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裏ボスは家出した  作者: Seabird(シエドリ)
第一章 裏ボスは家出した
9/22

攻略不可能

 久しぶりに自分を解放できた喜び。

 俺は今、多少なりとも(えつ)に浸っているのだろう。


「お前はウラディル、なのか?」


 エペが驚いた顔で聞いてきた。


「貴様は”俺”を消しにきたのではないのか?」

「お、お前、は……」

「逃げない、のではないな。恐怖で足がすくんだか、やはり残念だ」

「い、命、だけは……」


 勇者らしくない見苦しさに、俺はため息を吐く。


「質問に答えてもらう。頭を働かせろ。俺が満足したら逃がしてやる」

「た、頼む……」

「貴様らは魔王を倒しに行かないのか?」

「いのち……」


 エペは今にも気絶しそうな様子だ。

 これでは未来に繋がらない。


 俺は再度姿を変え、人間になった。


「これでいいか? 早く答えろ」

「わ、分かった……それは、時代遅れなんだ」

「なんだと?」

「もう勇者と魔王の時代なんて終わってるんだよ!」


 エペのやけくそになった声が、小さな部屋に響いた。


 俺は衝撃を受ける。

 それなら、俺が待機していた意味は……


「そこ、詳しく教えてくれ」


 俺の声は威厳を失い、いつものウラディルに戻っていた。


「周りの国を見てみろ! もう魔法ではなく、機械の時代だ! そもそも、(いま)だに馬車なんて使っているのは、この国だけだぞ!」

「まじかよ……」


 そのような情報を俺は一切知らなかった。

 この国”サージュ”が鎖国政策をとっているとは聞いたことあるが、あの女王がここまで強権的だとは……


「苦労してるんだな、あんたも」


 俺はエペに同情してしまう。

 彼はどうにかして、この時代で生き残りたかっただけなのかもしれれない。


 ならば、人生の先輩として、助言を与えよう。俺は褒めて伸ばすタイプなのだ。


「自分の弱さを隠すため、他者の精神を操っていたな。条件は接触、武器越しでもできるが効果は薄れる、といったところか。悪くない魔法だ、褒めてやろう」

「いきなり何を言うんだ……」

「いや、君は本当に珍しい。俺は魔法についてよく分からないが、それは”君の能力”のはずだ。仲間の実力も十分。特にあの弓使い、彼女は並みの勇者より強い」

「本当に何なんだよ、お前は……」

「君はね、仲間の認識を変えて勇気を与えてあげればいいんだよ。人は気持ち次第で、いくらでも強くなれる。うんうん、今後とも勇者業に励むように」


 俺はエペに近づき、彼の肩を叩いてあげる。

 事情が分かれば、情状酌量(しゃくりょう)の余地はあるってことだ。

 今後の彼の成長に期待……


「いいね、それでこそ勇者だ」


 俺は自分の腹部に突き刺さった剣を見て言った。


「油断したな。異世界人風情が調子に乗りやがって」


 エペが冷や汗をかきながら剣を握っていた。


「そうだな、ちょっと付き合ってもらおうか」


 俺はゆっくりと後ろに退いた。

 俺に刺さっていた剣身が、消滅していた。


「これについて、どう思う?」


 俺は破けたシャツから見える黒色の身体を指さした。


 俺は俺を構成する、この”漆黒のなにか”の正体を分かっていない。

 それが裏ボスの存在そのものということだけは、なんとなく理解している。


 なにかは全てを吸収し、吸収されたモノは脱出できない。

 それはまるでブラックホールのようで、特異点に辿り着いたモノがどうなるのか、俺は知りたかった。

 

 俺の問いに答えはない。

 エペは身を失った剣を茫然(ぼうぜん)と眺めている。


「俺を攻略できそうか?」


 自分でも自分が攻略不可だと思う。

 それ程までに裏ボスという存在はこの世界の理から外れていた。


 でも、それについては十分すぎる程に考えた。

 長く生き過ぎると、自分の中から一つまた一つと何かが消えていくのを感じてしまう。

 結果、俺の中には一つの欲求が残った。


 裏ボスとして生を受け数百年、俺はただ、自分の存在を確認したいだけだ。




 それから俺は、気を失ったエペを放置して、街の外まで歩いた。


 街から少し離れた小高い丘の上で、夜空を見上げる。


「寂しいのだろうな、俺は」


 思わず口から出してしまった言葉は、俺の本心だった。


「ウラは寂しいの?」


 夜風に流されると思った(ひと)り言は、誰かに捕まえられた。


「発信機か?」

「違う。ここに居ると、感覚で……」

「パーティはどうした?」

「抜けた」


 一言二言会話をし、隣に座った人を横目で見る。

 シャリテが膝を抱え、顔を隠していた。


「ごめん。私、弱かった」


 エペの力が弱まり、自分が操られていたことに気がついたのだろう。

 シャリテは元気なく話す。


「ウラは強い人が好き。私は知っている。だから、あの勇者のほうが……」

「誰のことを言ってるんだ? ああ、あいつか。忘れてた。俺、雑魚には興味がないからな」

「そう……」


 本当に感情が分かりやすい勇者だ。

 俺は彼女の方を向き、大げさにお辞儀をする。


「武者修行は終わっていませんよ。一緒に行きましょう、シャリテ様」


 そして、右手を差し出した。


「うん」


 シャリテは少し嬉しそうな顔をして、下を向きながらも俺の手を握ってくれた。


 夜闇に(まぎ)れ、街とは反対方向に、俺とシャリテは歩み出す。


 シャリテは俺の希望だ。

 いくら弱まったとはいえ、あの精神支配から自力で逃れることができた。

 この成長速度なら、いずれ魔王、いや……


 裏ボスすら倒してくれるだろう──

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― 新着の感想 ―
ちなみに 裏ボスが国王 魔王 女王 四天王 宰相 国務大臣 外務大臣 学園長 それぞれ裏仕事兼務してるとか
国を挙げてのアトラクションだったのか 入場パスポート購入し初心者装備または 課金武器防具装備し貴方も勇者 観光産業 死亡傷害保険有 高額医療に付死亡以外は 蘇生可能 国民や動物は遺伝子操作で獣化し魔物…
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