エピソード3:フローラとの恋と秘密の告白
しばらくは連日連載する予定です。
夕暮れ時、西の空は燃えるような茜色に染まり、村の家々からは夕食の準備をする煙が細く立ち上っていた。遠くの森からは鳥のさえずりが聞こえ、風が草木を揺らす音が心地よい。そんな穏やかな風景の中、村の小道を二つの影がゆっくりと進んでいた。健太とフローラだ。
フローラの回復のための散歩は、健太にとって日課であり、何よりも心待ちにしている時間となっていた。彼女の病弱だった体は、健太の医療知識と献身的なケアによって、見違えるように健康を取り戻しつつあった。
「フローラ、今日は少し遠くまで歩けたね。体調はどう?」
健太は、隣を歩くフローラに優しく問いかけた。
「はい、健太様のおかげで、すっかり元気になりました。こんなに体が軽いのは、生まれて初めてかもしれません」
フローラは、はにかむように微笑んだ。その笑顔を見るたびに、健太の胸は甘く締め付けられる。
(くそっ、可愛いな。この笑顔を守るためなら、俺はなんだってできる気がする。いや、待て。俺は医者だ。冷静に、冷静に……って、無理だろ!こんな可愛い子を前にして、冷静でいられるわけがない!)
健太は心の中で独りごち、顔が熱くなるのを感じた。医療現場では常に冷静沈着を心がけている健太だが、フローラのこととなると、途端に理性が吹っ飛んでしまう。
ある日の夕暮れ、いつものように散歩を終え、フローラの家の前で別れを告げようとした時だった。健太は意を決し、フローラの手をそっと握った。
「フローラ……君のことが、好きだ。僕と、お付き合いしてくれないか?」
健太の声は、自分でも驚くほど震えていた。フローラは驚きに目を見開いたが、すぐにその白い頬を赤く染め、小さく頷いた。
「はい……健太様。わたくしも、健太様のことが……」
フローラの声はか細かったが、その瞳は健太への想いを雄弁に語っていた。健太は嬉しさに胸がいっぱいになり、まるで夢の中にいるような心地だった。
(やった!やったぞ俺!まさか、こんな異世界で、こんな可愛い子と付き合えるなんて!これはもう、人生の勝ち組だろ!ああ、この喜びを誰かに伝えたい!そうだ、あのゲームのヒロイン攻略ルートをクリアした時以上の達成感だ!いや、それ以上だ!リアルだもん!)
健太は心の中で歓喜の雄叫びを上げ、嬉しさのあまり、その場でスキップでもしそうな勢いだった。しかし、なんとか理性を保ち、フローラの手を握りしめた。
二人の交際が始まり、関係はより一層深まった。健太は、フローラに自分の秘密を打ち明けることを決意した。
「フローラ、君に話しておきたいことがあるんだ。実は、僕は……この世界の人間じゃないんだ」
健太は、自宅のクローゼットと繋がっているゲートの存在、そこから持ち込んだ医療道具のこと、そして今後、そのゲートを使ってこの世界のために何かできないかと考えていることを、ゆっくりとフローラに語った。フローラは健太の話を真剣な眼差しで聞き入っていた。その瞳に、一切の疑いはなかった。
「健太様は、やはり神の遣いなのですね。わたくし、健太様のお手伝いをさせていただきます。健太様がこの世界にもたらすであろう変化を、わたくしは確信しております」
フローラの言葉に、健太は安堵と喜びを感じた。彼女が自分の秘密を受け入れ、さらに協力まで申し出てくれたことに、健太は深く感動した。
ある日の夕暮れ、二人は村の近くの美しい花畑を訪れた。夕陽が黄金色に花々を照らし、甘い香りが風に乗って健太とフローラを包み込む。健太はフローラの隣に座り、そっと彼女の手を握った。その指先から伝わる温もりが、健太の心を安らぎで満たした。
「フローラ、この花畑のように、君といると心が満たされるんだ。異世界に来て、不安ばかりだったけど、君がいてくれたから、毎日がこんなにも輝いている。君は、俺にとっての希望だ」
健太の真剣な眼差しに、フローラは頬を染め、潤んだ瞳で彼を見つめた。
「健太様……わたくしも、健太様がいなければ、今頃どうなっていたか分かりません。健太様は、わたくしの光です。健太様と出会えて、本当に幸せです」
彼女の言葉に、健太は胸の奥が温かくなるのを感じた。二人の手は、夕陽の中で固く結ばれ、まるで永遠を誓うかのように、互いの存在を確かめ合っていた。花々の甘い香りが、二人の間に流れる穏やかな時間を祝福しているようだった。
その後も、手を取り合って小川のほとりを散歩したりと、穏やかな時間を重ねた。健太はフローラとのデートを満喫し、この異世界での生活が、これほどまでに充実したものになるとは想像もしていなかった。
(フローラといると、本当に幸せだ。この世界に来て、本当に良かった。まさか、こんなに可愛い彼女ができるなんて、現実世界では考えられなかったな。これも異世界転移のご利益ってやつか?いや、俺の努力の賜物だな!うん、きっとそうだ!)
健太は、フローラとの他愛ない会話を楽しみながら、心の中でニヤニヤしていた。
そんなある日、村に衝撃的な出来事が起こった。猟師の村人が、森で大怪我をして運ばれてきたのだ。右前額から頭頂部にかけて10cmほどの深い切創があり、皮下組織まで達していた。動脈を損傷しており、大量の血が流れ出ていた。村人たちは顔面蒼白になり、祈祷師が慌てて薬草を当てようとしていた。
「どいてください!私が治療します!」
健太はすぐに持ってきた医療道具を取り出し、傷口を消毒し、動脈を結紮して出血を止め、そして丁寧に縫合した。健太の迅速で的確な処置により、猟師は一命を取り留めた。この村では、通常この手の怪我で助かる者はほとんどいなかった。
数日後、回復した猟師が健太の元を訪れた。彼の顔には、深い感謝の念が刻まれていた。
「ミッテルフェルト様、この命の恩、決して忘れません。つきましては、毎月、上級の肉を健太様に提供させていただけませんか? わたくしにできる、せめてものお礼です」
猟師は深々と頭を下げ、感謝の気持ちを伝えた。健太は猟師の申し出を快く受け入れた。
「ありがとうございます。助かります。無理のない範囲で、お願いします」
この出来事をきっかけに、村の住民は健太の存在を完全に受け入れ、彼への信頼を一層深めた。健太は村の英雄となり、その医療技術は村中に知れ渡ることになった。
しかし、健太の心には、新たな課題が芽生え始めていた。この世界の医療は、あまりにも未発達だ。自分の知識と技術があれば、もっと多くの命を救えるはずだ。だが、そのためには、もっと多くの医療品が必要になる。そして、それらを手に入れるためには……。
3話目にしてお付き合いとは、手が早い健太ですね。
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