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裏ボスは家出した  作者: Seabird(シエドリ)
第一章 裏ボスは家出した
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パーティから追放される

 獣たちは俺が発する異質な雰囲気を感じ取ったのか、距離を取ったまま襲ってこない。

 膠着(こうちゃく)状態が続いた。


 俺はゆっくりと辺りを偵察する。


「人間界の魔物って、こんなに強いのか……大変だな」


 俺が観察しているのと同時に、俺を観察している獣たち。

 成人男性ぐらいの大きさで四足歩行、俺が勝手に獣と言っているように、全身は赤黒い毛で覆われていて、どの個体も頭というものが存在していない。

 それでも俺は、ハッキリと視線を感じている。

 こいつらは魔王城周辺に存在するレベルの魔物だ。勇者たちが金目的で倒しているとすれば、俺は今、とんでもない時代を生きているのかもしれない。


「期待が持てる、な!」


 俺は握っていたスコップを投げ、しびれを切らして飛び出してきた獣の胴体部分に当てる。

 それは致命傷となりえるほどに深く食い込んだ。

 しかし、獣には大したダメージを与えられていないようだった。


「やっぱ不死だよな」


 俺は右手で掴んでいた黒い糸を思い切り引っ張り、スコップごと獣を引き寄せる。

 その持ち手には糸を巻き付けていた。シャリテから学んだ戦い方だ。


 獣が空を飛び、俺へと向かってくる。

 黒い網目が獣全体を固定していて、スコップの刃先が抜けることはない。


 飛んでくる対象を冷静に眺めながら、俺は左手で握っているハサミを黒く染めた。

 不死とはいっても、この手の奴は核を壊せば活動を停止する。そう相場が決まっている。


 獣との距離が手を伸ばせば届きそうなほど近くなった瞬間、俺の目の前に巨大な口が現れた。

 それは俺一人を余裕で丸呑みするぐらいに大きく、確かに実体として存在していた。


 初見殺しすぎない?


 『今の勇者、すごいな』などと感心しながら、俺は食べられた。

 被捕食者の気持ちが少しわかった気がする……


「まあ、初見殺しは裏ボスの特権でもあるんだ。残念だったな」


 俺は普通に立っていた。一歩も動いていない。

 地面は綺麗な断面を残し(えぐ)れていて、少し離れた場所に獣の(うしろ)半身が転がっている。

 全身を消し去ったつもりだった。やはりこの獣は強い。


「他は……逃げたか」


 俺の周囲からは獣を含め、一切の魔物の気配が消えていた。

 またもや申し訳ないことをした。これでは魔物を探す手間を増やしてしまっただけだ。


 何はともあれ、偵察は終わりだ。

 問題はなかった。これでパーティは安心して魔物討伐に挑めるだろう。


 俺は荒野に戻るため、森を出る。

 あっけなく終わった初戦のせいだろうか、道中、(わず)かにではあるが、虚しさが胸中に去来した。




 パーティが居る拠点に戻り、生きていることに驚かれ、そしてもう一度森へと帰ってくる。

 行ったり来たりが面倒だが、本来の目的はここからだ。


「なんだ……これは」


 エペが後ろ半身だけになった魔物を見て、驚いていた。


 俺は彼の横に立ち、とぼけながらも説明する。


「魔物同士の共食いだと見受けられます。この魔物は結構強い、感じでしょうか?」

「強いなんてもんじゃない。このレベルの魔物、初めて見た」


 今回は俺の質問にエペが答えてくれた。それほどまでに彼は動揺しているようだ。


「では、倒しに行きましょう。奥にはまだ居るはずですよ」


 俺は笑顔で提案した。

 シャリテとエペがあの獣たちとどう戦うのか、俺の成長のためにも見ておきたい。


 そう思っていたのだが、エペは獣人の男に魔物の死骸を回収させ、(きびす)を返して森から出ようとする。


「なにしてるんですか!? 魔物はまだ居ますよ!」


 予想外の展開に、俺は慌ててエペに詰め寄る。


「やったぞ。俺の名声がまた一つ増えた……」


 俺の声は届いていない。エペの目は完全に焦点を見失っている。


 俺はその光景を見て、興味を完全に失った。


「つまらんな」


 木々の隙間から見える暗い夜空を見上げ、自嘲気味に笑う。

 すると、後ろからシャリテが声をかけてきた。


「ウラ、どうしたの?」

「こっちの話だ。シャリテは大丈夫なのか?」

「少し頭が痛い、けど大丈夫」

「そうか……偉いな」


 真の勇者は常に戦っている。

 シャリテの瞳の奥には、確かに光が残っていた。

 

