第5話「領主との対面、そして新たな『演者』」
門番に案内された僕は、リーベルの街の中心にある領主館へと向かっていた。
門番は、僕の顔が伝説の魔術師イグニス・フレイアに瓜二つであること、そして僕が記憶を失っていることを、街の領主であるレイモンド・グレイズに報告すると言った。
街の中は、活気に満ち溢れていた。
僕の脳内には、この世界の街の構造や人々の暮らしに関するデータが刻み込まれている。
この街は、神々の計画の初期段階に作られた、いわば“物語のプロローグ”に登場する街だ。
この街で、転生者たちは初めての試練を乗り越え、冒険者としての一歩を踏み出す。
僕を案内する門番は、尊敬の眼差しで僕を見ていた。
「イグニス様は、お強い方でした。炎の魔術で、魔王軍を一掃したと聞いております」
「……そうですか」
僕は、心の中で苦笑した。
イグニス・フレイアは、僕が管理官として転生させた英雄の一人だ。
彼の遺伝子コード、能力、そして彼の運命。その全ては、僕が設計したもの。
彼が魔王軍を一掃できたのは、僕がそうなるようにプログラミングしたからだ。
領主館に到着すると、僕たちは広間へと通された。
広間の中央には、壮年の男が座っていた。
その男が、リーベルの領主、レイモンド・グレイズだ。
レイモンドは、僕の顔を見て、目を見開いた。
「な……まさか、本当にイグニス様か!?」
「領主様、彼は記憶を失っているとのことです。ですが、顔は間違いなく……」
門番の言葉に、レイモンドは頷き、僕に尋ねた。
「お前は、イグニス・フレイアなのか?」
「いえ、私はレオンです。イグニスという方は存じ上げませんが、私の顔がその方と似ているのならば、何か関係があるのかもしれません」
僕は、**『遺伝子情報操作』**を用いて、僕の脳内に、イグニスが転生する際に設定された「記憶」を模倣する。
そして、その記憶を、僕自身の記憶であるかのように、レイモンドに語った。
「なるほど……。そのようなことが。神々の思し召しであろうか。イグニス様。いや、レオン。どうか、このリーベルの街で、ゆっくりと休んでいかれなさい。私どもが、あなたの身の安全をお守りいたします」
レイモンドは、僕をイグニスだと信じきっているようだ。
僕は、この状況を利用し、この街で僕自身の物語を紡ぎ始める。
その夜、僕は領主館の一室で、僕の脳内にあるデータと向き合っていた。
この街には、もう一人の転生者がいるはずだ。
彼の名は、カイル・フレイム。
転生者の中でも、特に高い身体能力を持つ英雄だ。
彼の能力は、僕が模倣したアルベルトの能力とは異なり、近接戦闘に特化している。
僕は、カイル・フレイムの遺伝子コードを抽出し、彼の能力を、僕自身の能力として再構築する。
僕の筋肉が、骨が、神経が、再び変化していく。
数分後、僕は、アルベルトの剣術とカイルの身体能力を併せ持つ、最強の存在となっていた。
僕は、この世界の物語の**“書き手”だった。
そして、この世界では、僕は“語り手”となり、この世界の英雄たちを“演者”**として操る。
僕の物語は、ここから始まる。