Episode 039: 新時代の夜明けとレオノーラ恋心
疫病終息から1ヶ月後、王都の宮殿謁見の間で、ケンタは国王に謁見していた。
「グライフブルクの疫病終息は見事であった」
ケンタの頭上からしぶい声がかかる。王様の声だ。
「汝の医療技術は王国の宝である」
まさか王様から呼び出されるなんて。
「多くの民を救った功績は計り知れない」
、、、そろそろ頭下げるの疲れてきた。これって、不用意に頭上げたらヤバい?よね。
国王からの正式な召喚状による謁見の儀で、格式高い宮殿での国王との面会が行われていた。
「これからは、ケンタ・ミッテルフェルト男爵と名乗るがよい」
まじかー、騎士から男爵になってしまったぞ。
「そなたにノイシュタルト村を汝の領地として与える」
男爵位の授与と領地の下賜が行われた。
「光栄に存じます。民のために尽力いたします」
ケンタは答えた。
最高レベルの社会的認知、貴族としての正式な地位獲得、ノイシュタルト村の正式領主化が実現した。
同じ頃、治癒術師ギルド本部でカインツがギルド幹部に昇進していた。
「カインツ・フォン・シュヴァルツを上級幹部に任命する」
ハイマン失脚後の組織再編で、異例の若さでの大出世、改革推進の責任者としての昇進発表が行われた。
「当然の人事だ」
「若すぎるのではないか」
「実績は認めざるを得ない」
改革派、保守派、中立派のギルド内の反応はさまざまだった。
社会的成功への満足、ケンタとの医療パートナーシップも確立され、テレジアへの想いは変わらずという心境だった。
(おめでとう、カインツ)
カインツの大出世を知ったケンタは純粋に祝福していたが、カインツの複雑な感情にはまだ気づいていなかった。ケンタは人間関係の機微に関しては鈍感だった。
数週間後の夕方、男爵位を拝領したケンタが辺境伯邸を訪問していた。
「この度は、正式にご挨拶に伺いました」
格式高い応接間で、ケンタは辺境伯に謁見していた。
「ミッテルフェルト男爵、疫病終息の功績は見事であった」
「ありがたく存じます。このたびのことは、テレジア様の多大なご助力があってこそと考えております。」
「そうか、娘が役になったならなによりだ。」
辺境伯は嬉しそうだ。
「辺境伯家の寄り子として、末永くよろしくお願いいたします」
ケンタの正式な挨拶に、辺境伯は満足していた。
「君のような優秀な人材を得られて光栄だ」
寄り子関係の正式確立で、政治的な後ろ盾を得ることができた。
「テレジア、レオノーラ、君たちも同席してくれ」
辺境伯の呼びかけで、二人の女性が応接間に現れた。
「ケンタ殿、改めてお祝い申し上げます」
テレジアの上品な祝辞に、ケンタは礼を返した。
「テレジア様のご支援なくしては、ここまでこれませんでした」
「レオノーラ殿も、いつも影から支えてくださって感謝しています」
ケンタの感謝の言葉に、レオノーラは静かに微笑んだ。
「当然の任務でした」
「でも...本当に立派な方だと思います」
レオノーラの素直な感想に、テレジアは頷いた。
「私も同感です。真摯で誠実な方ですね」
二人の女性の視線がケンタに向けられる中、ケンタは相変わらず人間関係の機微に気づいていない。
(この人たちの視線がなんだか...でも、きっと気のせいだな)
「今後ともよろしくお願いいたします」
ケンタが深々と頭を下げると、レオノーラの内心で想いが湧き上がった。
<いつからか、この方のことを考えている時間が増えた>
<監視任務が終わると思うと、なぜか寂しい>
<これは...恋なのか?>
<でも、あの方にはフローラ殿がいらっしゃる>
<私の気持ちは胸の奥にしまっておこう>
恋心の自覚が静かに行われた。
テレジアもまた、心の奥で似たような想いを抱いていた。
<彼の真摯さに心を奪われてしまった>
<でも、幸せそうなフローラ殿を見ていると...>
<想うだけで十分なのかもしれませんね>
二人の女性の間で、言葉にならない共感が生まれていた。ケンタへの一方的な恋心を、互いに理解し合う静かな瞬間だった。
数日後、グライフブルク診療所で通常の医療活動が再開されていた。
診療所の待合室には、いつもの活気が戻っていた。
「先生、腰の痛みがだいぶ良くなりました」
老婆が笑顔で礼を言う。アウレオルスが調合した新しい鎮痛薬が効いているようだ。
「ケンタ先生、また新しい取引先を見つけてきたよ!」
ココが意気揚々と契約書を振りながら入ってきた。
窓の外では、マックスが荷馬車で薬品を運んでいる姿が見える。オットーも地方の商人たちと熱心に話し合っていた。
みんなが自分の役割を見つけ、生き生きと働いている。
「みんなが成長して、素晴らしいチームになった」
「私も立派な医療者になれたでしょうか?」
アウレオルスの成長に、ケンタは満足していた。
「今後、アウレオルスにこの診療所を任せたいと思う。」
「本当ですか?」
「ああ、俺はしばらく男爵就任の件で、忙しくなる。アウレオルスなら十分に運営できる。」
「ありがとうございます。がんばります。」
アウレオルスは力強くうなずいた。
「でも、まだ解決すべき謎がある」
(男爵って何をすればいいんだ...?)
