エピソード15 認められた医療と新たな目標
朝焼けが辺境の村を優しく包み込み、遠くにはまだ雪を抱く山々が連なる。鳥のさえずりが響き渡り、村の広場では、モンスターの氾濫を乗り越えた村人たちが、復興作業に勤しんでいた。その中心には、いつものように白衣を羽織った健太の姿があった。また、辺境伯の娘テレジアも復興の手伝いに来ていた。
「健太殿、今回のモンスターの氾濫で、貴殿の医療技術がどれほど重要か、皆が理解したはずだ」村長グスタフが深々と頭を下げた。
「いえ、村長。皆さんの協力があったからこそです」
健太は謙遜したが、内心では安堵していた。自分の医療が、この世界で本当に役立つと認められたのだ。それは、医者としての彼にとって、何よりの喜びだった。
「ケンタ、お前のおかげで助かった奴がたくさんいるぜ! 本当にありがとうな!」
マックスが健太の肩を力強く叩いた。その顔には、心からの感謝が浮かんでいた。彼の屈強な体躯とは裏腹に、その瞳は優しさに満ちていた。
「ミッテルフェルト殿、貴殿の医療は、この領地にとってかけがえのないものとなりました。今後も、わたくしの領地でその力を存分に発揮していただきたい」テレジアが健太に微笑みかけた。
健太は、モンスターとの戦いでポーションの限界を目の当たりにしていた。
(ポーションは確かにすごい。傷は塞がるし、骨折も治る。でも、出血は止まらないし、内臓の損傷は治せない。まるでゲームの回復アイテムだな。HPは回復するけど、状態異常は治らないみたいな……いや、これは現実だ。もっと根本的な治療が必要だ)健太は心の中で呟いた。
彼は、異世界医療のさらなる改善、特に外科的処置の必要性を痛感していた。
「はい、テレジア様。この地の医療をより良くするために、私にできることは何でもいたします。ポーションだけでは補えない部分を、どうにかしたいと考えています」健太の言葉には、医療への情熱が込められていた。
「そうか。貴殿のその志、私も全力で支援しよう」テレジアは健太の真剣な眼差しに、確かな決意を感じ取った。
その日の夜、健太は自室で一人、現実世界から持ち込んだ医学書を広げていた。ページをめくるたびに、新たな知識が彼の脳裏に刻まれていく。
(この世界の医療レベルを上げるには、まず基礎からだ。衛生管理、診断技術、そして外科手術……。ポーションで治せないなら、俺がやるしかない。でも、異世界で手術なんて、設備も道具も麻酔も何もない。どうすればいいんだ?)健太は頭を抱えた。
(そうだ、現実世界に戻って、必要なものを少しずつ持ち込めばいい。医療器具、消毒液、麻酔薬……。いや、麻酔薬は危険すぎるか?でも、痛みを伴う手術は患者にとって地獄だ。どうにかして、この世界の素材で代用できるものはないか、探すしかない)健太の脳裏には、現実世界と異世界を行き来しながら、より多くの命を救うという新たな目標が明確に描かれていた。
翌朝、健太はフローラに、これからの医療の展望について熱く語った。彼の瞳は、希望に満ちていた。
「フローラ、俺はもっとこの世界の医療を良くしたいんだ。ポーションだけじゃ救えない命がある。だから、現実世界で培った知識と技術を、この世界で活かしたい。そのためには、もっと色々なことを学んで、試していかないと」
フローラは健太の言葉を、真剣な眼差しで聞いていた。その瞳には、健太への深い信頼が宿っていた。
「健太様……。私、健太様がこの世界に来てくださって、本当に良かったって思います。健太様なら、きっとこの世界のたくさんの人を救えます」
フローラの言葉に、健太は決意を新たにした。彼女の存在が、彼の背中を押してくれた。
その日の午後、健太は辺境伯の城でテレジアと向き合っていた。二人の間には、医療への情熱という共通の話題があった。
「テレジア様、外科的処置について、いくつかご相談したいことがあります」
「外科的処置?それは一体……?」
テレジアの顔に、わずかな困惑の色が浮かんだ。この世界の常識では、傷は魔法かポーションで治すもの。外科手術という概念は、ほとんど存在しないからだ。
「はい。例えば、深い傷口の縫合や、体内の異物を取り除く処置などです。ポーションでは治せない、あるいは治癒に時間がかかるような症例に対して、より確実な治療法を確立したいと考えています」
健太は、現実世界で使われる医療器具の図をテレジアに見せた。メス、鉗子、縫合針……。テレジアにとっては、どれも見たことのないものばかりだった。
「これは……見たこともない道具ばかりですね。しかし、ミッテルフェルト殿の言葉には、確かな説得力があります。具体的に、何から始めましょうか?」テレジアは興味津々といった様子で尋ねた。
「まずは、簡単な処置から始めたいと思います。そして、将来的には、この領地に外科医を育成する仕組みを作りたい。そのためには、辺境伯様のご協力が不可欠です」健太は壮大な目標を語った。
「外科医の育成……ですか。それは、この領地にとって、いや、この世界にとって、革命的なことかもしれませんね」テレジアは深く考え込んだ。
健太は、現実世界と異世界を行き来しながら、より多くの命を救うという新たな目標を胸に、その第一歩を踏み出した。彼の挑戦は、まだ始まったばかりだ。しかし、その瞳には、未来への確かな光が宿っていた。
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第一章はこれにてひとまず幕を下ろします。
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