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前世を思い出した勇者に勇者パーティーを追放されました

作者: 新井福

お読みいただきありがとうございます。

 その日は、ようやく西の魔物を倒し終えた記念すべき日だった。


 夜の帳が下りた小さな村で、酒場だけがホタルのように光っている。中は賑やかで、小柄な女の子が木のジョッキを掲げた。


「ではでは! 西の魔物討伐を祝しまして、この勇者パーティーの一味である王国魔法使い・セラフィーが音頭を取りましょう! かんぱーい!」

「いやぁ、ようやく一つの脅威が去ったんだ! 今日は店主である俺の奢りだよ!」


 気前の良い言葉に、酒屋にいた人たちがワッと沸く。セラフィーの飲みっぷりに数人からの歓声も上がった。


 ――それを、僧侶であるユリウスはほろ酔いの心地よい気分で見つめる。糸目でいつも通り目は開けてないが、目元は柔らかい。


「良いですねぇ、平和って感じで」

「あー! ユリユリも今日は飲んでるんだ!」

「その呼び方はやめてくださいセラフィー」


 既に顔が真っ赤なセラフィーに指さし確認された。

 いかん、このままでは一気飲み対決の相手にされる。酒に弱い自分は退避退避。無理だと思ったらすぐ逃げるのが、僧侶として生き残るコツだ。


 酒屋の隅っこに移動して温かな喧騒を見守っていると、骨張った手に肩を叩かれた。

 顔をすいと上げれば、見知った顔がある。


「……やぁ。勇者は遅れて登場ということですか? せっかくの宴ですから、羽目を外したらよろしいのに。セラフィーを見てください、調子乗って賭けに魔法の杖出してますよ」


