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スキから始まる君と僕の物語  作者: 豊本 高弘
第6章 金曜の夜に
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第1章 Third Person-4

「――な、何? 私の顔に何かついてる?」


 眼鏡の彼女は咄嗟にキャスケット帽を目深にかぶり直した。


「あーっ!」


 綾の中で何かが確信めいたのかその場で立ち上がると、眼鏡の彼女を指差した。


「どうしたんだ綾、急に立ち上がって」

「あ、あ、あ、あ……!」


 指差している右手が震えている、まるで何かを見つけたのかのような表情だった。


「あ、あ、AYS(アイス)の、秋山(あきやま)(ひとみ)……!」


 その名前を聞いて祐二は頭上にはてなマークが浮かび上がる、ふふっと軽く笑う眼鏡の彼女は目深にかぶっていた帽子をそっと上げた。


「えへへっ……当たり♪」


 二人に聞こえるか聞こえないか位の小声で答えた。

 綾の言うとおり彼女の名前は秋山瞳といい、AYSというユニット名で活動しているメンバーの一人である。

 突然出会った有名人に綾はミーハー心ながら興奮しながらも手を差し出す、それに応えるように瞳も手を差し出し二人は握手を交わした。


「綾、この人有名な人なのか……?」

「あ、そっか。祐二ってあまりテレビ見ないもんねぇ」


 綾はやれやれと肩をすくめ呆れ顔に変わりながらも祐二へ瞳について説明を始めた、それを聞いて祐二は何もかも初めて聞いたリアクションを続ける。


「あはは……本当に私のこと知らないんだ」


 物珍しい彼に瞳は笑みを浮かべ、三人は楽しそうに話を弾ませた。

 唯一祐二は綾へは同い年の相手に話すような口のきき方をしていたが、恥ずかしさもあってか瞳へは常に丁寧語で応対した。

 次第に時は流れ、店の窓からオレンジ色の光が射し始める。

 店内に掛けられた時計は午後五時になろうとしていた。


「――でねっ」


 その時である、瞳の携帯が鳴りすぐさま電話に出た。


「もしもし?」

『――トミー、寮からいなくなってどこ行ってたノ! 私心配でかけてきたんだヨ!』


 直後片言の日本語を話す女性が電話越しに怒る声が聞こえる、あまりの大声に瞳はいったん受話部分を耳から離した。


「ご、ごめんなさい……帰るから」

『オーケイ、今どこにいるのか教えてヨ』


 瞳が今いる場所を説明すると相手はそれがどこなのかわかったのか、すぐに相手は電話を切った。


「マネージャーさん、もうすぐこっちへ迎えに来るって」

「そうなんだ。あーぁ、もっとお話したかったなぁ……」

「ごめん綾さん、これからもっと私たちのこと応援してねっ」


 その一言に綾は笑顔で頷く。

 この時彼女の表情はどこか寂しげな表情を浮かべていた、祐二はすぐさまそれに気付いたものの綾がいる中で理由を聞けなかった。

 そこへ一台の黒い乗用車が喫茶店の前に止まる、これを見て瞳は二人へ手を振りながら店を出た。

 窓の外から見て瞳が急ぎ足で黒い乗用車に乗り込む、マネージャーが運転する車だったようだ。

 すぐに車は発進していき、見えなくなった。


「行っちゃった……」

「さって、僕たちも家に帰るか――」

「あーっ!」


 祐二が帰るよう則そうとした時、突然綾が何か思い出したように席を立ち、何があったのか祐二は尋ねた。


「サイン……秋山瞳のサイン、もらっときゃよかった……」

「そ、そうか……」


 一生に一度のチャンスを逃したかのように綾はその場で泣き出した。



 その頃マネージャーが運転する車の中で瞳は窓の外を眺めながら、寂しそうな表情を浮かべていた。


「――ほんとは、逃げ出したかったのにな……」

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