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異世界転移した医師、成り上がりつつポーション革命を起こします  作者: アルゼン枕子
三章 陰謀疫病編 ──黒幕の野望と民の救い──
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Episode 030: 妨害工作とレオノーラの理解

早朝、治癒術師ギルド本部の密室で、保守派幹部3名が秘密会議を開いていた。


「例の新参医師[ミッテルフェルト殿]の『疫病調査』について話し合いたい」


筆頭格の幹部が重々しく口を開いた。


「また厄介な『改革』を始めるつもりか」


別の幹部がため息をつく。


「廉価ポーションに続き、我々の利権を脅かすつもりだ」


「今度は何を企んでいる?我々の治療魔法で十分なはず。細菌だの何だの、訳の分からないことを言い始めた」


「感染症が魔法で治らないなど、ギルドの権威を失墜させる暴言だ」


幹部たちは口々に不満を漏らした。彼らの目には、ケンタの調査は自分たちの利益を害するもので、いたずらに混乱をもたらす厄介者として映っていた。


「調査の邪魔をして、手を引かせよう」


妨害工作の決定が下された。情報流出の阻止、協力者への圧力、噂の流布。具体的な方法が次々と決められていく。




同日午前、グライフブルク下層街でケンタとフローラが聞き取り調査を継続していた。


「おかしいな」


ケンタは眉をひそめた。昨日まで協力的だった住民たちの態度が明らかに変わっている。


「健太様、何か様子が違いますね」


フローラも不安そうに周囲を見回す。


「ああ、明らかに警戒されている。何か起こったんだろう」


昨日の聞き取りメモを確認しながら、ケンタは状況を分析した。


「おい、あの医者に関わるんじゃねえぞ」


路地裏から聞こえてくる脅しめいた声。昨日まで協力的だった住民の家の前に、ガラの悪い男たちが立っていた。治療術師ギルドの回し者だろうか。


「これ以上探りまわったらどうなるか、分かってんだろうな」


男が一歩前にでる。ケンタは一歩後ろに下がる。ソーシャル・ディスタンスは感染予防に大事なのだ。


「へっ、病気なんざ放っときゃいい。どうせ俺らみたいな貧乏人は死んでも誰も困らねえ」


別の男が吐き捨てるように言った。


「それより、あの医者に協力したらてめえの仕事がなくなるぞ。分かってんのか?」


協力的だった日雇い労働者への脅迫は露骨だった。


「栄養がどうたらって聞き回ってるらしいが、笑わせるぜ。俺らがまともに飯食えねえのは今に始まったことじゃねえ」


「そうだそうだ。貧乏人の死に様なんか調べて何になる」


「死亡率の違いを理解するために必要なんです」


ケンタは住民に丁寧に説明した。感情的にならず、冷静に状況を分析している。


(なんで俺がこんなことに巻き込まれるんだ...普通に診療だけしていたい)


