実戦を経験する
エペとシャリテの会話は続き、というより続かされ、俺は色々とこのパーティについて情報を得ることができた。
このパーティは、魔法学園近くでアイテムを補充し、魔物の討伐へ向かっている途中みたいだ。
魔力を食べる不思議な生物、それが魔物。非常に興味深い。
食べた魔力の量と比例して強くなる、と暇つぶしに図書館で読んだ本には書いてあった。
俺には感じ取ることのできない魔力だが、この世界のあちこちで間欠泉のように沸いているらしい。
魔物は魔力の濃い地域を好む。そこに人間は住まない。
ではなぜ危険を冒してまで、魔物を狩りに行くのか?
答えは簡単、金だ。興味はないが、魔物の素材は高く売れるらしい。
そんなことはどうでもいいから早く魔王を倒しに行け、とも思ってしまったが、結局世の中金がなければ何もできない。世知辛い。
それでも、人間界の魔物がどれ程強いかは分からないが、良い修行にはなるだろう。
俺が一人納得していると、エペが話題を装備関係に変えた。
「それにしても、シャリテはその恰好でこれからも戦うのかい?」
エペがシャリテの姿を見て言った。
シャリテは魔法学園の制服を着ていて、手ぶらだ。手ぶら?
今気づいたが、彼女は何も持ってきていない。本当に自由だ。
「大丈夫、ウラが何とかしてくれる」
シャリテは俺を見て答えた。
俺は白のシャツに動きやすい長ズボンという、いつもの格好だ。
腰には作業用のベルトを巻いていて、右手側には口の大きな革製のポーチ、左手側には学長から貰った魔法の袋が取り付けられていた。
今も雑用係としての業務中だ、仕事着がしっくりくる。
「ずいぶんな信頼だね」
エペが俺を睨んでいた。
「このポーチ、中の道具が取り出しやすいので、おすすめですよ」
俺は革製のポーチから小さなスコップを取り出し、エペに自慢する。俺の相棒だ。
「ウラディルといったな。まあ、よろしく頼むよ」
気変わりでも起こしたのか、エペが俺に握手を求めてきた。
「よろしくお願いします、エペさん」
俺はためらうことなく彼の手を握る。
「……っ!?」
握った瞬間、エペに手を振りほどかれた。
彼なら感じ取れたはずだ……
さあ、俺を倒してみせろ。
「な、なんなんだお前は!?」
「やっぱり無理か、残念だ。あ、こっちの話なので、お気になさらず」
馬車内に居た全員の視線がエペに集まる。
エペは表情を落ち着かせ、シャリテの方を向く。
「シャリテ、こいつとは関わらない方がいい」
この言葉を最後に、エペは喋らなくなった。
無言の中、馬車は進み続ける。
なんだか悪いことをしたな。
場の空気を悪くしたという事実に、俺は少し申し訳なさを感じてしまった。
途中で休憩を挟みつつ、俺たちは目的地である”西の森”へ向かった。
そこでは貴重な魔物が現れるらしく、俺は期待していた。
道中の馬車内は地獄だった。
シャリテが俺の肩に頭を乗せて寝てしまったことで、会話という会話が消え去った。
不思議なことに、獣人の男も弓使いの少女も、そして御者をしている魔法使いの女さえ、誰一人として言葉を発さなかった。
彼らの瞳は完全に曇っていた。つまりそういうことだろう。
パーティとして不健全だな、などと今後の方針に悩んでいると、馬車が完全に止まる。
休憩、ではなさそうだ。
「シャリテ様、着きましたよ」
俺はシャリテの身体を軽く揺らし、目を覚ましてあげた。
「ん……着いたの?」
「はい、西の森です」
シャリテはボーっとしながらも立ち上がり、馬車の外に出た。
俺も後に続こうとしたが、エペに呼び止められた。
「お前、人間ではないな」
「いえいえ、何をおっしゃいますか」
「魔族にさえ俺の魔法は効いた。つまり、お前はこの世界の存在ではないということだ。異世界人か?」
「だとしたら、私は人間なのでは?」
「お前ら異世界人は人間ではない」
エペは鼻を鳴らし、馬鹿にした表情で俺を見る。
「力を与えられなかったようだな。下等生物風情が」
勝ち誇った顔で馬車から降りるエペ。
彼はいい感じに自己解釈してくれたみたいだ。
俺はストレッチをして、身体をほぐしながら外に出る。
陽は落ちかけていて、辺り一面は薄暗かった。
ここは長閑な草原などではなく、ごつごつとした岩が散らばる荒野だった。生命の痕跡すらない土地だが、少し先、ある場所を境にして、高い木々が並び立っているのが見えた。
「異世界っぽいな……」
俺は思わず呟いてしまった。
現実離れした自然の姿に、感動すら覚えてしまう。今思えば、こういった冒険をずっとしたかったのかもしれない。
感動の間もなく『グー』という腹の音が聞こえた。
「ウラ、食べ物ある?」
隣でシャリテが恥ずかしそうにしていた。
「ずっと寝ていましたからね。少し、食事にしましょう」
俺はポーチから、物理法則を無視して大きな籠を取り出す。
「皆さんもどうで……」
「ダメだ」
俺がパーティの皆にも食事を勧めようとしたら、エペに遮られた。
「お前に仕事をやる」
「いきなりどうしました? 雑用でしたら、何なりとお申し付けください」
「西の森に入ってこい。偵察だ」
エペは森の方向を指し、俺に命じた。
「ダメ。ウラは弱い」
「黙ってろ!」
シャリテが拒否したが、直後にエペの大きな声が荒野全体に広がった。
シャリテの瞳から、光が完全に消えた。
エペはゆっくりと俺に近づき、説明を始める。
「森の魔力が濃い。ここからだと中にいる魔物の強さを測れない」
「エペさんは勇者です。あなたでも倒せませんか?」
俺は少し嫌味を込めて言った。
勇者たるもの、強敵から逃げるべからず。
魔王という常識から外れた敵を相手にし、さらに裏ボスという理から外れた存在に立ち向かわなければならない。そんな彼ら彼女らの切っ先は、常に自分より強い者に向いているのだ。
いわば、勇者とは挑戦者。この程度でビビっているようだと失格だ。
「今だから言えるが、俺はな、安全に勇者としての地位を維持したいだよ。だからこうやって、たまに魔物を狩っては、愚民どもに力を示しているというわけだ」
「なるほど……でも、なぜそれを私に?」
「お前の言うことなど誰も信じない。だが、俺の言うことを聞いていれば、良い思いをさせてやる。生きて帰ってこれたらだがな」
「なるほどなるほど……了解です。では、行ってきますね」
俺は大きく頷き、森の方向へと歩き出す。
シャリテなら大丈夫だ。置いてきた籠の中に、ミニボス二号機を隠してある。一号機は……良い奴だったよ。
それにしても、エペという勇者は実力に精神が見合っていない。実にもったいない。
どうにかして見た目通りになってもらえないだろうか。
思考を巡らせながら、俺は西の森へ入っていく。
ここは巨大な木々が視界を遮る森の中。
俺は少し進んだ所で立ち止まった。
「物は試し、やってみますか」
俺は両手を黒く染める。
右手には小さなスコップ、左手には剪定用のハサミを握っている。武器にするならば、手に馴染むものがいい。
周りには誰も居ない。
森の外から魔法で見られることもない。
そして、俺の周りを取り囲むように、強力な魔物が唸り声をあげている。
最適な環境が揃い、俺は体の一部分だけを裏ボスとして戻した。
これは自分自身の身体を使った実験だ。




