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8月12日 静岡県 ■■■山中 PMC「Andel:corp」
我らがバレリーナを森へ送り出した後、売人である三人の大学生には死んでもらった。
規定上は『戦略目的以外の味方の殺害は禁止』とあったが、彼らとバレリーナの関係性はどこかで断ち切っておく必要があった。今の所、お咎めもないので戦略的な理由があると判断されているんだろう。実際、彼らは不安を口に出し過ぎていた。俺達としても知らない土地の戦場で、不確定要素を排除しておきたいのもあった。
何よりも、俺達の雇い主は根源的に売人が嫌いなのだ。その憎悪がいつのまにか俺達にも浸透していたのかもしれない。
先行していたジェフから通信が入った。
「200メートル前方、なんだありゃ。鍋だ。鍋が吊られている」
「ブレアウィッチプロジェクトみたいだな」
「茶化すな。爆発物かもしれん」俺は各員に周囲を警戒させる。「ジェフ、それ以外に何か見えるか?」
「鍋、皿、スプーン――食器です。畜生、マジで気色悪いな。コックはいないはずだろ?」
「相手は魔女だぜ」とルーカス。
「警官と医者とピアニストだ」俺は訂正する。「警官は、バレリーナの証言によると『エネルギーを損なわず銃弾を反射させる』ギフトを持っている。それとついさっき『狙撃による長距離射撃の反射』が確認された」
沈黙が降りる。俺は不安を感じさせない程度に素早く説明を続けた。
「射手型は本国でも確認されている。連中は弾の弾道を演算し、一発をぶちこむことに命をかけている。ライフルによる火力で制圧すれば問題ない」
ギフトホルダーといえど、相手はたったの三人だ。
小隊丸ごとで戦闘に引きずり込んで、数と面の圧力で捻りつぶしてやればいい。
「それより問題はピアニストだ。こいつは射手と同じような演算能力だが、罠と確率計算を使用する」
ルーカスが笑い声をあげる。緊張を適度にほぐすには必要な行為。
「それの何が問題だ? 隕石の落下に警戒しろってか?」
「こいつのギフトは『天才』だ。射手型が弾道計算に使っているリソースを現実に適用させている。こいつの予測は現実をひりだす」
狙撃手のジョッシュが指定の座標に到達し、狙撃の許可を求めてきた時、本当に嫌な予感がした。何処行きか分からねえ地下鉄に押し込まれちまった時のような感覚だった。そして、ジョッシュが許可を待たずに「着弾」の一声を挙げた時、その悪意に気付かされた。
ジョッシュは撃たされた。
それを理解した時、俺は撤退を叫んでいた。少し遅れて、観測手のパウエルの悲鳴が聞こえた。「撃たれた」と。
どんな間違いがあったら、スナイパーライフルで狙撃した直後にリボルバーで反撃が飛んでくるんだ。混乱するパウエルを宥めている間に、ジョッシュのバイタルサインが途絶えた。本部の解析班に言わせりゃ『発射したNATO弾を撃ち返された』だそうだ。ベースボールじゃねえんだぞ。
ともかく、そんな化け物達とやり合うことになった俺達は、悪魔の森の深部までやってきた。半分は死ぬかもしれない。だが、半分が死ぬ間に三人を殺すことは可能だ。
前進を続けていると、ジェフの言っていた調理器具が見えてきた。ルーカスが「気味が悪い、切り落とそう」と提案したので、念入りに罠を確認してから落とさせた。
その時だった。遠くから金属音を弾くような音が近づいてきたのは。
ヒュッ、スパンという間抜けな音がして、ルーカスが倒れた。
ルーカスが撃たれた。
「伏せろ!」
―――カン、キン、カン、カン、キン、
何かが、何かが俺達を探し回るみたいに、頭上を跳ねまわっている。それは一発の銃弾で、フライパンを、ボウルを、食器たちを楽器のように鳴らしながら、おぞましい速度で跳ねまわっている。
「うわあああああッ!」
パウエルがライフルを空に向けて発砲した。チュイン、と音がして、パウエルが静かになった。銃弾に見つかった。パウエルは見つかってしまったのだ。
また、
遠くから、金属音が、飛んでくる。
俺の小隊は、声を出した者、音を出した者、息をひそめていた者、立ち上がった者、逃げ出した者、降参した者、特攻した者、祈っている者、指揮をとっていた者の順番に死んでいった。
ルーカスは正しかった。俺達の相手は魔女だ。




