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裏ボスは家出した  作者: Seabird(シエドリ)
第一章 裏ボスは家出した
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パーティに加入する

 シャリテの発言で、場が凍った。

 第一印象は最悪だ。


「私が、雑魚か……やっぱり面白いよ、シャリテ」

「様をつけてください」


 シャリテは張り付けた笑みを崩さず、淡々と話している。


「これは失礼。シャリテ様、よければ私と手合わせをしませんか?」

「興味がありません。私は武者修行中の身、忙しいのです」


 いや、武者修行中だったらなおさら手合わせするべきだろ。

 と言いたくなるのを抑え、俺は再びシャリテに目線で語りかける。


「そうですか。では、こうしましょう。あなたが勝ったら、馬車で街までお送りします。事情があるようですね?」

「これも修行です。お気になさら……」


 シャリテが俺をちらりと見て、何かを察してくれた。


「いえ、手合せしましょう」

「そうこなくては。私が勝ったら、シャリテ様には私のパーティーに入ってもらいますよ」


 エペは有無を言わさず決定し、仲間の元に戻っていく。

 見た目では分からない狡猾(こうかつ)さがある、面白い勇者だ。気に入った。


「ウラ、これでよかった?」

「上出来だ。どちらに転んでも、俺たちには得がある」

「よく分からないけど、あの人を倒せばいいってこと?」

「経験だよ、経験」


 俺はシャリテの肩を軽く叩き、やる気を出させる。


 今まで何百人もの勇者を見てきた俺は、相手がどういう戦い方をするのか、雰囲気で分かる。

 だが、エペについてはシャリテにあえて伝えない。彼女には成長してもらう必要があるのだ。


 舗装された道を壊さないように、少し離れた場所に移動する。

 そよ風が草を揺らし、決闘直前の緊張が流れた。

 緊張しているのは俺だけで、シャリテは面倒そうに、エペは余裕そうに立っていた。


 この世界で初めて生で見る戦闘だ。今後の俺の計画を左右する強さの指標が、この瞬間に決められる。


「では、私が放った矢が地面に刺さったら開始でお願いします」


 弓を構えた少女が宣言をし、矢を空に放つ。


 高く上がった矢は重力に逆らえず、地面へと戻ってきた。


 シャリテが指を動かす。

 同時にエペが剣を構え、その切っ先を彼自身の首元に合わせた。


 プツンと何かが切れた音がする。


「魔法の糸、ためらいもなく首を狙いますか。ただ、実戦経験はなさそうですね」


 エペは笑顔のまま、剣を振りながらシャリテに近づく。


 シャリテは飛び道具では(らち)が明かないと思ったのか、両手を構え、近接戦闘で迎え撃つ体勢をとった。

 彼女の両手両足が薄く光っている。魔法の糸とやらが、拳と(すね)を重点的に何重にも巻き付けられていた。


「やはり徒手(としゅ)格闘か……」


 俺は感心した。武器を使わない勇者は非常に珍しい。

 シャリテの身体の動かし方から、ある程度の戦い方は予想できていた。以前、確かに剣を握っていたが、ほんの少しぎこちなかったのだ。


 シャリテは右足を一歩引き、右手を(あご)の横で軽く握る。そして体を斜めにし、左腕を脱力したように前面に垂らして、相手が近づくのを待ち受けていた。


 エペはそんな彼女を見て、忠告する。


「私の剣は魔法の糸では止められません。降参するなら今のうちですよ」


 シャリテは何も返さない。


「腕や脚でしたら仲間が繋げてくれるので、死なないでくださいね」


 エペが剣を振った。

 それはシャリテの左腕を切り飛ばす軌道を辿った。


 金属同士がぶつかった鈍い音が響く。


 左腕に当たった剣が、そのまま止まっている。

 エペは剣を動かすことができない。


 よく見ると剣が光っている。

 シャリテの左腕に巻き付いていた魔法の糸が、彼女と剣を固定させたのだ。


 シャリテはそのまま右足で地面を踏み込み、右拳をエペの顔面めがけて突き出した。


 綺麗な右ストレートが決まったかと思われたが、それは(むな)しくもエペの顔面横で空を切った。


「なん、で……」


 シャリテが一瞬油断し、その隙に彼女の腹には剣先が当てられていた。


「私の勝ちだね。驚いたかい? 実はもう一本、剣を持っていたんだ」


 エペが左手に持っていた短剣をシャリテの腹から(はな)し、勝利宣言をした。


 見事だ。

 俺はこの結果を分かっていた。

