第2話「システムを欺く《バグ》の誕生」
僕の言葉に、ドリューは膝から崩れ落ちた。
「お、おい、奴隷商。こいつは一体……」
「さ、さあ……。わたくしにも、さっぱり」
僕がドリューに突きつけた「犯罪の証拠」とは、僕の脳内に刻まれた、元いた世界の法律と、この世界の転生システムの脆弱性を利用した、完璧な論理の構築だった。この世界の法律は、神々のシステムを絶対的なものとして崇めている。そのシステムに「不正」を働いたと告げられたドリューは、もはや反論の術を持たなかった。
「もう手遅れです。ドリュー・オルウェル殿。この情報が神々の耳に入れば、あなた方はただでは済みませんよ」
「ち、違う!私は、私は……!」
僕の言葉は、完璧にドリューの心を折った。
僕は、ドリューの混乱に乗じて、奴隷商に話しかけた。
「この男は、あなたを利用して、私を娘の元へ届けようとしていました。ですが、私は、彼の罪を隠すための道具ではありません」
僕は、奴隷商にそっと耳打ちする。
「私があなたの奴隷として、彼の娘の元へ行くことはできます。しかし、その場合、ドリュー殿の罪は隠蔽され、彼らはより大きな不正に手を染めるでしょう。そして、いつかその罪が露見した時、あなたも共犯者として巻き込まれます」
「なっ……」
奴隷商は、僕の言葉に凍りついた。
僕は、僕の脳内にある、この世界の商取引に関するデータを引き出し、それを奴隷商に示唆する。
「ですが、私を彼の娘に売るのではなく、私を解放し、私の身柄を別の有力者に売る取引をすれば、あなたには何の問題もありません。それどころか、私を救ったことで、その有力者からの信頼を得ることもできるでしょう」
僕は、奴隷商の心を完璧に掌握した。
この世界の商人たちは、何よりも利益を優先する。
僕の提案は、奴隷商にとって、リスクを回避し、利益を確保するための最善の策だった。
「わ、わかった。だが、お前をどうすれば……」
「私を解放してください。そして、私を連れ去ろうとするこの男から、私を守ってください。それが、あなたの利益に繋がります」
僕は、ドリューに再び向き直る。
「ドリュー殿。この世界のルールは、不正を働いた者を決して許しません。あなたには、罪を償う機会が与えられます。今すぐに、この場から立ち去りなさい。さもなくば……神々の鉄槌が、あなたに下されるでしょう」
僕の言葉に、ドリューは顔を青ざめさせ、震えながらその場を逃げ出した。
奴隷商は、僕の指示に従い、僕を解放し、僕を連れ去ろうとするドリューから僕を守った。
僕は、こうして奴隷の身分から解放された。
「……さて、どうしたものか」
僕は、解放された体を起こし、荒野を見渡す。
僕の脳内には、この世界の地理、歴史、そして神々の計画に関する全データが刻み込まれている。
この世界は、神々が英雄を転生させるための巨大な舞台だ。
そして、僕は、その舞台の裏側を知る、唯一の存在。
僕は、僕自身の境遇を再び分析する。
《適合者クラス:S-ランク相当》。
《職能:『遺伝子情報操作』》。
そして、僕の今の肉体は、出来損ないの遺伝子を埋め込まれた、ただの少年。
僕は、最強の英雄たちの「裏側」にいた男だ。
だからこそ、僕は、この世界の英雄たちを完璧に模倣することができる。
彼らの遺伝子コードを再現し、彼らの能力を、僕自身の能力として再構築できる。
僕は、**『遺伝子情報操作』**という職能を用いて、僕の体内の遺伝子情報を書き換える。
まるで、プログラムを書き換えるかのように。
「……まずは、身体能力の向上からだな」
僕は、脳内のデータベースから、最強の剣士として転生した英雄の遺伝子コードを抽出し、僕自身の遺伝子に上書きする。
僕の体内に、熱い何かが流れ込んでくる。
それは、英雄の才能。英雄の力。
僕の筋肉が、骨が、神経が、まるで生まれ変わったかのように変化していく。
数分後、僕の体は、先ほどまでのひ弱な少年の体ではなくなっていた。
僕の腕には、力強い筋肉がつき、僕の背筋は、まっすぐに伸びていた。
僕は、僕の肉体を調べ、その変化を分析する。
「……なるほど。確かに、この能力なら、転生者たちを欺くことができる」
僕は、この世界を支配するシステムを破壊するために、この世界の英雄たちを模倣する。
彼らの能力を、彼ら自身が気づかないうちに、僕の能力として利用する。
僕は、この世界の物語の**“書き手”だった。
そして、この世界では、僕は“語り手”となり、この世界の英雄たちを“演者”**として操る。
これは、神々に抹消処分を下された男が、システムを欺き、最強の英雄たちを操り、世界の真実を暴く物語。
僕は、この世界の欠陥品。
そして、この世界を支配するシステムを破壊する、最強の欠陥品になる。