エピソード026:初の特許料と内輪パーティ
廉価版ポーションの成功は、俺たちの想像を遥かに超える速度で、グライフブルクの街を駆け巡った。
「ケンタ殿、やりましたな! 錬金術師ギルドが、正式にポーションの製法を特許として認定しましたぜ!」
オットーが、ギルドの紋章が入った羊皮紙を手に、興奮気味に報告に来た。俺とアウレオルスが共同開発したこのポーションは、その革新性と有用性が認められ、異例の速さで特許登録されたのだ。
「これで、他の誰にも真似されることなく、俺たちの手でこのポーションを広めることができる」
「ええ。そして、正当な対価も得られます。医療は、慈善事業だけでは成り立ちませんからな」
アウレオルスと俺は、固い握手を交わす。特許料の交渉はココとオットーに一任し、量産そのものは錬金術師ギルドの工房ネットワークに委託する方針を決めた。俺たちは診療所の運営と臨床データの収集に集中する──それが、患者を直接救いながら品質改善を続ける最短ルートだからだ。その結果、特許料の一部が、定期的に俺たちの元へ入ってくることになった。初めて手にした特許料は、決して大金ではなかったが、ずっしりとした重みがあった。それは、俺たちの血と汗と涙の結晶だった。
「よし、今夜はパーティだ! 苦労を共にした仲間たちと、ささやかに成功を祝おう!」
俺の提案に、診療所の皆は歓声を上げて賛成した。
その夜、診療所の食堂は、温かい光と、楽しげな笑い声に包まれた。集まったのは、俺、フローラ、マックス、オットー、ココ、アウレオルス。そして、俺の招待に応じてくれたテレジアと、なぜか彼女についてきたカインツもいた。
「まずは、乾杯しよう。俺たちの未来と、このポーションを必要とする全ての人々のために! 乾杯!」
俺が高らかに杯を掲げると、皆もそれに倣う。カインツだけは、少し不満げな顔で、しぶしぶ杯を合わせたが。(なんだこのリア充空間。昔ハマったエロゲのハッピーエンドCGみたいだ)
テーブルには、フローラと街の料理人が腕を振るったご馳走が並ぶ。マックスとオットーは、酒を酌み交わしながら、昔の武勇伝(ほとんどがマックスの自慢話)で盛り上がっている。ココとテレジアは、意外にも意気投合したようで、都市の経済や女性の社会進出について、熱心に語り合っていた。
「……それにしても、見事なものだな、ミッテルフェルト。まさか、本当にギルドを出し抜いて、新しいポーションを完成させるとは」
カインツが、少し離れた場所で一人酒を飲んでいた俺に、話しかけてきた。
「カインツ殿のおかげでもある。あの時の情報は、本当に助かった」
「ふん、勘違いするな。私は、ギルドのやり方が気に入らなかっただけだ。お前のためではない」
相変わらず素直じゃない。だが、その口元が、ほんの少しだけ緩んでいるのを、俺は見逃さなかった。
宴もたけなわとなった頃、それまで静かに料理を味わっていたアウレオルスが、すっくと立ち上がった。
「……皆さん、少しだけ、よろしいでしょうか」
彼のただならぬ雰囲気に、皆の視線が集まる。
「私は……ケンタ殿を、そして皆さんを、欺いていました」
アウレオルスは、自らが錬金術師ギルドから送り込まれた刺客であったこと、当初は俺の技術を盗み、その功績を独り占めにするつもりだったことを、全て正直に告白した。
食堂は、水を打ったように静まり返る。マックスが、こめかみに青筋を浮かべるのが見えた。
「だが……ケンタ殿と共に過ごすうちに、私は知りました。真の科学とは、真の錬金術とは、誰かを蹴落とし、名声を得るためのものではない。人々の苦しみを和らげ、未来を照らすためにあるのだと」
彼は、俺の前に進み出ると、深々と頭を下げた。
「ケンタ殿! この愚かで、未熟な私を、どうか、あなたの弟子にしてください! あなたの下で、本物の医療を、錬金術を学びたいのです!」
その声は、震えていた。だが、そこには、一片の嘘もなかった。
俺は、ゆっくりと立ち上がると、彼の肩に手を置いた。
「顔を上げろ、アウレオルス殿。お前は、もうとっくに、俺の大事な仲間だ。弟子なんて水臭い。これからも、パートナーとして、共に歩んでいこう」
「……ケンタ殿」
アウレオルスの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。それを見たフローラも、もらい泣きしている。まったく、今夜は感動的な場面が多すぎる。
こうして、俺たちの小さな祝賀パーティは、新たな絆の誕生と共に、幕を閉じたのだった。
ケンタです。
いやあ、最高のパーティでした! 特許料も手に入ったし、何より、最高の仲間たちと成功を分かち合えたことが、一番の喜びです。
アウレオルスの告白には驚きましたが、彼の覚悟、しかと受け止めました。これからは、最高のパートナーとして、一緒に頑張っていこうな!
カインツも、なんだかんだで来てくれて、ちょっと嬉しかったです。
さて、これで第二章も一区切り。でも、物語はまだ終わりません。次回、成功の裏で、新たな脅威が静かに忍び寄ります。
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