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裏ボスは家出した  作者: Seabird(シエドリ)
第一章 裏ボスは家出した
7/22

実戦を経験する

 エペとシャリテの会話は続き、というより続かされ、俺は色々とこのパーティについて情報を得ることができた。

 このパーティは、魔法学園近くでアイテムを補充し、魔物の討伐へ向かっている途中みたいだ。


 魔力を食べる不思議な生物、それが魔物。非常に興味深い。

 食べた魔力の量と比例して強くなる、と暇つぶしに図書館で読んだ本には書いてあった。

 俺には感じ取ることのできない魔力だが、この世界のあちこちで間欠泉のように沸いているらしい。


 魔物は魔力の濃い地域を好む。そこに人間は住まない。

 ではなぜ危険を冒してまで、魔物を狩りに行くのか?

 答えは簡単、(かね)だ。興味はないが、魔物の素材は高く売れるらしい。


 そんなことはどうでもいいから早く魔王を倒しに行け、とも思ってしまったが、結局世の中金がなければ何もできない。世知辛い。

 それでも、人間界の魔物がどれ程強いかは分からないが、良い修行にはなるだろう。


 俺が一人納得していると、エペが話題を装備関係に変えた。


「それにしても、シャリテはその恰好でこれからも戦うのかい?」


 エペがシャリテの姿を見て言った。


 シャリテは魔法学園の制服を着ていて、手ぶらだ。手ぶら?

