エピソード025:試作第四号、ついに??
度重なる失敗と、ギルドからの執拗な妨害。それらすべてを乗り越え、俺とアウレオルスは、試作第四号の調合に臨んでいた。実験室には、これまでとは違う、静かな熱気が満ちている。
「……ケンタ殿。最終確認です。基幹薬草Aの抽出液、濃度15%。補助薬草B、Cを粉末化し、触媒として微量添加。安定化溶媒は、例の『蒸留水』をベースに、私が改良を加えた魔力親和性の高い液体を使用します」
「ああ、頼む。魔力注入のタイミングは、俺が合図する」
アウレオルスの声は、いつになく真剣だ。彼の天才的な錬金術の知識と、俺の持つ現代薬学の知識。そして、フローラやココ、オットー、カインツといった仲間たちの協力。その全てが、この一滴に注ぎ込まれようとしていた。
調合は、慎重に進められた。アウレオルスが、ガラス器具を巧みに操り、ミリグラム単位で薬草を調合していく。その手つきは、もはや芸術の域に達していた。俺は、彼の隣で、液体の色や粘度の変化を注意深く観察し、最適な魔力注入のタイミングを計る。
「……今だ!」
俺の合図と共に、アウレオルスがフラスコに手のひらをかざす。彼の体から発せられた淡い光が、液体にゆっくりと吸い込まれていく。液体は、一瞬激しく泡立った後、美しい翡翠色に変化し、静かに輝き始めた。
ゴクリ、と誰かが息を呑む音が響く。実験室の隅で、フローラが祈るように手を組んで見守っていた。
数分が、永遠のように感じられる。だが、ポーションの色は、もう変化しなかった。淀んだ茶色になることも、異臭を放つこともない。ただ、静かに、美しく輝き続けている。
「……成功、ですかな?」
「……ああ、たぶん。あとは、効果の検証だ」
俺たちは、顔を見合わせた。疲労困憊のはずなのに、自然と笑みがこぼれる。
最初の被験者は、俺が務めるべきだろう。だが、その役目を買って出てくれたのは、フローラだった。
「ケンタ様。私に、飲ませてください」
「フローラ? だめだ、まだどんな副作用があるか……」
「いいえ。私は、ケンタ様が作る薬を、誰よりも信じていますから。それに、私はケンタ様の最初の患者ですもの」
彼女の瞳には、絶対的な信頼と、強い意志が宿っていた。その思いを、無下にはできなかった。
俺は、完成したばかりのポーションを、小さな杯に注ぎ、フローラに手渡した。彼女はそれを受け取ると、次の瞬間、懐から取り出した小さなナイフで、自らの手の甲を軽く傷つけた。
「フローラ、何を!?」
俺が止める間もなく、彼女は杯を一気に煽った。傷口からは、ほんのわずかに血が滲んでいたが、ポーションが体内に行き渡ると、その傷は淡い光に包まれ、見る見るうちに塞がっていく。まるで、何もなかったかのように。
「……どうだ?」
「……温かいです。それに、見てください。傷が、すっかり……」
フローラはそう言うと、ふわりと微笑んだ。その顔色は、心なしか、いつもより血色が良く見える。念のため脈を取り、聴診器を当ててみるが、異常はない。むしろ、心拍は安定し、呼吸も穏やかだ。
「……良かった。本当に、良かった……。でも、フローラ。もう二度と、こんなことはしないでくれ。君の体を傷つけるなんて……俺は、君に何かあったら……」
「ごめんなさい、健太様。でも、あなたの薬の効果を、誰よりも先に、この身で証明したかったのです」
「……成功だ。ついに、やったぞ……!」
俺は、思わずフローラを抱きしめていた。アウレオルスも、眼鏡の奥の瞳を潤ませながら、ガッツポーズを繰り返している。数えきれないほどの失敗の末に掴んだ、あまりにも大きな成功だった。
この朗報は、すぐに診療所中に広まった。患者たちは、まだ半信半疑ながらも、期待に満ちた目で俺たちを見つめる。
その日の午後、アウレオルスの元に、一羽の伝書鳩が届いた。錬金術師ギルドからの、最後通牒だった。
「『ミッテルフェルトから技術を奪取し、速やかに帰還せよ。応じぬ場合は、ギルドからの永久追放も辞さない』……と」
手紙を読み上げたアウレオルスは、しかし、ふん、と鼻で笑った。
「くだらない。私の才能は、旧態依然としたギルドの利権を守るためにあるのではない。この世界の、真の進歩のために使うのです」
彼は、その手紙をくしゃくしゃに丸めると、ゴミ箱へと投げ捨てた。その横顔は、かつての刺客の面影はなく、真理を探究する一人の研究者のものだった。彼の心は、もう完全に、俺たちと共にあった。
ケンタです!
やりました! ついに、ついに廉価版ポーションが完成しました!
ここまで本当に長かった……。何度も心が折れそうになりましたが、フローラやアウレオルス、そして仲間たちのおかげで、ようやくここまで来ることができました。
フローラが最初の被験者になると言った時は、正直、生きた心地がしませんでしたが……彼女の信頼に応えられて、本当に良かったです。
そしてアウレオルス、お前、最高にかっこいいぜ!
さあ、ここからが本当のスタートです。次回、この成功を祝して、ささやかなパーティを開きます!
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