エピソード4 医療改善への決意と新たな道
しばらくは連日連載します!
ノイシュタルト村の朝は早い。畑仕事に向かう村人たちの足音、井戸端での話し声、そして広場で小さな木の人形を手に遊ぶ子供たちの賑やかな声が響く。村全体が活動を始めるその中で、健太だけは微動だにせず、その視線は一点に釘付けになっていた。
健太の視線の先には、痩せ細った女性が咳き込みながら、広場の隅で座り込んでいる。その隣では、幼い子供が腹を抱えてうずくまっていた。フローラの回復は、健太にとって大きな喜びだったが、同時に、この村の医療の現状を目の当たりにし、重い課題を突きつけられていた。
「くそっ、こんな状況で、俺は一体何ができるんだ……?」
思わず独り言が漏れる。医者として、目の前の、理不尽な病いに苦しむ人々を放っておけない。しかし、現代医療の知識だけではどうにもならない壁が立ちはだかる。薬も、設備も、衛生概念すらも、この世界にはほとんど存在しないのだ。
ある日、健太が村の井戸で水を汲んでいると、一人の村人が話しかけてきた。
「ミッテルフェルト様、フローラ様を助けてくださって、本当にありがとうございますだ。あの子は、もうダメかと思っていましたから……」
村人は深々と頭を下げた。健太は慌てて首を振る。
「いえ、僕は医者として当然のことをしたまでです。それより、この村では、病気になる人が多いのですか?」
健太の問いに、村人は顔を曇らせた。
「ええ、ミッテルフェルト様。特に冬場は、熱を出す者や、腹を壊す者が少なくありません。薬草も貴重ですし、医者もおりませんから、ほとんどは神様にお祈りして……」
村人の言葉に、健太は改めてこの村の医療の厳しさを痛感した。
「神頼み、か……。」
俺の専門は脳外科だが、内科も救急も診てきた。しかし、ここではその知識すら宝の持ち腐れだ。必要なのは、もっと根本的な改善だ。健太は、村の医療を根本から改善する必要性を痛感した。しかし、そのためには、何よりも莫大な資金が必要だった。
その日の夕食時、健太は村長に、この村の医療状況について尋ねてみた。
「村長さん、この村には、医者はいらっしゃらないのですか?」
健太の問いに、村長は寂しそうに首を振った。
「ミッテルフェルト様……この村には、医者などおりません。隣村にも、薬師が一人いるだけです……」
村長の言葉に、健太は薄々予想していたが、それでも驚きを隠せない。
「では、病気になったら、どうするのですか?」
「ほとんどは、安静にして自然に治るのを待つか、お金に余裕があれば薬草を煎じて飲み、神に祈ります。お祈りが届かないと、そのまま……」
村長の言葉は、そこで途切れた。しかし、その先を言わずとも、健太には理解できた。
「……なんて理不尽な世界だ。俺が今まで見てきた医療とは、あまりにもかけ離れている。この状況を、俺は看過できない」
健太の心に、静かな怒りが湧き上がった。冷静沈着でいようと努める彼だが、理不尽な状況を前にすると感情的になる性分だ。
「村長さん、もしよろしければ、僕がこの村で医療活動をしてもよろしいでしょうか?」
健太の言葉に、村長は驚いたように目を見開いた。
「ミッテルフェルト様が……? しかし、ミッテルフェルト様は旅の途中では……」
「ええ、ですが、この村の現状を見て、放っておけません。それに、フローラもまだ経過観察が必要です。しばらくの間、この村に滞在させていただき、皆さんの力になりたいのです」
健太の申し出に、村長は深く頭を下げた。
「ケンタ様……なんと、ありがたいお言葉。ぜひ、お願いいたします!」
村長の目には、希望の光が宿っていた。健太は、村長の期待に応えるためにも、この村の医療を改善することを改めて決意した。
「しかし、どうやって資金を調達するんだ? 幸い、現実世界での貯金は2000万円ある。これは、俺が必死に働いて貯めた、血と汗と涙の結晶と言える。だが、この異世界では、初期資産はゼロ。この世界の通貨も、価値も、何もかもが分からない。まるで、RPGの序盤で装備も金も持たずにラスボスに挑むようなものじゃないか……いや、それ以前に、この世界でどうやってお金を稼げばいいんだ?」
途方もない現状に絶望しそうになる。ふと、異世界と現実世界を行き来できる自身の能力がよぎった。
「そうだ、これだ! 現実世界から異世界へ、何か価値のあるものを持ち込み、それを売る。あるいは、異世界で手に入れた珍しいものを現実世界で売る。そうすれば、資金を調達できるのではないか?これは、まさにチート能力じゃないか!俺、天才か!?」
医療以外ではどこか抜けている健太は、興奮気味に独り言を呟いた。
「よし、商人になろう!」
医者である自分が、まさか商人になる日が来るとは。健太は苦笑した。しかし、この村の医療を改善するためには、それしか道はない。彼は、異世界での新たな目標を胸に、商人としてお金を稼ぐことを決意した。
「まずは、何を売ればいいのか。異世界で需要があり、かつ現実世界で手に入れやすいもの……。例えば、石鹸や塩、現代の技術で作られた日用品は、この世界では貴重品になるはずだ。だけど、いきなり見たことのないものを出しても売れないだろうしな……。まずは手堅く、村の生活に必要なものから始めるか」
健太は、頭の中で様々な品物をリストアップし始めた。その顔には、医者としての使命感と、新たな挑戦への期待が入り混じっていた。しかし、彼がまだ知らない、この世界の「商人」という存在の厳しさが、すぐそこまで迫っていた。
主人公はなぜかド素人なのに商人を目指し始めました。大丈夫でしょうか。
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