ケンタは貴族になったことの実感が湧かず、どんな責任があるのかも理解していなかった。医師としての知識は豊富だが、政治や貴族社会のことは全く分からない。
「それに、異世界転移の仕組みも調べてみたい」
忙しさにずっと後回しにしていたが、そろそろ本格的に調べてみよう。
同日夜、診療所の屋上で、ケンタが一人で夜空を見上げながら思索していた。
「村での出会いから始まって、ここまで来た」
「多くの仲間に恵まれ、多くの命を救えた」
「でも、まだ分からないことがたくさんある」
屋上で星空を眺めながら、これまでのことを振り返っていた。
「なぜ俺が異世界に転移したのか?この神殿とゲートには何か秘密があるはず。時間制限の理由も知りたい」
転移システムへの疑問が生まれた。
「街のことが一段落したから、本格的に調べてみよう」
「まずは森奥の神殿から始めるか」
「フローラも故郷の村には一緒に来てくれるだろう」
新たな調査への決意が固まった。
「健太様、こんなところにいらしたんですね」
フローラが屋上に上がってきた。ケンタの隣に腰を下ろす。
「ああ、なんか寝られなくてね。」
「そうなんですか。」
「思えばいろいろあったけど、俺がこっちにきたゲートについてまだ何も知らないなって考えていた。」
「そういえば不思議ですね。」
「これから、一緒に謎を解き明かそう」
「もちろんです、健太様」
二人は誓い合った。
翌日、ケンタは早速行動を起こした。
「テレジア様、お願いがあります」
辺境伯邸を訪れたケンタは、テレジアに頭を下げた。
「辺境伯家の書物庫に入らせていただけませんか?ノイシュタルト村の神殿とゲートに関する文献を調べたいのです」
「ゲートですか?もちろんです。私も一緒に調べましょう」
テレジアは快く承諾してくれた。
数日後、古い書物に囲まれた書物庫で、ケンタとフローラ、そしてテレジアが調査を開始した。
「この古い文献に、神殿について何か書かれているかもしれません」
分厚い魔法史の本を開きながら、テレジアが説明する。
調査の最中、レオノーラが慌てて書物庫に駆け込んできた。
「テレジア様、大変な知らせです」
「どうしたの、レオノーラ?」
「元上級幹部のハイマンが...下層街で刺されて亡くなりました」
一同に衝撃が走った。
「何だって?詳細を聞かせてくれ」
ケンタが身を乗り出す。
「身分を剥奪されて追放された後、彼は下層街の安宿に潜んでいました。しかし、感染症で家族を失った住民たちに見つかってしまったようです」
レオノーラが報告を続ける。
「『あいつのせいで治療が遅れた』『俺の妻子が死んだのはこいつのせいだ』という声が上がり、複数の住民に取り囲まれました。そして...」
「因果応報というべきか...」
テレジアが複雑な表情で呟いた。
「封建社会では、特権階級の義務違反は民衆の報復を招く。歴史的に見ても、民を裏切った支配者の末路は悲惨なものが多い」
「でも、私的制裁は法の秩序を乱す」
ケンタは医師として、暴力による解決を好まなかった。
「確かにそうですが、下層民の怒りは理解できます。妨害工作により、どれほど多くの命が失われたか...」
レオノーラの言葉に、一同は黙り込んだ。権力と責任、そして民衆の正義について考えさせられる出来事であった。
「せめて、これで本当にすべてが終わったということにしよう」
ケンタが重い口調で言った。
気分を切り替えるように、調査を再開した。
「『古代魔法陣の謎』...これは興味深いですね」
フローラが別の本を発見した。
それがまさか、あんな大変なことになるとは今は知る由もなかった。
どうも、ケンタです。ついに第三章が完結しました。
国王陛下からの男爵位授与、ノイシュタルト村の領主就任...まさか異世界に来てから貴族になるとは思っていませんでした。現代日本の一般的な医師だった自分が、ここまで社会的地位を得られるなんて。
カインツのギルド上級幹部への昇進も、彼の努力の結果です。複雑な感情を抱えている彼ですが、正義感と能力は本物です。今後の活躍に期待しています。
レオノーラさんとテレジアさんには、監視任務や政治的支援で本当にお世話になりました。特に書物庫での文献調査では、テレジアさんの協力なくしては実現できませんでした。二人とも、なんだか最近よく話しかけてくれるようになって、ありがたいことです。
今回の疫病編を通して、みんなが大きく成長したと思います。チーム一丸となって困難を乗り越え、多くの命を救うことができました。
しかし、新たな謎が待っています。異世界転移のメカニズム、あの神殿の秘密、時間制限の理由...解明すべきことはまだたくさんあります。フローラと一緒に、これらの謎に挑んでいきたいと思います。
第四章では、どんな冒険が待っているのでしょうか。期待と不安が入り混じりますが、仲間たちと一緒なら、きっと乗り越えられるはずです。
読者の皆さん、最後まで第三章にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。評価やブックマーク、感想、いいねをいただけると、今後の執筆活動の大きな励みになります。第四章もお楽しみに!




