Episode 032: 現実世界買い出しとレオノーラ協力
早朝、ケンタとアウレオルスはグライフブルク診療所で汚染源特定後の課題について話し合っていた。
「原因は細菌とわかりましたが、どうやって治療すればよいでしょうか?」
「そうだな、感染源の浄化はカインツにお願いするとして、うちらはまずは故郷で使われていた薬の知識を確認したい。一度故郷に戻ってみるよ。」
ケンタは現実世界での情報収集を提案した。
「リスクはありますが、現状打破には新たな知識が必要でしょう。ケンタ殿の故郷は医学技術において我々より遥かに進んでいる。その知識を活用できれば、この疫病に対抗する手段が見つかるかもしれません。ケンタ殿の留守中はなんとか私が診療所を回しておきます。」
アウレオルスも同意した。彼はケンタが魔法的な何かで遠い国からきたとざっくり認識している。
ケンタは決意を固めて転移の準備を整えた。問題は、ノイシュタルト村までの道のりだ。
「マックス、頼みがある。ノイシュタルト村まで護衛を頼めるか?」
武具の手入れをしていたマックスが顔を上げた。
「ケンタ、この疫病騒ぎの中で、ですかい。しかし、街道を使えば丸一日はかかりやすぜ」
「ああ、わかってる。だから、前回と同じ森の近道を行く」
ケンタが指差したのは、グライフブルクの森を抜ける獣道だ。危険だが、半日で到達できる。
「へっ、面白え。疫病退治の買い出しなら、このマックス様が命懸けで守ってやりまさあ!」
頼もしい相棒の言葉に、ケンタも自然と口角が上がる。
早朝、街の出口でフローラが見送りをしてくれる。
「お気をつけて、健太様」
フローラが心配そうに見送る。
「すぐに戻るよ。」
現実世界にいられるのは2時間だけだから、効率的に動いて最大限の成果を上げないとな。
ケンタとマックスは森の獣道を進んだ。
「今回は魔物の動きが妙ですな」
マックスが斧を構えながら警戒を続ける。森の奥から低い唸り声が響く。
「疫病で街から狩りに出る人が減ったせいで、魔物が森で幅を利かせてるのかもしれない」
ケンタは医師としての直感で分析した。実際、普段なら狩人たちに警戒して隠れているはずの魔物たちが、やけに堂々と活動している。
「オークの群れですぜ。しかも5匹...いや、6匹!」
マックスが素早く戦闘態勢を取る。予想以上の数のオークが木陰から現れた。
「任せろ、ケンタ!」
激しい戦闘が始まった。マックスの斧技は素晴らしいが、さすがに6匹相手は厳しい。
「くそっ、多すぎる!」
ケンタが後ろに下がろうとした時、足を滑らせて転倒。運動神経の悪さが災いした。
「はぁ、はぁ...もう息が上がってる」
戦闘前から既に森の獣道を歩いて疲れていたケンタは、体力不足を露呈していた。
「ケンタ!」
マックスが振り返った瞬間、オークの一匹がケンタに迫る。
「うわああああ!」
ケンタは必死に這いずって逃げようとするが、オークの大きな手が迫る。その時、マックスが渾身の力で斧を投げつけた。
「死なせるかあああ!」
見事にオークの頭に命中。残りのオークも次々と撃退したが、マックスは息を荒げていた。
「ったく、ケンタの運動神経の悪さは相変わらずだな」
「すまない、マックス。本当に助かった」
半日がかりで、ようやくノイシュタルト村のゲートに到着した。
現実世界の昼、ケンタは自宅の書斎で情報収集を開始した。
「まずは既存の知識を整理しよう」
医学書を取り出し、抗生剤の種類と作用機序を復習した。βラクタム系、マクロライド系、フルオロキノロン系...それぞれの対象となる菌と特徴を確認する。
「薬剤耐性機序も重要だ」
細菌の種類と特徴、特に薬剤耐性のメカニズムについて医学書で確認した後、PCを立ち上げた。
「つぎはPubMedとUpToDateで最新情報をチェックだ」
最新の文献を検索し、新しい抗菌薬や免疫療法について調査した。特にレンサ球菌感染症と免疫強化アプローチの研究論文を重点的に読む。
抗生物質は病原体を直接攻撃する仕組みだが...
