしてようやく彼の家の前まで来ると、そこではお葬式をしていたのです。私は弔問に来た人をつかまえて誰が亡くなったのかを聞きました。するとそれは俊介でした。


「本当に良い人を亡くしましたね」

 私はその場で茫然としていると誰かが声を掛けて来ました。


「ずっと患っていた病気で亡くなったのですよ」

「俊介は病気で亡くなったのですか?」

「自分の病気のことを願えばこんなことにはならなかったのに」


「どうしてそうしなかったのですか?」

「誰かの願いを代わりに願ったのですよ。それで自分の病を治してくれとは願えなくなってしまったのです」


「その誰かって?」

「さあ、それはわかりません。俊介はその人の名前を言わなかったようです。もしかしたら願いが叶った人も俊介が願ったことを知らないのかもしれませんね」


「でもそれって両親とか恋人とか、そういう方の願いを叶えたのでしょう?」

「いいえ、それは違うようです」

「では、どなたの願いを叶えたのでしょうか」

「きっと見ず知らずの方か、それほど親しくない方だと思います」


「どうしてそんな他人の願いを叶えようとしたのですか?」

「自分が恩を受けたり、愛情を抱いている人に報いることは、そこだけで終わってしまうことだからです。そしてそのような関係では却って良くないことも生まれます。それは甘えです。受けて当然、与えて当然ということです」


「だから見ず知らずの人にするべきだということですか?」

「はい。相手が他人だからこそ本気になれるのです。何故ならそれが当たり前なことではないからです。そして相手が自分のことを知らなければその見返りもないからです。見返りを期待する気持ちはその行いを歪めます。また見返りを受け取った時に、自分の行為が形あるものに置き換えられ評価されるのです。それが過小なものなら心が挫かれるし、過大なものなら驕りが生まれるでしょう」


「他人にこそ思いを尽くすということは、その人から改めて好かれるためですか?」

「いいえ。今度はその人がお返しだと言って自分の願いを叶えようと思わないためです。その人がまた別の誰かの願いを叶えてくれるためです。そしてそのことがどんどん世界に広がって行くためです。だから俊介があなたの願いを叶えたのだとしても、今心に抱いている気持ちを他人のために遣ってくださいね」 


後から聞いた話だとそれは俊介のお母さんだった。俊介は日ごろからそのようなことを母親に言っていたらしい。そしていつ自分が死んでも決して悲しまないで欲しいと話していたらしい。自分の心はそうやってみんなの心に広がって行くのだからと。

 


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