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エピソード7 商売のパートナー、ココとの出会い

広大なグライフブルクの街は、遠くから見てもその威容を誇っていた。高くそびえる城壁は、まるで巨大な竜が横たわっているかのようだ。その向こうには、無数の家々がひしめき合い、活気ある人々の営みが想像される。空には白い雲がゆっくりと流れ、時折、鳥の群れがその上を横切っていく。その全てが、健太にとっては初めて見る光景だった。


「おい、ケンタ! ぼさっとしてるんじゃねぇ! さっさと行くぞ!」


マックスの怒鳴り声が、健太の耳に届いた。健太は慌てて我に返り、重い荷物を背負い直す。オットーとマックスに連れられ、辺境伯の街グライフブルクへの旅は、健太にとって想像以上に過酷なものだった。


「はぁ、はぁ……マックス、ちょっと、休憩……」


運動不足の体に、長距離の移動は堪える。特に、マックスの歩くペースは尋常ではない。まるで、異世界に来てからずっと鍛え続けているかのような体力だった。


「軟弱だな、ケンタ! これしきで音を上げるな!」


マックスは呆れたように笑いながらも、健太の荷物の一部をひょいと肩に担いだ。その気遣いが、健太には少しだけ嬉しかった。


「しかし、この体力差はなんだ? 俺も異世界に来てから、それなりに動いているはずなんだが……いや、待てよ。マックスは元々、傭兵だったんだっけ? そりゃ、鍛え方が違うわな。俺なんて、せいぜい通勤で駅まで歩くくらいだったし……」


健太は心の中で独りごちる。インドア派代表の健太は、体力のこととなるとからっきしである。


その時、茂みからガサガサと音がした。


「グルルル……」


低い唸り声と共に、緑色の肌をしたゴブリンが数体、そして鋭い牙を剥き出しにしたウルフが姿を現した。その数は、健太にとって脅威だった。


「ちっ、厄介なのが出てきやがったな!」マックスは短く呟いた。


マックスは舌打ちすると、腰に下げた大剣を抜き放った。


「ケンタ、俺の後ろにいろ!」


マックスは健太を庇うように前に立つと、ゴブリンたちに突進した。その動きは、まるでゲームのキャラクターがスキルを発動したかのように素早く、そして力強かった。健太は、その圧倒的な力に目を奪われた。


