プロローグ
雨が降る夜の街中を走り抜ける一台のシルバーのミニバン。
金色に輝く短い髪をポニーテールに一目見ると外国人に見間違そうな顔立ちをした若い女が運転している、その隣の助手席に一人と後部座席に二人の少女が乗車していた。
「みんな今日はおつかれさまッ、明日はオフだヨ!」
前を向いたまま片言の日本語でそう話しながら運転している長い金髪の女。それを聞いているのかわからないが、少女たちの表情は沈んだ表情をしていて重苦しい雰囲気を見せる。
「――どうしたの? らしくないよ、いつもきっちりやってるのに……」
助手席に座る赤いアンダーフレームの眼鏡をかけた長い黒髪の少女が、背後のシートに座るやや長めの茶髪の少女へ叱っていた。
「ごめん……」
叱られた少女はすぐに謝るものの、それほど空気は変わらない。
「あの、お菓子……」
関西訛りで喋る明るい茶色のショートヘアーの少女が手に持っていたスティック菓子を二人へ手渡そうとするが、それを黒髪の少女が止める。
しばらくして車は広い通りを抜け、大きな建物の地下ロビー横で止まった。
「おつかれさまでした」
三人が頭を下げながら言った後に車はその場を走り去っていく、それを見送ることもしないまま長髪の少女がエレベーターへ向かった。
この時茶髪の少女の心の中で、今までを振り返る。
追いかけていた夢と今ここにいる現実のギャップに違和感を覚え、自分が自分でないのではないかという思いが生まれた。
「どないしたん?」
関西訛りの少女が声をかける。
「えっ? あ、なんでもないなんでもない! さ、ご飯食べよ?」
明るい表情で答えたものの、すぐにそれは暗くなる。
「決めた……私、アイドルやめる!」
誰にも聞こえていないところで決めたことを声に出していた。
その意思は強く、次の日彼女は姿を消した。