 今気づいたが、彼女は何も持ってきていない。本当に自由だ。


「大丈夫、ウラが何とかしてくれる」


 シャリテは俺を見て答えた。


 俺は白のシャツに動きやすい長ズボンという、いつもの格好だ。

 腰には作業用のベルトを巻いていて、右手側には口の大きな革製のポーチ、左手側には学長から貰った魔法の袋が取り付けられていた。

 今も雑用係としての業務中だ、仕事着がしっくりくる。


「ずいぶんな信頼だね」


 エペが俺を(にら)んでいた。


「このポーチ、中の道具が取り出しやすいので、おすすめですよ」


 俺は革製のポーチから小さなスコップを取り出し、エペに自慢する。俺の相棒だ。


「ウラディルといったな。まあ、よろしく頼むよ」


 気変わりでも起こしたのか、エペが()()握手を求めてきた。


「よろしくお願いします、エペさん」


 俺はためらうことなく彼の手を握る。


「……っ!?」


 握った瞬間、エペに手を振りほどかれた。

 彼なら感じ取れたはずだ……


 さあ、俺を倒してみせろ。


「な、なんなんだお前は!?」

「やっぱり無理か、残念だ。あ、こっちの話なので、お気になさらず」


 馬車内に居た全員の視線がエペに集まる。


 エペは表情を落ち着かせ、シャリテの方を向く。


「シャリテ、こいつとは関わらない方がいい」


 この言葉を最後に、エペは喋らなくなった。


 無言の中、馬車は進み続ける。

 なんだか悪いことをしたな。

 場の空気を悪くしたという事実に、俺は少し申し訳なさを感じてしまった。




 途中で休憩を挟みつつ、俺たちは目的地である”西の森”へ向かった。

 そこでは貴重な魔物が現れるらしく、俺は期待していた。


 道中の馬車内は地獄だった。

 シャリテが俺の肩に頭を乗せて寝てしまったことで、会話という会話が消え去った。

 不思議なことに、獣人の男も弓使いの少女も、そして御者をしている魔法使いの女さえ、誰一人として言葉を発さなかった。

 彼らの瞳は完全に(くも)っていた。つまりそういうことだろう。


 パーティとして不健全だな、などと今後の方針に悩んでいると、馬車が完全に止まる。

 休憩、ではなさそうだ。


「シャリテ様、着きましたよ」


 俺はシャリテの身体を軽く揺らし、目を覚ましてあげた。


「ん……着いたの?」

「はい、西の森です」


 シャリテはボーっとしながらも立ち上がり、馬車の外に出た。


 俺も後に続こうとしたが、エペに呼び止められた。


「お前、人間ではないな」

「いえいえ、何をおっしゃいますか」

「魔族にさえ俺の魔法は効いた。つまり、お前はこの世界の存在ではないということだ。異世界人か?」

「だとしたら、私は人間なのでは?」

「お前ら異世界人は人間ではない」


 エペは鼻を鳴らし、馬鹿にした表情で俺を見る。


「力を与えられなかったようだな。下等生物風情が」


 勝ち誇った顔で馬車から降りるエペ。

 彼はいい感じに自己解釈してくれたみたいだ。


 俺はストレッチをして、身体をほぐしながら外に出る。

 陽は落ちかけていて、辺り一面は薄暗かった。


 ここは長閑(のどか)な草原などではなく、ごつごつとした岩が散らばる荒野だった。生命の痕跡すらない土地だが、少し先、ある場所を境にして、高い木々が並び立っているのが見えた。


「異世界っぽいな……」


 俺は思わず呟いてしまった。

 現実離れした自然の姿に、感動すら覚えてしまう。今思えば、こういった冒険をずっとしたかったのかもしれない。


 感動の間もなく『グー』という腹の音が聞こえた。


「ウラ、食べ物ある?」


 隣でシャリテが恥ずかしそうにしていた。


「ずっと寝ていましたからね。少し、食事にしましょう」


 俺はポーチから、物理法則を無視して大きな籠を取り出す。


「皆さんもどうで……」

「ダメだ」


 俺がパーティの皆にも食事を勧めようとしたら、エペに遮られた。


「お前に仕事をやる」

「いきなりどうしました? 雑用でしたら、何なりとお申し付けください」

「西の森に入ってこい。偵察だ」


 エペは森の方向を指し、俺に命じた。


「ダメ。ウラは弱い」

「黙ってろ!」


 シャリテが拒否したが、直後にエペの大きな声が荒野全体に広がった。


 シャリテの瞳から、光が完全に消えた。


 エペはゆっくりと俺に近づき、説明を始める。


「森の魔力が濃い。ここからだと中にいる魔物の強さを測れない」

「エペさんは勇者です。あなたでも倒せませんか?」


 俺は少し嫌味を込めて言った。

 勇者たるもの、強敵から逃げるべからず。

 魔王という常識から外れた敵を相手にし、さらに裏ボスという(ことわり)から外れた存在に立ち向かわなければならない。そんな彼ら彼女らの切っ先は、常に自分より強い者に向いているのだ。

 いわば、勇者とは挑戦者。この程度でビビっているようだと失格だ。


「今だから言えるが、俺はな、安全に勇者としての地位を維持したいだよ。だからこうやって、たまに魔物を狩っては、愚民どもに力を示しているというわけだ」

「なるほど……でも、なぜそれを私に?」

「お前の言うことなど誰も信じない。だが、俺の言うことを聞いていれば、良い思いをさせてやる。生きて帰ってこれたらだがな」

「なるほどなるほど……了解です。では、行ってきますね」


 俺は大きく頷き、森の方向へと歩き出す。

 シャリテなら大丈夫だ。置いてきた籠の中に、ミニボス二号機を隠してある。一号機は……良い奴だったよ。


 それにしても、エペという勇者は実力に精神が見合っていない。実にもったいない。

 どうにかして見た目通りになってもらえないだろうか。

 思考を巡らせながら、俺は西の森へ入っていく。




 ここは巨大な木々が視界を(さえぎ)る森の中。

 俺は少し進んだ所で立ち止まった。


「物は試し、やってみますか」


 俺は両手を黒く染める。

 右手には小さなスコップ、左手には剪定(せんてい)用のハサミを握っている。武器にするならば、手に馴染むものがいい。


 周りには誰も居ない。

 森の外から魔法で見られることもない。

 そして、俺の周りを取り囲むように、強力な魔物が(うな)り声をあげている。


 最適な環境が揃い、俺は体の一部分だけを裏ボスとして戻した。

 これは自分自身の身体を使った実験だ。

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