 俺はシャリテの頭を優しく撫でる。

 彼女の洋服に潜んでいたミニボス二号機が、俺に対して親指を上げた。



 ……



 討伐が終わったことになり、荒野で一夜を明かした後、パーティは拠点としている街へ向かった。

 またもや半日近くをかけて街へと辿り着き、まずはシャリテを宿に連れていった。彼女は辛そうにしていたが、俺には応援することしかできなかった。


 そして現在は、取引所と呼ばれる大きな建物の中で、ちょうど魔物の素材を売り終えたところだ。


 周りからは『流石はエペさんだ』という声が聞こえる。

 エペが手を振りると、黄色い歓声が周りから上がる。

 誰も彼もが、一人の勇者を称えている。


 俺はこの光景を見て、自分の浅はかさを反省した。

 失敗の原因は、俺が勇者について知らなさ過ぎたことだ。

 理解はしていたつもりだったが、強い”だけ”の勇者でも希望を見つけてしまった。きっと、焦っていたのだろう。


 何が言いたいかというと、この勇者(エペ)では役不足だ。


「ウラディル、君にはパーティを抜けてもらいたい」


 衆人環境の中、作られた爽やかな笑みで、エペが言った。

 しかし、既に彼への興味を失っている俺は、聴覚が受け取った言葉を意味として認識していない。


 俺はふと思った。

 この勇者を有効に活用したい、と。


「聞いてるかい?」


 滅多にない機会だから、今後の分析に役立てるべきだ。


「ウラディル、驚く気持ちはわかるよ」


 そうだ、俺に足りなかったのは自己分析だ。

 俺が俺を客観的に分析できてないのに、勇者に裏ボスを倒してもらうなどおこがましかった。


「君のためを思って言うんだ。今後の戦いはもっと厳しくなる。私は大切な仲間が傷ついて欲しくないんだよ」


 エペは自分に酔っているような演技で、大きな声を出している。思考の邪魔だ。


「なんて仲間思いなんだ」「エペ様は新人にさえ優しいのね」「あの弱そうな男が足を引っ張っているんだ」


 周りからも色々と聞こえるが、そんなことはどうでもいい。

 俺は天井を見上げ、ぼそりと呟く。


「自分探しの旅ってやつか。まさか異世界に来てやることになるとはな……」


 もう400歳近いとうのに、いまさらか。

 何度目になるか分からない自嘲気味な笑みを浮かべてしまう。


「……大丈夫かい?」


 そういえば、エペが何かを言っていたな。テキトーに返しておくか。

 とりあえず、いつもの返事を言っておけば何とかなるだろ。


「了解です!」


 そう言った後に、俺はやっと場の空気感を察した。

 もしかして、今って結構シリアスな感じですか?




 ……と、まあ、普通にシリアスな話題だったようで、俺はパーティを普通に追放された。

 追い出されるように取引所を出て、肌寒い夜の街道を歩いている。


 この後の展開は想定済みだ。エペが俺を消しにくるだろう。


 背中に付いていた発信機を手のひらで遊ばせながら、俺は目的地へ向かう。


 街の中心部から離れ、寂れた一角を進む。

 この辺りは馬車で通ったときに見つけていた。


 光が消え、人の気配すらまばらな地域で、俺は一軒の廃屋に入る。

 この廃屋には地下室があるようで、俺は埃だらけの階段を降りた。


 家財道具は全て回収されたのか、それとも盗まれたのか、何も無い正方形の空間がそこにはあった。


 光すら無い地下室で、俺は自分の姿を変える。

 体全身が黒く染まり”漆黒のなにか”になる。

 世界と一体になったような、懐かしい心地がした。


 しばらくすると、揺らめく光が階段を降りてきた。


 俺は威厳を込めて、何度も練習したセリフを言う。


「勇者よ、貴様の戦いはこれからだ」


 これは出番に入りますか?

 ──いや、入らない。

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