内心では少し愚痴っぽく思いながらも、医師としての責任感が勝っていた。




遠くから一部始終を目撃していたレオノーラは、心の中で驚いていた。


「この人は...住民のことを本当に考えている。ギルドの妨害があっても、彼の姿勢は変わらない」


ケンタが住民を説得ではなく、理解しようとしている様子。妨害に遭っても冷静で、住民を責めない態度。真摯に疫病の解決を目指している姿勢。


「ギルドの人たちは公益のためと言っているが、実際には下層民を脅している。この医師の方がよほど民に寄り添っている」


レオノーラの評価が変わり始めていた。




昼、テレジアが診療所を訪れた。


「疫病の件で緊急に相談したいことが」


テレジアの表情は普段より深刻だった。突然の来訪にケンタは驚いたが、手が離せず、フローラが応対した。


「感染が中間層にも広がり始めています」


テレジアは重大な報告をした。


「中央市場の商人や職人の家族に感染者が出始めました。下層街の日雇い労働者が仕事先で感染を広げている可能性があります」


ケンタが手を止めて振り返った。


「中間層にも?それは予想していたが...」


「市場の一部が自主的に営業を停止し始めています。商人たちの間に不安が広がっているのです」


テレジアは続けた。


「このままでは都市全体に感染が拡大する可能性があります」


「テレジア様、お疲れ様でございます」とフローラが挨拶した。


「フローラ、あなたもケンタ殿と共に危険な調査を続けていると伺いました」


「どんな危険があっても、健太様をお一人にはできません」


フローラの決意の深さと、拡大する感染状況に、テレジアは複雑な感情を抱いた。


<私もケンタ殿のために何かしたい>


そんな気持ちが心の中で高まっていく。


<これは...恋なのかもしれない>


テレジアは自分の気持ちを自覚し始めていた。


その時、カインツが治癒術師、聖騎士としての公務で来訪した。


「ミッテルフェルト殿、また勝手な調査ですか」


テレジアがケンタを"ケンタ殿"と親しく呼ぶのを目撃したカインツは、つい冷たい態度を取ってしまった。


<なぜテレジア様は彼を...?いや、自分はなぜこんなに苛立つ?>


内心で激しい嫉妬と混乱を感じながらも、カインツは表面的には冷静を装っていた。


<これは単にテレジア様のためだ。彼に負けたくないだけだ>


カインツは自分の感情を誤認していた。





深夜、疲労困憊のケンタはフローラが先に休んだ後の一人時間を楽しんでいた。


「たまには現実逃避も必要だよな」


現実世界から持参のライトノベルを取り出す。


「異世界転移ものが王道だよね。ふむふむ、主人公がチート能力を...」


内容に思わずニヤニヤしてしまう。


「俺の場合はチートじゃなくて、ただの医学知識だけどな」


この世界でも、趣味に没頭できる幸せケンタは満喫する。


ライトノベルの内容に現実を重ね合わせながら、ケンタは束の間の休息を味わっていた。




その時、遅い時間にカインツが診療所周辺の警備状況を確認に来た。


妨害工作が行われている中、医師の安全確保のため診療所の状況をチェックしていたのだ。


窓から漏れる明かりで、ケンタが一人で本を読んでいる様子が見えた。


<この人も...普通の人間なんだな>


一人でニヤニヤしながら本を読む姿を目撃したカインツは、複雑な感情を抱いた。


<俺と同じように、一人の時間を大切にしている>


同業者としての親近感が湧いてきた。


<なぜこの姿を見ると...ほっとするのだろう?>


医師として、彼がリラックスできていることに安心を感じていた。


<そうか、俺は医師同士として、彼の無事を確認したかっただけなのか>




同じ頃、診療所周辺の屋根上でレオノーラが一日の監視を総括していた。


屋根上から診療所全体を見下ろしながら、一日の観察で得た印象を整理する。


「ミッテルフェルト殿は下層街で何らかの調査を実施。医療関連と思われるが詳細不明」


羊皮紙に報告書を記しながら、レオノーラは今日の出来事を振り返った。


「任務として監視を開始したが...」


ペンが止まった。客観的な報告書を書こうとしているのに、どうしても主観的な印象が混じってしまう。


「ただの医師にしては行動が組織的だが、悪意は感じられない」


むしろ、住民のことを真剣に心配しているように見えた。ギルドの妨害に遭っても、決して感情的にならない姿勢。


「辺境伯様は警戒するよう仰ったが...」


職務と個人的な印象の間で、レオノーラは揺れていた。


「もう少し詳しく観察する必要がある。それが任務への責任だ」


そう自分に言い聞かせながら、レオノーラは決意を新たにした。しかし、その決意の奥底には、警戒心とは異なる、理解への欲求が芽生え始めていた。


カインツが診療所の警備状況を確認しているのも目撃したが、それもまた興味深い光景だった。


「この人は...敵ではない」


レオノーラの評価は警戒から理解へと転換していた。監視任務への真面目な取り組みが、次の段階への布石となろうとしていた。


疫病の脅威と政治的な対立が複雑に絡み合う中、人間関係もまた新たな局面を迎えようとしていた。

どうも、ケンタです。

今回は、治癒術師ギルドの妨害工作が本格化してきました。ギルドが住民を脅すなんて、本当に許せません。でも、感情的にならず冷静に対処するのが大切ですね。

テレジア様がちょっとぎこちないんですよね、何か悩みがあるんでしょうか。今度じっくり聞いてみるつもりです。

カインツも相変わらず真面目ですね。妨害工作の中で診療所の警備まで気にかけてくれるなんて、さすが聖騎士です。彼なりに俺たちの安全を心配してくれているのがよく分かります。

レオノーラさんの評価が変わってきているのは良い兆候ですね。監視から理解へ、そして協力へと進んでくれることを期待しています。

次回は、いよいよ感染源の特定に取り組みます。ギルドの妨害に負けずに、この疫病を解決してみせます!

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