第1章 Third Person-1
世界中がこの国で行われたビッグイベントに熱狂し、日本中が感動した初夏の街。
朝の気象情報でこの地方は梅雨が明けたと伝えられた日曜日、高校二年生の竹内祐二は左腕に付けている腕時計で今の時刻を確かめる。
正午を過ぎて約一時間、時刻はもうすぐ一時になろうとしていた。
彼は今待ち合わせをしているところだが、今のところ相手がここへ来る気配はなかった。
「アイツ、また遅刻か……?」
かけているスクエアフレーム型の眼鏡をそっと上げながら疑問がつぶやきになって出た直後、彼の携帯電話に着信が入る。
祐二はジーンズのポケットからシルバーの二つ折り式携帯を取り出し、背面の小さな液晶画面で相手を確認するとすぐ電話に出た。
「はい竹内――」
『もしもし祐二ぃ? あたし、綾だけど……』
「そんなことくらいわかってる、画面に出るんだから」
祐二は電話の相手であるクラスメイトで幼なじみの大嶋綾へ適当にあしらう、「そうだったね」と言いながら電話越しに綾は苦笑した。
『ごめん、あたしそっち行くの遅れるから』
「了解。それじゃあ近くの喫茶店で待ってるよ」
『でね? 悪いんだけど、祐二に頼みがあって……』
綾が申し訳なさそうな言い振りで話す、それによると今人気の少女漫画を買っておいてほしいというものだった。
その漫画のタイトルを聞いて祐二はすぐに察する、彼もまた勉強する際に休憩の一環で彼女から借りて読んだことがあるからだ。
用件を聞いて電話を切った祐二はその場を離れると近くの本屋へ入っていく、その中にある“今や社会現象!”とポップ広告が謳う新刊コーナーで残りあと数冊という漫画本を手に取った。
「……やっぱり、恥ずかしいな……」
レジへ向かう彼の表情は少し顔が赤かった、今まで読むことはあっても買ったことがないためである。
「――ありがとうございました」
ホッとした表情を浮かべながら本屋を出た祐二はそのまま喫茶店へ入る。すぐに人目が付かない一番奥のテーブルに座って店員へ暑さしのぎになる飲み物を注文すると、綾が来るのを待つ。
席についてさっき買った物を早速読むために漫画が入っている濃紺色した半透明のビニール袋を破こうと手にかけたが、これは頼まれた物のためやめにした。
「――綾のヤツ、遅いな……」
やがてやってきたクリームソーダを一口ストローで吸って飲みながら窓の外を眺めた、思い思いの足取りで行き交う人々が目に映る。
季節柄半そで姿が多く、暑そうに手の甲で汗を拭う者やハンカチをうちわ代わりに扇ぐ者もいた。