 バチクソ貴重で王国魔法使いの証とも言える杖を。失くしたら権利剥奪の上悪くて幽閉されるほどの代物を。


「……っ、酒は飲み過ぎるなといつも言っているのに。ありがとうユリウス、行ってくる」

「頑張ってください、レオン」

 僧侶は非力なのだ。


 背を向けたレオンだったが、走り出すポーズのまま後ろを振り向いた。


「ユリウス。……この後、酒場の外に来てもらってもいいか?」

「……レオン、それは」


 手の甲を顔に寄せた。


「これなのですか? すみません、私にはそーゆー趣味はないのですが……」

「違うっ! もっと真剣な話だ!」


 顔を真っ赤にするレオンに軽く笑いながら了承する。


 だがユリウスは知らなかった。これから自分が裏切り者だろうと疑われることになるとは、これっぽっちも。


◇◇◇


「ユリウス、俺は今日の戦いで、いわゆる前世の記憶というやつを思い出したんだ」


 一度酒場を出れば静けさの方が近くなり、冷たい風が頬をなぞった。

 そこで明かされた話にユリウスは首を傾げる。


「ゼンセのキオク、ですか?」

「あぁ。なんてゆーか、俺がレオンになる前の記憶? が出てきたんだよな」

「魂が巡った、ということですか? 我が国の教えでは、魂とは一度だけ生死を体験できるというもの。貴方異教徒ですね?」

「前世は仏教徒だからな。多分真言宗辺り」


 話がズレたな。レオンがそう取り成し、ユリウスを見据えた。数年一緒に旅をしたとは思えない剣呑な視線に、ピクリと糸目も動く。


「まぁ俺の前世はどうでもいいんだ。大事なのは、前世で学んだ知識のことだ。あのな――糸目キャラは、裏切り者が大半なんだ」

「はい?」


 意味が分からず問い返せば、噛みしめるようにもう一度、


「糸目キャラは裏切るんだ」


 と言われた。


「――いやいやいや!? 例えそういうジンクスがあったとしても今の私を信じてくださいよ!?」

「いや、もしかしたら今までもずっと魔族と繋がっていたのかもしれない」

「貴方そんな疑心暗鬼なキャラでしたっけ! 勇者ならもう少し信じてください!」


 ユリウスは崩れ落ちた。三人で過ごした思い出が走馬灯のように蘇る。


 セラフィーに尻に火をつけられレオンと二人で熱くて走り回ったこと。

 レオンと共に川のヌシと戦い食べたこと。

 セラフィーの魔法で性転換させられたこと。

 三人でビールを飲んだこと。

 喧嘩をしてレオンと拳で戦った際、ボッコボコにされたこと。

 それから、力を合わせ魔物を倒してきたこと。


 大抵碌でもない記憶だが、それでもユリウスにとっては充実していたというのに……。


「い、糸目だけで裏切り者なんて……」

「いや、声もだ。裏切り者をよく担当している声優と似てる」

「でっかい声で泣きますよ? 見たいんですか?」


 じゃ、ソユことで。


 レオンはそそくさと酒場に帰っていく。ポツンとユリウスだけが取り残されて。


 勇者パーティーから追放された。


◇◇◇


 西から東へ。三人から二人へ。

 鬱蒼とした森を抜ける最中、セラフィーがそっとレオンを見上げた。


「ねぇ、なんで追放したの? ユリユリ、大事な戦力なのに。私癒やしの魔法は使えないよレオたん」

「知ってる。大丈夫だ、怪我をしなければ良いんだから」

「レオたん脳筋〜」


 ケラケラ笑う彼女は怒ることもせず、いつも通り笑ってくれる。それに少しだけ心が救われた。


 前世、レオンはどこに出しても恥ずかしいニートだった。そんな彼の趣味はラノベを読み漁ることで。最近はもっぱら勇者が魔王を倒すありきたりな話を読み耽っている。

 そこで、好きだった糸目の僧侶キャラが死んだ。他人を裏切った末の自業自得エンドではなく、北の魔物を討伐したと気を抜いていた勇者が魔物の自爆に巻き込まれそうになり、攻撃圏外へ突き飛ばし代わりに自分が死んだのだ。

