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裏ボスは家出した  作者: Seabird(シエドリ)
第一章 裏ボスは家出した
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雑用係になる

「ウラさん、ちょっといいかな?」


 日課の(ごと)く雑草を抜いていた俺に、いつもの男から声がかけられた。


「また配達ですか?」


 昨日のこともあるから、あまり行きたい気分ではない。俺はまだ、どう勇者を導くかを考え出せていないのだ。


「いや、違うんだよ。なんか学長が呼んでるってさ」

「了解です」


 俺は立ちあがり、身だしなみを整える。


 この学園で、俺に対して気楽に話しかけるのはこの男くらいで、くらいで……


「名前、なんでしたっけ?」


 そういえば、俺はこの男の名前を知らなかった。


「ひどいなあ。新人同士、仲よくしようって言ったじゃないか。ホベンだよ、ホベン。流石に覚えてくれよ」

「そうだった。申し訳ない、ポパイ」

「いや、全然合ってないないよ……ホベンだからね。じゃ、頼んだよ」


 ホベンは両腕で抱えた教材を落としそうになりながら、駆け足で教室へと向かっていく。

 彼も大変そうだ。まだ若いというのに、優秀だからこそ仕事を押し付けられている。


 俺は『頑張ってるなー』と思いながら体に付いた泥を落とし、手を綺麗にする。

 相手は学長、お偉いさんだ。俺の直属の上司だともいえる。


 学長室へ向かおうとした時、ちょうど予鈴の鐘が鳴った。

 今日も快晴。変わらない毎日だ。




 ……と思っていたのだが、今日は荒れそうだ。

 学長室の扉を3回ノックし、扉を開けた瞬間に察した。


「ウラディル君、よく来てくれたね」


 大きなデスクの奥に座っていた耳の長い女性が、俺に声をかけた。


「待たせましたかね。申し訳ないです」

「いやいや、こちらこそ急に呼んですまなかったね」


 俺が話している見るからに賢そうな女性は、この学園の長で、耳が長いことから分かる通り、エルフだ。

 彼女はなにかと面倒を見てくれる良い人で、俺を間違えて召喚したことになっている女王の友人らしい。


「まあ掛けてくれ。少し長くなる」


 俺は学長に招かれるまま、デスクの前に置いてあるテーブル、その右側のソファに座った。

 そして問題は、左側、つまり俺の対面に座っている人物だ。


「察しただろ?」


 学長がニヤつきながら俺を見ている。

 このエルフはいつもこうだ。俺が勇者召喚に巻き込まれたという話をした時も爆笑していた。


「面倒事になるっていう察しだけですよ。説明をお願いします」


 俺はため息をつき、正面に座る女生徒に目を向ける。

 彼女はシャリテ、シャリテ・アドレット、昨日ぶりの問題児。

 結局、昼の仕事はあったというわけだ。


「嘘つき異世界人、面倒事ってなに? 私はただ、依頼をしたいだけ」

「申し訳ございません、シャリテ様。あと、私の名前はウラディル・マキアです」

「嘘つき」

「いえ、確かにそうですが……」


 シャリテは俺のことをじっと見つめたままだ。偽名ではあるのだが、人間界ではこの名前で生きていこうと決めているがゆえ、本名を言ったところでどうにもならない。


「では、ウラとお呼びください。愛称として”以前”から使われている名前です」

「分かった。噓つきウラ」

「嘘つきはいらないですね」


 この娘を魔王に勝たせなければならないのか……

 実力は十分だとはおもうが、融通が利かない。

 俺は俺の正体を絶対に明かしてはならない、という制約がある以上、直接的な干渉は避けたい。あくまでも自然に導きたいのだ。


「仲良しだね」

「どこをどう見たらそう思えるんですか……」


 俺たちの様子を楽しそうに見ていた学長。

 人が今後の計画を必死に考えているというのに、暢気(のんき)なことだ。


「それで、依頼とはなんですか? 正式に昼食配達員として任を受ける感じですか?」

「違う違う。もっと素晴らしいことさ。ですよね、シャリテ様」


 学長がシャリテにウインクをして、続きを(うなが)した。


「ウラ、あなたには雑用係になってもらう」

「何をおっしゃるんですかシャリテ様。私はもう雑用係ですよ」

「そうなのか、知らなかった。では、今後とも頼む」


 お互い立ち上がり、固く握手を交わし、話が終わった……はずもなく、学長が慌てて部屋から出て行こうとした俺たちを止める。


「待て待て! 絶対に認識が間違っているぞ!」


 これで終わればそれでいいと思ったのだが、現実からは目を背けられないらしい。

