第7話「オークの森、そして『もう一人の転生者』」
冒険者ギルドで依頼を引き受けた僕は、街の東にある森へと向かった。
僕の脳内にあるデータは、この森の地形、オークの群れの行動パターン、そしてオーク・ジェネラルの弱点をすべて把握している。
この世界の物語では、英雄は、未知の危険に立ち向かい、知恵と勇気で勝利を掴む。だが、僕は違う。僕は、この世界の物語の**“書き手”であり、“語り手”**だ。この物語の筋書きは、すべて僕が知っている。
森に入ると、すぐにオークの気配がした。
オークは、この世界に転生したばかりの冒険者にとって、最初の壁となる存在だ。
だが、僕にとっては、ただの経験値でしかない。
僕は、アルベルトの剣術とカイルの身体能力を組み合わせ、オークを次々と倒していく。
僕の動きは、滑らかで無駄がない。オークたちは、僕の動きに対応できず、その首に剣が突き刺さる。
「……完璧だな」
僕は、再び確信した。
僕の能力**『遺伝子情報操作』**は、転生者の能力を完全に模倣できる。
彼らの才能を、僕自身の才能として利用できる。
森の奥へと進んでいくと、僕は一人の男と出会った。
男は、僕と同じくらいの年齢で、僕と同じように剣を手にしていた。
だが、彼の動きは、僕の模倣したアルベルトの動きとは全く違う。
彼の剣は、力強く、重い一撃を放つ。まるで、岩を砕くような剣だ。
僕は、その男の顔を見て、脳内のデータベースと照合した。
《対象:ヒロト・タナカ (転生者)》
《能力:剣術Lv.7、剛力Lv.9》
《特性:英雄遺伝子と適合》
彼は、この世界の物語の**“もう一人の主人公”だ。
僕と同じように、この世界に転生させられた転生者。
だが、彼と僕の間には、決定的な違いがあった。
彼は、神々の「計画」に沿って転生させられた、“正当な転生者”。
僕は、神々に抹消処分を下された、“不当な転生者”**。
ヒロトは、僕に話しかけてきた。
「お前、強いな。俺も、この森のオークを討伐しに来たんだ」
「そうですか。私も、領主様から依頼を受けて、討伐に来ました」
僕は、イグニス・フレイアの顔と、記憶を模倣し、彼に接する。
ヒロトは、僕の顔を見て、驚いたような顔をした。
「お前、イグニスに似ているな……」
「よく言われます」
僕は、心の中で静かに笑った。
ヒロトは、僕がイグニス・フレイアに瓜二つであることに驚いている。
だが、彼は、僕がイグニス・フレイア本人だとは思っていない。
なぜなら、彼の脳内には、イグニス・フレイアという英雄の情報が、すでに刻み込まれているからだ。
僕は、ヒロトに提案した。
「もしよろしければ、二人で協力して、オーク・ジェネラルを討伐しませんか?」
「ああ、いいぜ!二人なら、心強いな」
ヒロトは、僕の提案を快く承諾した。
彼は、僕がイグニス・フレイアに似ているだけで、僕が誰なのか、僕が何者なのか、何も知らない。
だが、それでいい。