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異世界転移した医師、成り上がりつつポーション革命を起こします  作者: アルゼン枕子
二章 ギルド抗争編 ──安価な奇跡を巡る戦い──
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エピソード018:カインツへの相談と医療格差

先日のチンピラとの一件は、俺の心に重い影を落としていた。フローラを危険に晒してしまったことへの自己嫌悪と、見えない敵への怒り。そして何より、このままでは何も変えられないという焦燥感。現状を打開するためのヒントを求め、俺は聖騎士カインツに改めて話を聞くことにした。


診療所の診察が一段落した昼下がり、俺は騎士団の詰め所を訪ねた。幸いにもカインツは非番で、俺の突然の訪問にも快く(とは言え、表情は硬いままだったが)応じてくれた。


「カインツ殿、先日はありがとうございました。改めてお礼を言わせてください」

「礼には及ばん。それより、何の用だ? 私はお前と馴れ合うつもりはないぞ」


相変わらずの素っ気ない態度だが、彼の言葉には奇妙な実直さが感じられる。……もう少し愛想良くてもバチは当たらないと思うが、まあそれが彼なりの優しさなのだろう、と俺は内心で苦笑した。俺は単刀直入に切り出した。


「この街の医療について、教えていただきたいのです。ギルドのこと、治癒魔法のこと、そして……市民が置かれている状況を」


俺の真剣な眼差しに、カインツは何かを感じ取ったらしい。彼は重々しくため息をつくと、ついに重い口を開いた。


「……いいだろう。だが、聞いても気分の良い話ではないぞ」


カインツが語ったグライフブルクの医療の現実は、俺の想像を絶するものだった。


「この街の治癒魔法は、金持ちだけのものだ」


彼の声は、静かな諦観に満ちていた。


「治癒術師の数は絶対的に少なく、その希少性から治療費は膨大な額になる。貴族や大商人は、大金を払ってその恩恵に浴することができるが、大多数の市民にとっては高嶺の花でしかない。


「多くの市民は、怪我をしても病気になっても、気休め程度の薬草で耐えるか、高価だがまだ治癒魔法よりはましなポーションを買うしかない。だが、そのポーションすら、薬屋ギルドに価格を吊り上げられ、満足に手に入らない者も多い。それが、この街の現実だ」


衝撃的な事実だった。俺がノイシュタルト村で見てきた貧しい医療環境は、この大都市にも、形を変えて根付いていたのだ。いや、富める者と貧しい者の格差という点では、より深刻かもしれない。……まさか、異世界に来てまで格差社会の闇を目の当たりにするとは。前世のブラック企業よりタチが悪いかもしれない、と俺は心の中で毒づいた。


カインツの話は、俺の胸に突き刺さった。同時に、俺自身の置かれた状況への危機感が、より一層強くなる。


拠点である診療所をグライフブルクに移したことで、俺は現実世界への渡航が物理的に難しくなっていた。ノイシュタルト村の近くにあるゲートまでは、移動だけで数日かかる上に、厳格な検問が設けられている。第一章でモンスターが氾濫して以降、警戒が強化された影響だ。以前のように現実世界に週一で気軽に往復し、物資を補充するのは、もはや不可能だった。俺の医療の切り札である、点滴や抗生物質といった現代医療品の在庫は、有限なのだ。


いつかは尽きる。その時、俺に何ができる?


カインツが語った医療格差の現実と、俺自身の物資不足という問題。二つの危機感が、俺の中で一つの答えを導き出した。


「……この世界で、誰でも手に入れられる安価な薬が必要だ」


そうだ。それしかない。希少な治癒魔法でも、高価なポーションでもない。この世界の材料で、この世界の技術で安定して供給できる、安価で、それでいて確かな効果のある薬。


「廉価版ポーション……。それを作って、量産するんだ」


現状を打破する唯一の道。俺の中で、新たな目標が確固たる形を結んだ瞬間だった。


俺が決意を固め、カインツに礼を言って詰め所を辞去しようとした、まさにその時だった。一人の少年が、カインツを訪ねてきた。亜麻色の髪に、銀縁の眼鏡。白衣のようなローブをまとった、華奢な少年だ。


「やあ、カインツ。久しぶりだな」

「……アウレオルスか。何の用だ」


カインツは、アウレオルスと名乗るその少年を見て、わずかに眉をひそめた。旧知の仲らしいが、その雰囲気は友好的とは言い難い。


アウレオルスはカインツを一瞥すると、その視線を俺に向けた。眼鏡の奥の瞳が、品定めをするように俺を射抜く。


「あなたが、噂のケンタ・ミッテルフェルト殿ですね。錬金術師ギルドのアウレオルスと申します」


錬金術師ギルド。薬屋ギルド、治癒術師ギルドと並ぶ、医療三大ギルドの一つ。その使者が、なぜ俺の前に?


「カインツは私の旧友でしてね。彼から、あなたの噂はかねがね伺っておりました。あなたのその革新的な医療と……そして、今あなたが思い描いた『廉価版ポーション』の構想に、私は強い関心を抱いております」


彼は、まるで俺の心を見透かしたかのように言った。


「ぜひ、あなたに協力させていただけませんか?」


にこりと、人の良い笑みを浮かべるアウレオルス。だが、その目の奥には、計り知れない野心と、冷たい光が宿っていた。彼の真の目的は、ギルドのための技術奪取。そのための潜入。俺たちの前に現れた新たな協力者は、敵か、味方か。俺の新たな戦いが、今、始まろうとしていた。

お読みいただきありがとうございます!

都市の深刻な医療格差を知り、ケンタはついに「廉価版ポーション」の開発を決意します。そして、彼の前に現れた新たなキャラクター、天才錬金術師アウレオルス。彼の登場が、物語にどんな波乱を巻き起こすのか?

今後の展開にご期待ください!

面白かったら、ブックマークや評価をいただけると嬉しいです!

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