第8話「共闘と、見えざる『支配』」
ヒロトは、僕の提案を快く承諾した。
「ああ、いいぜ!二人なら、心強いな」
彼は、僕がイグニス・フレイアに似ているだけで、僕が誰なのか、僕が何者なのか、何も知らない。だが、それでいい。僕の物語は、ここから始まるのだから。
僕たちは、二人で森の奥へと進んでいった。
道中、ヒロトは僕に話しかけてきた。
「お前、本当に強いな。俺も剣術には自信があったんだけど、お前は俺とは違う。なんていうか、無駄がないっていうか……」
「そうですか?私も、まだ記憶が曖昧で……」
僕は、イグニス・フレイアの顔と、記憶を模倣し、彼に接する。
彼の言葉は、僕の脳内にあるデータと一致していた。
ヒロトは、剣術の才能を英雄遺伝子として与えられた転生者だ。
だが、その才能は、あくまで「力任せ」の剣術に偏っている。
一方、僕が模倣したアルベルトの剣術は、神速の剣。
二つの剣術は、まるで正反対の特性を持つ。
「もうすぐ、オーク・ジェネラルの巣だ」
僕の脳内にある地図データが、そう告げる。
ヒロトは、僕の言葉に驚いたような顔をした。
「なんでわかるんだ?お前、勘がいいな!」
僕は、心の中で静かに笑った。
勘ではない。これは、神々がこの世界の物語をプログラミングした際に、僕が設定した情報だ。
この世界の物語の全ては、僕の手の内にある。
オーク・ジェネラルの巣へとたどり着くと、そこにはオークの群れがいた。
そして、その群れの中心には、一回りも二回りも大きなオークがいた。
それが、オーク・ジェネラルだ。
「あれが、ボスか!よし、行くぞ!」
ヒロトは、僕に告げ、オーク・ジェネラルに突進していく。
彼の剣は、力強く、重い一撃をオーク・ジェネラルに放つ。
だが、オーク・ジェネラルは、その一撃を、まるで蚊を払うかのように弾き返した。
「なっ……!」
ヒロトは、驚きと戸惑いを隠せない様子で、後ずさりする。
僕は、ヒロトの行動を予測していた。
オーク・ジェネラルの弱点は、その巨体に似合わない俊敏性。
ヒロトの力任せの攻撃では、オーク・ジェネラルには通用しない。
僕は、ヒロトに指示を出す。
「ヒロトさん、ここは私に任せてください。あなたは、オークの群れを足止めしてください!」
「わ、わかった!」
僕は、アルベルトの剣術とカイルの身体能力を組み合わせ、オーク・ジェネラルに突進する。
僕の動きは、神速。
僕は、オーク・ジェネラルの弱点である、その俊敏性を利用し、その巨体に隠された急所を狙う。
僕は、オーク・ジェネラルの首筋に、木の枝を突き刺す。
オーク・ジェネラルは、その巨体を揺らし、絶叫を上げた。
そして、そのまま、絶命した。
ヒロトは、僕の圧倒的な強さに、呆然としていた。
「す、すげえ……。お前、一体何者なんだ……?」
僕は、ヒロトに微笑みかける。
「ただの、冒険者ですよ」
「……そうか。でも、お前は、ただの冒険者じゃない。俺よりも、ずっと強い」
僕は、ヒロトの言葉に、心の中で静かに笑った。
ヒロトは、まだ知らない。
僕が、彼が転生する際に設定された、彼の能力の全てを知っていることを。
そして、彼がこの世界の物語の**“演者”**でしかないことを。
僕は、ヒロトの肩に手を置いた。
「さあ、街に戻りましょう。私たちの物語は、ここから始まるのですから」