免疫システムが体の自然な防御メカニズムとして重要だ。
異世界ではポーションによる免疫強化アプローチの方が技術的に実現可能かもしれない
重要な発見であった。有用な文献をプリントアウトし、参考書と合わせてボストンバッグに詰め込む。
「あと1時間半しかない。急がないと」
時間プレッシャーを感じながら、効率的な買い物作戦を開始した。
「よし、本屋で医学書と薬学書を購入しよう」
大型書店に向かい、感染症学と免疫学の最新テキストを厳選。異世界での応用を考慮し、基礎から応用まで幅広く選んだ。
「次は、なじみの卸さんに連絡を」
スマホを取り出し、医療器具販売会社の営業担当に電話した。
「山田さん?ケンタです。急なお願いなんですが...」
「おお、ケンタ先生!お久しぶりです。どうされました?」
「実は研究用に器具と薬品サンプルが必要で。今から取りに行ってもいいですか?」
「もちろんです!30分後なら準備できますよ」
電話を切ると、薬局へ向かった。改良ポーションの原料になりそうなサプリメントや漢方薬を片っ端からカゴに入れていく。
「お客様、それ全部ですか?」
レジの店員が目を丸くする。
「はい、研究用なので」
ボストンバッグ1個目が重さで形を変えていく。持ち手が手に食い込んで痛い。
「ついでにラノベも...」
時間を意識して我慢しようとしたが、フローラへのお土産のお菓子・小物も購入した。
ボストンバッグ2個目も満パンになり、残り30分で必死に物を詰め込む。重量が限界に近づいているが、まだ入る。
最後の最後で、ライトノベルを数冊追加してしまった。
「残り10分!」
自宅に駆け込む。
重いバッグを両肩に掛け、もう一つを手に持った。歩くたびによろめく。
「転移場所まであと5分...間に合うか?」
息を切らしながら小走りになる。通行人が不思議そうに見ているが、構っている暇はない。
転移場所に到着。時計を見ると残り30秒。
「ぎりぎりセーフ!」
光に包まれながら、ケンタは安堵のため息をついた。
異世界の夕方、ケンタは大きな荷物を抱えて帰還した。しかし、街の様子がおかしい。
「お疲れ様でした、健太様。でも...」
フローラの表情は暗かった。
「街の様子が一変しています」アウレオルスが説明した。
中央通りを歩いてきたケンタも気づいていた。普段の賑わいは消え、多くの店舗が板で打ち付けられている。人々は急ぎ足で通り過ぎ、誰もが他人との接触を避けている。
「感染が中間層にも広がって、商人たちが営業を停止し始めているんです」
フローラが状況を説明する中、来訪者があった。
「ミッテルフェルト殿にお話があります」
レオノーラが現れた。
「はじめまして。私はレオノーラ=フォン=ブリュッヒャーと申します。辺境伯直属の情報士官です。辺境伯様の命で監視しておりましたが...」
「あなたの真摯な姿勢を拝見し、協力したくなりました」
「情報士官として、調査をお手伝いします」
レオノーラの協力申し出に、ケンタは驚いた。
「ありがたい。でも、なぜ急に?」
「実は...上層住民の間でも感染への不安が高まっています」
レオノーラが深刻な表情で続けた。
「貴族の邸宅でも、使用人を通じた感染を恐れて、下層街出身の使用人を解雇する動きが出ています。このままでは社会全体が混乱します」
「都市全体の問題になっているということですね」
ケンタは事態の深刻さを理解した。
「私の情報網で感染拡大状況を把握し、効率的な対策を支援します。監視から協力へ、任務の意味も変わりました」
レオノーラの心境に変化が起きていた。
深夜、診療所の居住部分でフローラがケンタに寄り添った。
「明日からさらに危険な調査が始まる」
「健太様、大丈夫でしょうか?」
フローラの不安にケンタは内心の動揺を感じた。現実世界のラノベの恋愛シーンを思い出す。
「現実はもっと複雑で、責任も重いけど...」
「でも、フローラがいてくれる」
「どんな困難があっても、一緒に乗り越えましょう」
フローラの言葉に、ケンタは答えた。
「君がいてくれるから、頑張れるんだ」
フローラが不安からケンタに寄り添う。ケンタのムッツリな内心と理性の葛藤が始まった。現実とライトノベルの恋愛の違いに戸惑いつつも幸福感を感じる。
フローラとは危険を共有することで、より深い信頼関係に発展した。
翌日からの本格的な調査に向けて、新たな協力者を得たケンタ。レオノーラの情報網とフローラの支えがあれば、きっと疫病を解決できるはずだった。
現実世界で得た知識と、異世界の仲間たち。両方の力を合わせて、困難に立ち向かう準備が整った。
どうも、ケンタです。
今回は、久しぶりに現実世界に戻って情報収集をしました。マックスとの森の冒険は、正直死ぬかと思いました...。6匹のオークって、多すぎでしょう。俺の運動神経をもってしても、本当に危険でした。
でも、危険を冒してでも、最新の医学情報を調べられたのは良かったです。免疫強化アプローチが鍵になりそうですね。
そして、ついでに買ったライトノベルは...まあ、息抜きも大切ですよね? フローラへのお土産も買えたし。
レオノーラさんが協力してくれることになったのも大きな進展です。監視から協力へ、人間関係って面白いものですね。
次回は、いよいよ特効薬の開発に取り掛かります。現実世界の知識を活かして、なんとか解決策を見つけたいです!
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