 前世のニートは泣いた。太ってたからブヒーと泣いた。


 そして不条理を嘆き十年ぶりに外に飛び出した所で、トラックに轢かれたのだ。

 なんて無様な最期。この話は墓場まで持っていこうと決めている。


「大丈夫だ、きっと俺たちは魔王も倒せる」

「あったりまえじゃん。死ぬとか私の辞書にはないし」


 二人で背中を合わせる。周りには低レベルな魔物たちがズラリ。東の魔物の手下だろう。

 包囲されている。


「不安か?」

「何が? むしろ気にする子いなくて楽なくらい……!」


 セラフィーが杖を垂直に持ち、呪文を唱えた。瞬間白い光と共に閃光が駆け抜け、魔物たちが灰のように消えていく。


「とりあえずは持久戦、蹴散らしていくぞ。東の魔物が出たら俺が相手をする。援護を頼む」

「オッケー。白兵戦は任せたよ」


 二人は一斉に走り出す。セラフィーの魔法が炸裂する音が響き渡った。



 ――戦いは一昼夜続いた。最後はレオンが東の魔物の首を落としたことで戦いが終わり、手下だった魔物たちも消えていった。

 朝日が目に眩しい。二人は目をショボショボさせながら、宿に戻る。


「……あー疲れた」

「私もさんせ〜い。宿でのんびりしよ」


 いつもは僧侶であるユリウスが癒してくれていた戦いの疲れが体を蝕む。体が動かない、という久方ぶりの感覚に意識が遠のきそうになった。


「レオたん、あとでマッサージして……」

「なんで俺が……」

「あー! 体痛い! ユリユリいないから体が痛い!」

「喜んでやらせていただきます」


 お互いを支え、罰当たりにも剣と杖で地面をつきながらフラフラ歩く。ポツリとセラフィーが小ちゃく口を開いた。


「ねぇ、やっぱりなにかあったの? ……やっぱコレ? 振られた?」


 杖を持ちながらヨロヨロと自分の顔に手の甲を当てる彼女に、呆れながら「違う」と言う。


「そうなんだ。……言えないようなこと?」

「どうしても言わなきゃ、駄目?」


 笑ってみるが誤魔化せなかった。じっとりした視線をお見舞いされる。

 数秒見つめ合って。最初に白旗を振ったのは頑固者と名高いセラフィーの方だった。レオンは目を見開く。

 彼女は太陽を追いかけるひまわりのように違う方向に顔を背けた。


「私が生まれたところさ。人同士の繋がりがさうっすいの。道端で転んでも誰も助けてくれないし、なんなら早く立ち上がらないと馬車に轢かれそうになるくらい」


 顔をすっかり伏せてしまったセラフィーの表情は伺えない。


「だから助けて欲しいなら大声で叫ばなくちゃ。……助けて欲しい?」

「いいや、まだ大丈夫」

「そっか。それならいいや」


 にぱりと快活に笑ったセラフィーがレオンの頬に自身のを寄せうりうりする。

 今夜飲むビールの話を始めた彼女に、今日はやめとけと諭しながら苦笑した。


◇◇◇


「秋は日が強いですよね。思わず目をつむって歩いてしまいそうです。おっと、私は元々糸目でした」


 自虐発言をかましながらユリウスは北へ向かう道を歩いていた。ポーションを託すためだ。

 今日新聞で、東の魔物が討たれたと報じられていた。きっと二人は疲弊しているだろう。宿に事前に届けておいたポーションを飲んでいると良いのだが。


 道中は平和そのものだった。魔物が数を減らしている、というのもあるがユリウスは二人の戦いを邪魔しないよう隠密を習得しているからだ。


「……二人に会いたいですねぇ」


 目を開ければ良かったのだろうか。だが元々の顔立ちに難をつけられてもしょうがないというものだ。


『もし、そこの男』

「いやぁ、この山を越えたらもう北ですね。ポーションの材料も仕入れなければ」

『そこの糸目の男……』

「えーっと、今足りない材料は」

『そこにいるイケメンで優秀そうな感じの、優しい男オーラ全開で女の子にはお金を出させなさそうな男……!』

「……っ、誰かが私を呼んでいる!」

『遅い!』


 振り向けば、草木の色が深い暗い部分に()()がいる。その禍々しい雰囲気にひゅっと喉が詰まった。


「貴方は、魔王」

『よく知っているな。そうだ』

「どうして私の前に」


 魔物の薄っぺらい真っ黒な手が暗闇からこちらに伸びた。


『今日は引き抜き、というのに来たのだ。どうだ、一緒に世界を侵略しよう。さすれば半分はやる』

「私がそんな誘いに乗るわけないでしょう……!」


 叫んだ途端、脳裏に勇者のあの日の言葉が響いた。

 『糸目キャラは裏切るんだ』


「…………」

『そうか、では仕方ないここで死――』

「いえやっぱり乗ります。魔王様サイコー」

『変わり身早っ!!』


 ざり、と地面を踏む。暗闇の中へ一歩一歩進む。

 重いからとポーションをポイポイ落としてから、ユリウスは魔王の手を取った。



 一方その頃。レオンとセラフィーは身体に染み渡っていくポーションが入っていたガラス瓶を握りしめていた。


「めっちゃ効くぅ。レオたん、これすんごい高級なやつだよ」

「そうだな。疲れが取れていく」


 疲れが、汗となり蒸発していくように取れていく。それはユリウスの癒やしの魔法を彷彿とさせた。



「な、セラフィー」

「なにレオたん。お喋りも良いけどもう少し繊細に押して」


 背中をマッサージしながら話しかければ眉根を寄せられた。

 

「全ての戦いがおわったらさ」

「まって凄いフラグ」

「セラフィーにだけ本当のこと話しても、良い?」

「――しょうがない子だね」


 翌日、二人はまた旅へと赴いた。北の地へ向かって。

 一人は秘密を抱えて。もう一人はとりあえず死なないことを願って。


 想定外だったのは、行く先々の宿でポーションをもらったことだった。


◇◇◇


 薄暗い景色の中。

 北の魔物にレオンは斬りかかる。セラフィーが固定したお陰で動けない北の魔物は暴れるが、成すすべもなく首を斬られた。


「……動かないか?」

「油断しちゃ駄目、レオたん! 私の半径二m以内に入って!」


 事前に北の魔物は死なば諸共と自爆する可能性があると伝えておいたからか、セラフィーは警戒を解かないままレオンと自分に結界を張った。


 北の魔物の蜘蛛のような体が赤く光り膨れ上がった。こちらを威嚇するように睨んでいる……気がした。蜘蛛の表情の差異など分からない。

 どんどん体は膨れ上がっていく。耐えきれなくなって弾けるように、辺り一帯が赤い光に包まれた。


「……っ」


 目をつむり衝撃に耐えるセラフィーの背を支える。


「ほ、本当に自爆した……」


 半径五mが焼け野原となった景色に、セラフィーが呟く。

 それから、フンと息を吐いた。


「対策しといて良かった! ポーションを無駄に使えないのこっちは」

「そうだな。本当に、良かった」


 お互いの手をしっかり握る。


「あとは、魔王だけだ――!」


 そこで空が黒い雲で覆われた。見上げれば、黒い人型のようなものがこちらを見下ろしている。まがまがしい瘴気に襲われながらも目を凝らせば、そこには信じられない人がいた。


