旅の記憶
記憶はいつも断片的なイメージでしかなかった。
それは、さながらバラバラなモザイクの様な物・・・
前後の脈絡はほとんど忘れてしまった。
時間的な順序も定かではない。
しかしそのひとつひとつは奇妙に鮮やかに残っている。
牧場の殲滅戦――突然群をなし襲いかかってくる、群、群、群・・・
それは妙に現実感を失わせる光景だった。
煉獄の河で見た溶岩流に踊る亡者達――己もまた、業火に灼かるる列に加わる事となるのだろうか・・・
妖虫の死屍、一瞬の静寂、後に見ゆるは、さらなる地獄。
異空間――流れゆく星の瞬き。
死すべきさだめの人の子を、彼の地に誘う道しるべ・・・
若かりし日々――金になりそうな物なら、煤けた腰巻きから欠けた短剣まで、後生大事に持ち帰る。
日々の糧を得るにも苦労していた、あの頃。
密林の中――数かぎりなく繰り返された攻防。
神経の焼き切れそうな緊張の連続、断末魔の叫び、汗と血のにおい。
衝撃と激痛、迫り来る煉獄と獄寒。
おびただしく流された、異形のモノ共の血、血、血・・・
これらの記憶に順序がふりあてられ、正しく配列される事は決してないだろう。
そうするには、あまりに多くのものを見過ぎてしまったからだ。
それだけに・・・闇の底にこぼれおちてしまった記憶がどれほどになるものか。
自身にも見当がつかぬ事。
もっとも、実質の時間はたいしたものではない。
わずか一年にも満たぬ事だった。
――だが、物理的な刻の量は問題ではない。
わずかでしかない時間のうちに、並みの人間の何倍、何十倍にも相当する経験を積み重ねて来たのだから。
そして・・・
今もなお、旅は続く・・・・