「は、はえぇ……まるで、アクションゲームの主人公みたいだ……」健太は思わず声に出した。


健太は、マックスの圧倒的な強さに呆然と立ち尽くしていた。現実世界では、こんな光景は映画やゲームの中でしか見たことがない。


「どうした、ケンタ! ぼさっとしてるんじゃねぇ! 行くぞ!」


マックスの声に我に返り、健太は慌てて後を追った。戦闘はあっという間に終わり、ゴブリンとウルフは地面に転がっていた。マックスは息一つ乱していない。


夜は、街道沿いの小さな宿屋で過ごした。質素な食事と硬いベッドだったが、健太は疲労困憊しており、すぐに眠りに落ちた。


翌日も、健太はへとへとになりながらも、マックスの励ましを受けながら歩き続けた。そして、ついにグライフブルクの城壁が目の前に現れた。


「つ、着いた……! うおおおお! これが、異世界の都市か! すげぇ! まるで、中世ヨーロッパのゲームの世界に迷い込んだみたいだ!」


健太は感動に打ち震え、思わずオタク気質が顔を出す。しかし、感動も束の間、城門の検問で一悶着あった。


「おい、旅の者。あやしいやつだな。追加の通行料を払え」


門番の一人が、露骨に手を差し出してきた。


「追加の通行料ですか? 所定の通行料はお支払いしました。追加のお話は聞いていませんが」


健太は眉をひそめた。理不尽な要求に、彼の冷静沈着でいようとする性格が揺らぎ始める。


「ああ? ここはそういうもんなんだよ。さっさと出せば、通してやるぜ」


門番はさらに高圧的な態度に出る。健太は怒りに震えたが、異世界で揉め事を起こすのは得策ではないと、ぐっと堪えた。しかし、内心の怒りは収まらなかった。


「くそっ、こういう理不尽なやつ、本当に嫌いだ。医療現場でも、理不尽な要求をしてくる患者の家族とか、いたっけな……」健太は心の中で毒づいた。


その時、マックスが健太の前に進み出た。


「おい、てめぇら。俺の連れに、何を要求してるんだ?」マックスの低い声が響き渡った。


マックスの低い声が響き渡る。その声には、明らかな威圧感が込められていた。


「まさか、この俺に、賄賂を払えってのか?」マックスは門番たちを睨みつけた。


マックスの眼光は鋭く、門番たちは冷や汗を流し始めた。その威圧感に耐えきれなくなったのだ。


「い、いえ!とんでもない!どうぞ、お通りください!」


門番たちは慌てて道を空けた。マックスは鼻を鳴らすと、健太とオットーを促して城門をくぐった。


「助かりました、マックス」


「気にするな、ケンタ。こういう輩は、一度痛い目を見せないと分からねぇんだ」マックスは淡々と言った。


マックスは肩をすくめた。健太は、マックスの頼もしさに改めて感謝した。


街の中は、村とは比べ物にならないほどの活気に満ちていた。石畳の道には、様々な露店が軒を連ね、香辛料や焼きたてのパンの匂いが入り混じる。人々が行き交い、活発な声が飛び交う。そのエネルギーに触れ、健太はここで商売を始めるとうまくいきそうな予感を感じた。


「マックス、オットーさん、本当にありがとうございます。ここなら、商売がうまくいきそうですね!」


健太は深々と頭を下げた。


「おう、きっとうまくいくさ。困ったことがあったら、いつでも俺を呼べよ」マックスは力強く言った。


マックスは力強く健太の肩を叩いた。


「ケンタさん、私がなんとかここで伝手を作って、一旗揚げてみせますよ!」オットーは意気込んだ。


オットーは鼻息荒く意気込んだ。マックスは健太とオットーに別れを告げ、自身の旅へと戻っていった。オットーは健太と共に、グライフブルクでの商売の準備に取り掛かった。


オットーと健太は、まず市場の調査から始めた。どんなものが売れていて、どんなものが不足しているのか、二人は熱心に情報収集を行った。


「健太さん、この街は本当に活気がありますね。様々な品が取引されています」


オットーが感心したように言った。健太も頷く。


「ええ、本当に。それにしても、あの一角は特に賑わっていますね。見たこともないような珍しい品々が並べられています。まるで、現実世界の露店のようだ……」


健太の目に留まったのは、一際賑わっている露店だった。そこには、カメラやスマホ、電子書籍リーダーなど、およそ現実世界でしか手に入らないような品々が並べられ、多くの人々が群がっていた。


「あれは……もしかして、現実世界から転移してきた者が他にもいるのか?」健太はゴクリと唾を飲み込んだ。


健太が興味津々でその露店に近づこうとすると、露店の奥から一人の女性が顔を出した。彼女は鮮やかな色の布を身につけ、瞳には商売人特有の鋭い光を宿していた。


「もしもし、そこのお二人さん。その珍しい品、どこで手に入れたんだい?」ココと名乗る女性が声をかけてきた。


声をかけてきたのは、ココと名乗る女性だった。彼女は健太が持っていた、現実世界から持ち込んだ医療用ペンライトに目を付けていた。


「これは……その、ちょっと特殊なルートで……」健太は言葉を濁した。


健太は言葉を濁したが、ココは健太の様子から何かを察したようだった。その瞳には、確信の色が浮かんでいた。


「ふうん、面白いね。お兄さん、もしかして、この街で商売を考えてるのかい?それとも、何か困っていることでもあるのかい?」


ココは健太の目を見つめ、まるで彼の心を見透かすかのように問いかけた。その鋭い視線に、健太はたじろいだ。


「ええ、まあ……」


健太は言葉を濁したが、ココはさらに畳みかけるように問い詰めた。


「その『特殊なルート』とやらが、この街で大きな利益を生むと、私は直感しているんだけどね。お兄さん、もしかして、遠い異国から来たとか?それも、この世界では手に入らないような、珍しい品をたくさん持っているとか?」