「……ユリウス」

「ユリユリ」

「その呼び方はやめてください王国魔法使い殿」


 少し前とは違い堅苦しい話し方に二人の息が詰まった。


『驚いておるな。無理もない。お前らのかつての仲間はこちらに寝返ったのだから』

「そうですよ、勇者殿はご慧眼でしたね。そうです、私が裏切り者だったんですよ。ククク、やつらは魔王の幹部の中でも最強! 既に魔王様は力の大半を失っていますが負けませんよ!」

『バラすな』


 魔王の金色のぽっかりした穴が、三日月のようにニィと歪んだ。


『こやつの提案した作戦は見事なものだった。必ずやお前たち人間を滅ぼせるだろう。そうすれば人類全員、皮を剥いでコレクションにしてやる。お前らは特別に額縁に入れてやろう』


 残虐なことをツラツラと述べる魔王にブワリと産毛が立つ。柄を引き抜き、今すぐ斬りかかりたくなる。


『あぁ……私の魔力を分けて生んだ魔物たちが人間を滅ぼす姿を見るのは楽しかった……。そうだ、全て皮を剥ぐのは惜しい。半分は今まで通り殺しながら生かしてやろう』


 優しい母と父、そして甘えたな妹の顔が脳裏を過ぎった。あの日、炎に巻き込まれ大切なモノは魔物たちに奪われた。

 強く握りしめ腕に血管が浮き出る。


「……っ」

「ほんっと趣味悪」


 魔王は意味がわからないと首を傾げた。それを横目にユリウスが高らかになにかを読み上げる。


「では戦いは次の満月に」


 顎を摘むように撫でながら、糸目が更に細くなる。


 そうして二人は消えた。黒い雲も飛散していく。


「クソ、クソォッ!」


 地面に拳を叩きつけた。




 次の満月は十日後だった。布団に潜り、夢を見る。

 レオンとユリウスは同じ村で育った。


 両親同士が仲が良くて。同い年でもある二人もまた、仲は良好だった。

 いつも笑顔を絶やさない母。少し頑固者だけど良く褒めてくれた父。困ったことがあると自分を甘やかしてくれるユリウスの下に逃げ込む妹。


「わたしね、ユリウスお兄ちゃんと結婚する!」

「ありゃ、僕の嫁ぎ先が決まっちゃった」

「よかったじゃないかユリウス!」


 いつだって笑い声がこだましていた。


 ――あの日、魔物が村を襲うまでは。二人で森に行っていた。虫を採るからと、一緒に行きたいと強請る妹を置いて。

 遠くの方まで行って、もう夕方だと帰ってきた時、村は不自然なほど夕焼けに染まっていた。

 それは夕焼けではなく村が燃えているのだった。


 炎に包まれた中に必死に呼びかける。微かに「お兄ちゃん」と呼ぶ声が聞こえた気がしたけど、たった二人の子供に何ができたのだろう。

 翌日の大雨で鎮火した後、村人の人数とそっくり同じ数の焼死体が見つかった。


 ぼんやり皆を弔うための穴を掘る自分とは反対に、ユリウスは心ここにあらずな様子で一際小さい遺体を抱き締めている。


「……ユリウス。眠らせてあげよう」

「あ、あ、ぁ……。レオン。僕、名前を呼ばれたんだ……。だってあの子は、いつも困ったことがあると、僕を呼んで……それなのに僕は、僕は……!」

 

 咆哮だった。ユリウスは泣いていた。レオンの目にも、気づけば涙が出ていた。


「ユリウス、倒そう。魔王を」


 遺体を全て弔った後。土にまみれた手を繋ぎあった。


「こんな悲しい別れは、俺たちだけでも手に余る」


 それから、二人で王都へ向かいお互いに師匠を見つけ切磋琢磨した。

 

 

