第4話「初めての街、初めての模倣」
僕は、木の枝を剣に見立ててゴブリンを倒し、自分の手のひらを眺めた。そこに宿っているのは、アルベルトの力。僕自身のものではない、模倣された力だ。
「……完璧だな」
僕は、確信した。僕の能力**『遺伝子情報操作』**は、転生者の能力を完全に模倣できる。彼らの才能を、僕自身の才能として利用できる。
これで、この世界で生きていくための足がかりができた。
僕は、脳内のデータベースから、近くにある小さな街「リーベル」の位置情報を確認した。この街は、転生者たちが最初に立ち寄ることが多い、冒険者たちの拠点だ。
この街で、僕はまず身分を偽装し、そして、僕自身の物語を紡ぎ始める。
街へ向かう道中、僕は自分の姿を森の中にある泉に映し出し、確認した。
見慣れない少年の顔。まだ幼い、あどけなさの残る顔立ちだ。
僕は、この少年の顔を、この世界の英雄たちの顔と重ね合わせる。
英雄たちの顔は、皆、整った顔立ちをしている。だが、僕のこの顔は、どこか平凡で、特徴がない。
だが、それが逆に都合がいい。
平凡な顔は、誰にも気に留められない。
僕は、この平凡な顔を、この世界の英雄たちの顔に変える。
僕は、再び**『遺伝子情報操作』**を使い、僕の顔の遺伝子情報を書き換える。
伝説の魔術師、イグニス・フレイアの顔を模倣する。
イグニスは、炎の魔術を操る天才で、その顔立ちは、中性的な美しさを備えていた。
僕の顔の筋肉が、骨が、皮膚が、まるで粘土細工のように変化していく。
数分後、僕の顔は、イグニスの顔と瓜二つになっていた。
僕は、再び泉に顔を映し出し、その変化を確認する。
完璧だ。
僕は、この世界の物語の**“書き手”だった。
そして、この世界では、僕は“語り手”となり、この世界の英雄たちを“演者”**として操る。
僕は、街の入り口へとたどり着いた。
リーベルの街の門は、重厚な石造りで、門番が二人立っていた。
僕は、門番に話しかける。
「すみません、この街に入りたいのですが」
門番は、僕の顔を見て、一瞬驚いたような顔をした。
「お、お前……まさか、イグニス様か!?」
「イグニス……?いえ、私は、レオンです」
僕は、イグニス・フレイアの顔を模倣しただけで、その名前を名乗るつもりはなかった。
しかし、僕のこの顔は、イグニスという伝説の英雄の顔と瓜二つ。
街の人々は、僕をイグニスと勘違いするだろう。
「レオン……?そんな名、聞いたこともないな。だが、その顔は、間違いなくイグニス様だ。どうされたのですか?なぜ、このような場所に……」
門番は、僕をイグニスと信じきっているようだ。
僕は、この状況を利用することにした。
「私は、記憶喪失なのです。自分が誰なのか、なぜここにいるのか、何も覚えていません」
僕は、**『遺伝子情報操作』を用いて、僕の脳内に、イグニスが転生する際に設定された「記憶」**を模倣する。
そして、その記憶を、僕自身の記憶であるかのように、門番に語った。
「……なるほど。そういうことでしたか。イグニス様。どうか、私どもにお任せください。すぐに、この街の領主様に、あなたのことをご報告いたします」
門番は、僕の言葉を信じ、僕を街の中へ案内してくれた。
僕は、この街で、イグニス・フレイアとして生きることを決意した。
この街で、僕は、この世界の英雄たちを操るための「駒」を集める。