Episode 035: フローラ献身とココ活躍
早朝、グライフブルク診療所の臨床試験専用区域で12名の患者が集合していた。
「本当に大丈夫なのか?」
「もし悪化したら...」
「そんな危険なことはやめろ」
患者の不安と疑念、副作用への恐れ、家族からの反対で初日から混乱していた。
さらに、過労と心労でケンタが軽い風邪を発症してしまった。咳と微熱の症状に、周囲は過剰に心配した。
「あれ?昨日の診察記録、どこに置いたっけ?」
体調不良も重なって、ケンタはいつも以上に物忘れが激しくなっていた。
「健太様、それ、さっき本棚にしまわれましたよ」フローラが心配そうに指摘した。
「ああ、そうだった...頭がぼーっとしてるな」
「まさか例の感染症では...?」
フローラの心配に、アウレオルスも「症状が似ている。安静にした方が」と提案した。
「すぐに診察させてくれ!」
カインツの慌てた様子で、予定していた説明会は患者への感染リスクを考慮して中止となった。
「私が患者さんたちとお話しします」
フローラの機転で、アウレオルスとカインツの医学的フォロー体制が整った。
同日午前、診療所の患者待機室でフローラが患者たちの不安を和らげていた。
「私も最初は健太様の治療を受ける時、不安でした」
一人ひとりと丁寧に対話し、自身の体験談で患者の心を開く。
お茶を淹れて緊張をほぐし、家族の心配を理解して一緒に説明を聞く機会を作った。質問や不安を丁寧に聞き取り、ケンタに代わって回答する。
「この娘さんがいるなら安心だ」
「ケンタ殿を支えているだけあって、信頼できる」
患者たちの変化で、徐々に不安が和らぎ、協力的な姿勢になった。
「私にもできることがある」
フローラは患者家族の信頼を実感していた。
<健太様が体調を崩されたのは私のせいかも>
<でも、今は私が皆さんを支えなければ>
<健太様の想いを患者さんに伝えたい>
フローラの内心には使命感があった。
同日昼、臨床試験用の記録用紙不足、患者用の清潔な寝具不足、栄養補給用の食事の手配困難で物資不足問題が発生した。
そんな折、ココがやってきて、商人ネットワークで記録用紙を緊急調達、高級宿屋から清潔な寝具を借用交渉、料理人を派遣して栄養バランスの良い食事を提供した。
「ありがとう。困った時のココ頼みね」
フローラがいう。
「なんの、将来の医療需要拡大への投資だよ。ケンタさんの成功は私たちの成功でもある」
ココは笑って言った。
「辺境伯家として正式にこの試験を支援することになりました。」
テレジアが来訪し、公的支援を取り付けたことを報告した。
「ただし、状況は急速に悪化しています」
テレジアの表情が曇った。
「商業ギルドと貴族院が緊急会議を開き、下層街の完全封鎖を求めています。感染拡大を防ぐためという名目ですが、実際は差別的な隔離政策です」
「さらに、治癒術師ギルドが辺境伯様に『民間医師の治療実験を禁止すべき』と正式に要請しました。政治的な圧力が高まっています」
同日午後、診療所の一室で風邪で休むケンタへのカインツの申し出があった。
「ケンタ殿が感染症に罹患したと聞いて!」
カインツの慌てた訪問に、
「いえ、ただの風邪だと健太様は仰っていますが...」
とフローラは説明した。
「あの感染症と症状が似ている!すぐに診察させてくれ」
カインツは譲らない。
「もし本当に感染症なら、早期治療が必要だ」
安静にしているケンタの部屋に押し通り、診察をするカインツ。
カインツの診察結果はやはり"ただの風邪"だった。
「よかった...いや、でも油断は禁物だ。重複感染の可能性があるので、私が定期的に診察を担当します」
カインツは安堵し、提案する。
「いえ、それには申し訳ない。私が看病します。」
フローラがやんわりと断る。
「医学的な観点から、重複感染の可能性を定期的にチェックした方が良いでしょう」
カインツは医師としての見解を述べた。