 ハッと目を覚ます。酷い脂汗で体が濡れていた。額を抑える。


「眠れない」


 満月はもう二日後だった。


 場所が変わって王城では、魔王たちがパーティーを行っていた。


『ユリウス、もっと酒を持ってきてくれ』

「はいただいま」


 魔王とその配下たちに酒を配り歩きながらユリウスは思案する。二人は今頃眠れているかと。

 レオンはたまに魘されていて。その次の日の朝は決まって口を寂しそうにモゴモゴしている。だからレオンの母がよく淹れていた茶葉の紅茶を出せば、やっぱり渋いと文句を垂れながらも表情が緩むのだ。

 

 セラフィーは静かに寝ている日が要注意だ。昔内緒話よと教えてくれた彼女は、王都で孤児だったらしい。声を出すと怒られるから、という習慣が抜けないのか時たまセラフィーはわざとらしいいびきもかかずに寝ていることがある。

 そんな日は大抵寒くて、毛布をかけてあげればすっかり元の声量に戻るのだから毎度苦笑してしまうものだ。


 最後に出会った日、二人にはポーションでも消せない濃い疲労があった。


 物想いにふける。そこで魔王に呼ばれ慌てて笑顔を浮かべた。


『ふん、それにしてもユリウスの考えた作戦は最高だな』

「さようですか」


 魔王が酒を飲み酔っているのかグラスを掲げながらクククと笑っている。


『まさか自分を盾にして戦え、とはな』

「彼らはまだ私に情があるはずです。その隙をつけば必ずや魔王様が勝利するでしょう」

『ククク……ッ。最高だ!』


 一際大きい高笑いに、周囲のベロベロに酔った魔物たちから歓声が上がる。


『それにしても、パーティーなどして良いのだろうか。ユリウス、明日は戦いなのだぞ?』

「大丈夫ですよ! 英気を養うべきですし、それに――――」


「戦いは、今日ですから」

『は?』


 ッド! と目の前の大きな扉が魔法でぶっ飛ばしたように開いた。

 舞い上がった煙の中に人影が二人。


「さーて、ここが魔王の墓場だ」

「生かしておかないよ!」

 それはどっちかっていうと敵キャラの台詞。本当に勇者と王国魔法使い?


 ユリウスは心の中でこっそりツッコみながらも、二人が来てくれたことにホッと息をつく。


『な、なぜ……! 明日のはずでは!』

「私が今日を教えたのですよ。てか魔王は人を信じすぎです。日時を指定して素直に行くわけないじゃないですか」


 顎を摘む動作をしながら言う。これは村で過ごしていた時にレオンと二人で考えた暗号だった。……妹を遊びに連れていきたくない時の。

 口に出した日付の前日、という意味なのだ。


 魔王がフラフラになりながらも酷い憎悪をユリウスに向ける。


『まさか今日、パーティーを開かせたのも!』

「大正解です。弱らせたり警備を手薄にしたりと大変でしたよ」

『裏切ったのか、ユリウス貴様!』


 ユリウスはニィと口角を上げた。


「糸目キャラは裏切るのが定石と聞いたので、そのように動いてみたのですよ。まぁ、裏切ったのは勇者ではなく魔王たちの方ですが」


 魔王がこちらに襲いかかってくる。

 だが逃げ足速い僧侶として名高いユリウスはすぐに隠密で煙に巻いた。

 