ココの言葉に、健太は思わず息を呑んだ。なぜ、この女性はそこまで見抜くことができるのか。健太の動揺を見逃さず、ココはさらに畳みかけた。


「どうだい?図星だろう?その様子だと、伝手が必要なんじゃないのかい?私には、貴族とのパイプもある。お兄さんのその『稀少な品』と、私の商売のノウハウを組み合わせれば、きっと大きな利益を生み出せる。どうだい?私と組んでみないかい?」


ココは健太の動揺を見逃さず、さらに一歩踏み込んだ。

「お兄さん、『異世界から来た』って言うのは本当でしょう?その目……この世界の常識に囚われない、現実世界を知る者の目よ」


健太は心臓が跳ねるのを感じた。なぜ、この女性はそこまで見抜くことができるのか。彼の顔から血の気が引いていくのを、ココは冷徹なまでに観察していた。


「驚くことないわ。商売人は観察が命だから」

ココの指が、健太が握りしめていた医療用ペンライトをそっと撫でる。


「これは明らかにこの世界の技術じゃない。でも、もっと重要なのは……」

彼女の声が低く、甘く、そして有無を言わさぬ響きを帯びる。


「お兄さんがそれを『どうやって手に入れたか』よ。そして、その『手に入れた場所』には、まだ他にも『珍しい品』があるんじゃないかしら?」

健太は喉がカラカラに乾くのを感じた。彼女の言葉は、まるで彼の心の奥底に直接語りかけてくるようだった。抗おうとしても、言葉が紡げない。


「……僕は……違う世界から来たんだ……」

健太は、まるで操られるかのように、ついに秘密を打ち明けてしまった。それは、彼の理性では止められない衝動だった。

ココは健太の話を真剣に聞き、やがてにやりと笑った。「やっぱりね!じゃあ話は早いわ。そのルート、私がプロデュースしてあげる。お兄さんの『珍しい品』はリスクも大きいが、うまくやれば莫大な利益を生み出せる。どうだい?私と組んでみないかい?私は貴族とのパイプも持っている。グライフブルクでの商売は、私に任せてくれればいい。損はさせないよ。」


ココの提案は、健太にとってまさに渡りに船だった。彼は商売の知識に乏しく、貴族との繋がりなど皆無だったからだ。オットーもいるが、彼だけでは貴族との取引は難しかっただろう。


「貴族とのパイプ、ですか……それは、心強いですね。ぜひ、お願いします!」


健太はオットーに目配せして、肯定的な態度であることを確認し、流されるままココの提案を受け入れた。少なくとも、こんなおっかない商人を敵に回すことは、避けたほうがいい。健太は、なし崩し的に天才商売家とタッグを組むことになった。


ココの卓越した商才に助けられ、健太とオットーの商売は急速に軌道に乗り始めた。ココは貴族との繋がりを活かし、健太が持ち込んだ現実世界の品々、特に香辛料や磁器、茶葉、砂糖などを次々と高値で売りさばいていった。その手腕は、まさにプロフェッショナルだった。


「まさか、こんなに早く利益が出るとは……ココさん、本当にすごいな」


健太は、帳簿に記された数字を見て、思わず感嘆の声を漏らした。ココとの出会いが、異世界での彼の運命を大きく変えることになるだろうと、健太は直感した。それは、希望であると同時に、未知への不安でもあった。


しかし、その一方で、健太の心には新たな疑問が芽生えていた。ココはなぜ、これほどまでに自分に協力してくれるのだろうか?彼女の真の目的は何なのだろうか?そして、貴族とのパイプを持つほどの彼女が、なぜ一介の行商人である健太に目をつけたのか……。


健太は、ココの笑顔の裏に隠された何かを感じ取っていた。それは、底知れない深淵を覗き込むような感覚だった。

ココの裏の顔とはいったい。。。。?


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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