「なるほど、確かにそうですね」
「フローラ殿は患者ケアに専念されて、私が医学的なチェックを担当します」
カインツの合理的な提案に、周囲は納得した。
「そういうことでしたら、お願いします」
「分業は効率的ね」とココが同意した。
フローラとココの理解に、カインツは安堵した。
「医師として当然の判断です」
「確かに専門的な視点は重要ですね」ココが納得を示す。
「適切な役割分担だと思います」アウレオルスが冷静に評価した。
一方、フローラは今までにない毅然とした態度を見せていた。患者たちへの対応を通じて、自分にも責任と判断力があることを実感していたのだ。
「お気遣いありがとうございます。でも、看病は私の役目として、医学的なチェックはカインツ殿にお任せします」
フローラの適切な判断で、役割分担が明確になった。
「みんな大騒ぎだね。ただの風邪なのに」
騒ぎを聞いて起き上がってきたケンタは、咳をしながらも元気そうだった。
「カインツ、医学的チェックをお願いします」
ケンタの理解に、カインツは安堵した。
「重複感染の可能性を考慮した適切な判断です」
「医師として当然の対応です」
「専門的な観点から必要な措置です」
合理的な説明で、状況が整理された。
「確かに医学的なチェックは重要ですね」
「カインツさん、さすが専門家ね」
アウレオルスとココの理解で、状況が整理された。
「適切な役割分担だ。フローラには看病を、カインツには医学的チェックを任せよう」
「協力して健太様を回復させましょう」
フローラとカインツの協力体制が確立された。
夕方、ココが最終確認に現れた。
「記録用紙50枚、清潔な寝具12組、栄養バランスを考えた食事の手配、全て完了よ」
「さすがココね。本当に助かったわ」フローラが感謝を込めて言う。
「明日からが本番。みんなで協力して成功させましょう」
テレジアも最後の確認に訪れ、「辺境伯家としてできる限りの支援を約束します。政治的な圧力に負けることなく、この臨床試験を成功させなければなりません」と頼もしい言葉をかけた。
「明日の結果次第で、グライフブルクの政治状況が大きく変わるでしょう。成功すれば民間医療の価値が認められ、失敗すれば治癒術師ギルドの権威が再確立される」
テレジアの言葉で、臨床試験の政治的な重要性が明確になった。
アウレオルスは薬の最終チェックを終え、「品質に問題ありません。明日から安心して投与できます」と報告した。
一日の混乱を乗り越え、チーム一丸となって臨床試験に向けた準備が整った。フローラの成長、ココの商才、テレジアの政治力、アウレオルスの技術力が結集した一日だった。
どうも、ケンタです。
やっと臨床試験の準備が整いました。
正直、自分が風邪で倒れた時は「なんてタイミングが悪いんだ」と思いましたが、その分フローラの成長ぶりを見ることができました。最初はぎこちなかった彼女が、患者さんたちの不安を和らげ、みんなの心を開いていく様子を見て、本当に頼もしく感じました。
そして、カインツの過剰な反応には少し驚きましたが...「看病させてくれ」って、それは婚約者の役目では? まあ、彼なりに心配してくれているのは分かりますし、医師としての責任感なのでしょう。
ココの商才にも助けられました。物資不足の問題を瞬時に解決してくれるなんて、さすがです。テレジアさんの政治的支援もあり、これで本格的に治療を開始できます。
いよいよ明日から、この疫病との本格的な戦いが始まります。特効薬が本当に効くのか、患者さんたちが無事に回復してくれるのか...不安もありますが、みんなの力を信じて頑張ります。
次回はついに、黒幕の正体が明らかになります。この妨害工作を誰が仕組んでいるのか、どうやって証拠を掴むのか...カインツの活躍にも期待してください。
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