 ユリウスがいなくなったことを見計らって、二人が戦いを始める。


「セラフィー、手下たちをお願いできるか!?」

「うん! レオたんは魔王に集中して!」


 セラフィーが杖を構え、魔法を唱える。酒を飲んで使い物にならない魔物たちは応戦もできず、魔法に焼かれ灰となった。


 魔王もそれは同じだった。守るだけで精一杯で、攻めの動きに転じられていない。


『クソッ、こんなはずでは……!』

「ユリウスを仲間にしたのが運の尽きだったな!」


 こちらに伸ばされる黒い手に剣の刃を滑らせ、魔王の間合いに入る。そのまま一太刀で魔王の首を落とした。


 ゆっくり灰になっていく。緊張が解けたのか、遠くにいるレオンとセラフィーが顔を見合わせ笑った。

 終わったのだ、長い長い悪夢が。



 ――しかし、そのさなかユリウスは見た。魔王の人さし指が、レオンに向けて発光していることに。

 レオンを殺そうとしている! ブワリと鳥肌が立って気づけば隠密を解き、庇うために走り出していた。


 光は膨れ上がる。レオンたちが気づいた時、もう溢れ出しそうなくらいで。

 ユリウスは力いっぱいレオンを突き飛ばして。瞬間こちら目掛けて技が飛んできた。


 死を覚悟しながらも、ユリウスの心は穏やかだった。糸目を開け、二人の顔を目に焼き付ける。そして、いつかの大切な人たちを思い出す。


「――ようやく、守ることができます」


 強い衝撃音と共に煙が舞い上がった。


◇◇◇ 


 なぜあの時、小説のユリウスはレオンを庇ったのか。それは簡単なことだった。

 

 ユリウスはずっと苛まれていたのだ。自分が誰も守れないと。

 勇者パーティーで戦う道すがらでもその想いは消えなかった。前線で戦う二人の後方支援しかできないとずっと考えていた。

 劣等感に近いものを胸に重く携えていたのだ。


 だから走り出した。少しの充足感に駆られながら。


 そして今も。目前に迫る痛みを安らかに待ち構える。

 強い衝撃音が響き渡る。



 ――だが、痛みはなかった。

 セラフィーを見れば、こちらに杖を向けている。

 結界を張ったのだろうか。だが彼女が結界を張れるのは自らの半径二m以内だったはずなのに。


 静まり返った空間でユリウスは、たはーと頭をかく。


「あれぇ、死んでませんね。かっこよく散るつもりでしたのに」

「……レオたんがさ」


 呆然とした表情で、セラフィーが話を切り出した。


「どこにいても結界を張れるようにしてってお願いしてきたから、練習したの」


 見開いた目から、花弁が解けるように涙がポロリと落ちた。


「死にたかったの? ユリユリ」


 なにも返さないユリウスにセラフィーが詰め寄る。腕に縋り付いた。


「駄目だよ。死のうとしちゃ。助けて欲しいなら、ちゃんと助けてって言ってよ……っ」

「……ごめんなさい」

「本当にね!」


 泣き喚くセラフィーを宥めるユリウスに、レオンが近寄った。目は真っ赤で、今にも涙が零れ落ちそうになっている。


「おや、糸目の私を追い出した勇者殿ではございませんか」

「ユリウス……」


 眉をくいと上げたユリウスだったが、すぐに頬を緩めた。


「なにか、知っていたんですよね? それこそ、私が死んでしまうようなことを」

「…………」


 黙りこくるレオンを見て、二人が顔を見合わせる。――そして悪い笑みを浮かべた。


「いやぁ、そろそろ全て話してもらおうと思っていたんですよ」

「そうだね、私も蚊帳の外は嫌」


 杖を構えたセラフィーと高級ポーションを構えたユリウスに詰め寄られ、レオンはタジタジになりながら「ちょ、あ……待って……」やらなんやら焦っているが二人は歩みを止めない。


「セラフィー、安心してください。全て私が癒しますから」

「オッケーユリユリ。全力でいっちゃうから」

「ほ、本当にごめん。謝るから、俺の前世の話は……」


 にっこり二人は笑った。


「「問答無用!!」」


 軽快な爆発音と共に、アーッと高らかな悲鳴が上がった。


◇◇◇


 時は流れて。

 小さな家の中で、ユリウスはソファに体を沈めていた。白くなってきた髪を撫でながら、送られてきた書を読み耽る。

 それは勇者パーティーの功績をまとめたものだった。


『――僧侶は糸目なクセに、一度も裏切ることなく勇者パーティーで献身した。びっくり』


「この本書いた人、絶対前世の記憶ありますよね!?」


 こうしちゃいられん。文句を言いに行かねば。

 

「……二人にも会いに行きましょう」


 久々に三人で集まって酒を飲んでも良い。 

 秘蔵の酒を持ったユリウスは、その口元に笑みを乗せながらかつての仲間に会うために外に出た。


 今日も空は澄み切っている。 


ここまでお付き合いいただきありがとうございます

少しでも面白いと思ったら★★★★★押してもらうと励みになります。


ちなみに手を顔に当てて「これなのか?」と言ってるのはとあるアニメのパロディです。

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