 俺はソファに腰掛け、シャリテに目線を向ける。

 彼女は何がいけなかったのか分からない、といった様子だ。


「シャリテ様、雑用係について詳しくお願いします」

「雑用係は雑用係。私の魔王討伐を手伝ってもらうだけの簡単な仕事」

「……私の?」

「そう。ウラは今日から”私の”雑用係だから」

「あー、なるほどー、そうきたかー」


 俺としては元々彼女の魔王討伐を手伝うつもりではあった。

 しかし、それはあくまでも陰ながらにである。


「ちょっと語弊があるようだから修正するね。ウラディル君には、魔法学園の雑用係兼、シャリテ様の雑用係になってもらうから。基本は魔法学園の方、今まで通り頼むよ」

「なんで? ウラは私の雑用係だよ」

「いくらシャリテ様とはいえ、学長として、一生徒を特別扱いするわけにはいかないよ」


 学長は不機嫌なシャリテに臆することなく、毅然(きぜん)とした態度で対応していた。

 俺はシャリテの正体におおよその予想がついている。だからこそ、学長の学長らしい態度は意外だった。


「そう。ウラ、明日からよろしく」


 シャリテは頬を少し膨らませながら、部屋の外に出ていった。

 俺は了承などしてないのだが……


 シャリテが居なくなり、静かになった学長室。

 俺は予想を確信へと変えるため、学長に尋ねる。


「学長、シャリテ様のことをお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「ああ、構わないよ。君には説明するつもりだったからね」

「そうなんですね。なら質問の内容も知っていることでしょう。シャリテ様は女王の娘、”サージュの王女”で間違いありませんか?」


 この国(サージュ)の女王には子供がいない。女王は国と結婚し、生涯独身を貫く覚悟を持っている。

 そして、女王に対する国民の絶対的な信頼と支持、それらが続く限り、サージュは平和国家であり続ける。


 しかし、この話には隠された真実があった。


「合っているよ。彼女の名前は、シャリテ・サージュ・アドレット。正真正銘の王女様さ」


 学長が真剣な顔で言った。これで確信を得た。


 最初はただ、昼ご飯を送るだけの仕事だった。

 確かにシャリテは強かったが、強さだけでは魔王には勝てない。だから正直に言って、そこまで興味がなかった。

 俺が彼女に期待し始めたのは、俺にいつも仕事を依頼する男──確かポペンといった奴──からこの学園に伝わる七不思議を聞いてからだ。


 ポペンは顔面を蒼白にしながら、生徒から聞いたという学園七不思議を俺に話した。

 雑草を抜くことに集中していた俺だったが、一つだけ意識が聴覚に集中する話があった。

 『この学園には、腹を空かせた女勇者の亡霊がいる』

 くだらない噂話だったが、勇者の話ということで俺は聞き耳を立てた。


 (いわ)く、無人の調理場から物音がする、と。

 曰く、鍵のかかった貯蔵庫から食料が消えている、と。

 曰く、早朝の演習所には破壊された訓練用人形(ゴーレム)がある、と。


 俺がその亡霊の正体を知るのは必然だったのかもしれない。

 確認されている現象に対して、学園側はなにも対策を講じない。それは自由奔放(ほんぽう)に授業をサボる問題児に対しても同じだ。

 お偉いさんのご子息、ご息女も多く通うこの魔法学園で、学長すらも手を出せない人物といえば予想はついた。


「よく気づいたね。やっぱり女王様に直接会ったから?」

「いえ、客観的事実に基づいた仮説でした」


 昨日の時点で、本人の口から説明があったようなものではある。

 なにはともあれ、これで俺の計画の重要な欠片(ピース)が埋まった。


 俺が上がる口角を抑えていると、バンッと勢いよく学長室の扉が開いた。


「大切なことを伝え忘れていた。ウラ、明日から()()()武者修行に出るから」


 扉を開けたのはもちろんシャリテで、彼女は決定事項だと言わんばかりに『一緒に』を強調して宣言する。


「シャリテ様、お母様から魔法学園の外に出るなと……」


 学長は嬉しそうな、そして悲しそうな顔をしていた。


「母上は昔から、いつか役割が回ってくると言っていた。なのに、私がいるのに、異世界から勇者を召喚した。もう待機はうんざり。私は私の力で存在を証明する」


 バンッっと大きな音で扉が閉められる。

 シャリテは言いたいことを言って、帰って行った。


 学長が上の空といった様子で、ポツリと呟く。


「家出、か……」

「そこは巣立ちと言いましょうよ」


 俺は学長の言葉を修正し、腕を組みながら目をつむる。


 既視感がある(デジャヴ)……

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