 エペは剣士ではあるが、剣だけではない。彼の本領は、相手の認識を操る力だ。


「確かに顔を殴った。でも空振りだった。なぜ? でも、顔はそこにあった」


 シャリテは初めての敗北に対し自問自答している。


「視覚情報が、変えられていた……」


 少しの間の後、気づいたように顔を上げた。

 流石は勇者、成長が早い。


「正解。実戦だったら死んでいましたよ、シャリテ様、いや、シャリテ」


 エペが答え合わせをして、右手を差し出す。勇者パーティに迎え入れたのだ。


 俺は『うんうん』と保護者の気持ちで、その様子を眺めていた。

 シャリテに必要なのは場数だ。今回の手合せで、彼女は自分の足りないものを理解しただろう。


 冷静に考えたら、俺も実戦経験ないんだよな……

 考えないようにしよう。


 俺はシャリテに駆け寄り、ねぎらいの言葉をかける。


「お疲れ様です」

「ウラ、ごめん……」

「いえいえ。これが武者修行というものですよ、シャリテ様」


 膝を抱えて座り込むシャリテは、初めて感じる”悔しさ”によって精神が不安定になっているはずだ。


 俺に親心が芽生え始めていると、エペが爽やかな笑顔でシャリテに右手を差し出した。


「これからよろしく、シャリテ」


 シャリテは当然のように無視をした。


「ははは、困ったな。とらえず、良い手合せだったよ。一人の剣士として感謝したい」


 エペは素っ気ない態度をとられたにもかかわらず、爽やかな笑顔のまま応対する。


 さすがのシャリテも立ち上がり、諦めの表情で握手をした。

 一瞬だけ、彼女の瞳が暗くなった。


「仲間になってくれるかい?」


 満足気に頷くエペが、再度提案する。

 

 シャリテは少し悩み、頷いた。


「じゃあ、行こうか。これは運命の出会いだ」


 エペがシャリテを引きつれて、馬車へと向かっていった。

 俺はその光景をただ眺めていた。


 勇者同士、切磋琢磨して欲しいのは山々だが、あのエペっていう奴は俺が思っていたよりも強い。

 ただ、この程度の試練を乗り越えられないことには、シャリテが魔王を倒すなど、夢のまた夢。これも経験だと、静観を決めるべきか……いや、安全策はとっておこう。


 俺は指先から、黒い雫を地面に落とした。

 それは小さな人形となり、シャリテの後について行く。


 頑張れよ、ミニボス。


 俺の応援に呼応するように、人形は右手を上げ、親指を立てた。

 これから彼の、壮大な冒険譚が始ま……


「ウラ、なにしてるの?」


 シャリテが不思議そうに振り返った。


「学長には報告しておきますから、思う存分武者修行に励んできてください」

「違う。ウラも来る」


 シャリテが話した言葉に、エペが少し驚いた表情を見せた。


 思っていたよりも強い勇者は、二人いたようだ。

 俺は素晴らしい収穫に感謝する。


「シャリテ、彼は連れていけない。彼のためでもあるんだ」

「だったら私も行かない」

「くっ……分かった。君、乗りな」


 エペは嫌そうな顔を隠さず、俺を馬車に(まね)く。


「お世話になります」


 俺は愛想笑い全開で、誘いに乗った。

 何かを忘れている気がするが、まあいいだろう。




 再度馬車に揺られることになった俺。隣にはシャリテが居る。


「なんでシャリテ様が勇者だと分かったのですか?」


 気になったていたことを、正面に座るエペに聞く。

 彼は答えようとしない。ちなみに、他のパーティメンバーにも俺は無視されている。


「なんで?」


 シャリテが声を発した。


「シャリテ、そんなに気になっていたのかい? 全く仕方がないな」


 エペが笑顔で説明を始めた。

 すごい、俺は相当嫌われているようだ。


「魔力だよ、魔力。私ぐらいの実力を持つと、人特有の魔力の波長を見ることができるんだ」

「そうなんだ。気にしたことがなかった」

「ははは。シャリテはもっと他人に興味を持った方がいいよ」


 なるほど、勇者には勇者特有の魔力があるのか。

 二人の会話を聞き、俺は一人で感心していた。

 

 なんとなく、シャリテとエペが勇者だと認識した。そして、学長が勇者ではないと決めつけた。

 それは、俺が裏ボスとして数多(あまた)の勇者を見てきたから、判断できたのだと思っていた。

 しかし、勇者を勇者たらしめるものが魔力だったとは……


 うん、そもそも魔力ってなに?


 これからも感覚で生きていこう、そう決めた俺だった。

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