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裏ボスは家出した  作者: Seabird(シエドリ)
最終章 裏ボスたちは家出した
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裏ボスたちは家出した

「暇だ」


 俺は裏ボス、魔王城で待機中の暇人だ。

 この世界に来て数百年、魔王が倒されるのをずっと待っていたが、まだ出番は来ない。


「本当に暇だな」


 ベッドではなく床で横になり、天井を見上げる。ため息が自然と漏れた。

 視線の先では、魔法による光の玉が浮かんでいる。


 一通りの家具だけが揃えられた質素な部屋に窓はなく、扉もない。

 俺の声はその壁に寂しく吸収されるはずだった。


「暇」


 一言だけ発せられた声は、凛とした少女のものだった。


 俺は隣を見る。

 彼女の存在を一文字で言い表すと”白”になるだろう。身体は光さえ霞ませてしまう程の純白に覆われ、辛うじて人型をしているだけで、顔すらも存在しない。

 ”純白のなにか”が彼女であり、この世界のもう一人の裏ボスの正体だった。


 俺たちは対の存在らしい。

 それだけは分かっていたが、複雑なことは考えないようにしている。


 1人だけでも厄介な裏ボスが2人もいたとすれば、勇者たちは絶望するだろう。

 両方を同時に倒さないと復活するとかいうギミックも面白そうだ……と設定を練っていた時期もあった。

 しかし現実は非情で、出番は来ない。


 魔王城周辺で戦闘が始まると、『そろそろ出番ですよー』と言わんばかりに、俺の部屋にその様子が魔法で映し出されるようになっている……はずだ。

 この生活が始まってからは、いつ来るか分からない出番をドキドキしながら待っていた。

 毎日ボスっぽいセリフを考えて、演技の練習をした。

 それはそれで楽しかったが、やはり出番は来ない。


「勇者、来ないんだが……」


 俺は困惑していた。

 異世界から召喚された勇者たちは相当な実力者たちだ、魔王城周辺にさえ辿り着かないのはおかしい。


「俺たちから行くか」


 思い立ったように俺は立ちあがった。

 もう面倒だから、勇者を導いてあげよう。そもそも俺は監禁されているわけではない。裏ボスとしての使命感で、あくまでも”待機”していたのだ。


 そうと決まれば、やる事は決まっていた。

 善は急げと俺は鏡の前に立ち、自分の姿を確認する。

 俺という存在を一文字で言い表すと”黒”になるだろう。身体は光さえ吸収してしまう程の闇に覆われ、辛うじて人型をしているだけで、顔すらも存在しない。

 ”漆黒のなにか”が俺であり、この世界の裏ボスの正体だった。


 これではダメだ。勇者に近づくには、もっと普通でなければならない。

 俺は姿を変え、人間としての形を作る。

 中途半端な長さの黒髪をあえてぼさぼさに、目元にはクマをつけて疲れている感じに……


「しっくりくるな」


 俺は頷き、満足する。

 隣を見ると、もう一人の裏ボスも姿を変えていた。


 長く黒い髪を後頭部でまとめ、腰まで垂らしている少女。

 大きな切れ目に長いまつげ、整った顔の凛々しい表情が俺に向けられている。


「行くか、人間界に」


 俺は彼女の手を取り、生み出した扉を開ける。


「家出」


 彼女がボソッと言った。


「これは巣立……いや、家出だな」


 俺は魔王との約束で、この部屋で待機することになっていた。

 だからこれは、家出になるだろう……



 ……



 それから俺たちは、とりあえず勇者に近づくことにした。

 まず知るべきは、勇者がなぜ魔王を倒しにこないか、だ。

 だが、人間界に入った俺たちは、すぐにその理由を知ることになる。


「峰打ちですわ!」

「眷属共、あいつらを眠らせて!」


 俺の目の前で、金髪縦ロールのお嬢様とゴスロリ服を着た少年が戦っていた。

 問題は彼女たちが戦っている相手だ。


「人間同士で戦って、どうするんだよ……」


 俺は頬を引きつらせて、戦場となった広大な草原に立つ。


 銃弾と砲弾が空を舞い、魔法による盾がそれらを防ぐ。

 二つの陣営がお互いに向かい合い、片方は塹壕を掘って、もう片方は魔法による防御陣地を築いている。

 近代的な兵士と中世ヨーロッパ的な騎士が戦うという、滅茶苦茶な光景だ。


 そして俺は、両陣営が激突する境に居た。

 勇者の元に転移してきたから当然だ。


「まだですわ!」


 近代兵士の突撃を防ぎきり、少し落ち着いた戦場で、お嬢様は驚いた声をあげた。


 勇者の近くに転移するつもりではあったが、ここまで近いとは思っていなかった。

 俺はあくまでも、陰ながらに勇者を導きたいのだ。ここで姿を現すわけにはいかない。


 俺は急いで姿を消した。世界に溶け込むように存在を消した。

 今の俺を認識できるのは、隣に居るもう一人の裏ボスだけだ。


「もう戦いはこりごりだよぉ……」


 ゴスロリ息子が多数のぬいぐるみを空に浮かせながら、俺たちの方を向いた。


「違う。私も勇者」


 もう一人の裏ボスは両手を上げて、戦う意思がないこと示す。

 臨機応変な演技、素晴らしい。


 お嬢様とゴスロリ息子は、彼女の姿をじっと見た後、納得したように武器を下した。

 そして二人で、対応を話し始める。


 その様子を確認し、俺は隣に立っている彼女に『うまくやってくれ』と視線を送った。

 彼女はこくりと頷いてくれた。


 仲間の勇者が裏ボスだった、というのも悪くない。

 俺は俺でやるべきことをやろう。



 ……



 俺は戦場を離れ、近くの街で情報を収集することにした。


 今は街の掲示板に張られた知らせを読んでいる。


「うん、魔王どころじゃないな」


 現状、勇者という存在が唯一残っている国、俺が今居る”サージュ”は、他国から宣戦布告をされたらしい。

 戦争なんてしてないで、俺を倒しに来い。

 俺は、この世界を恨んだ。


「どうしたものか……」


 誰も居ない広場で、ベンチに座りながら空を見る。雲一つない綺麗な空だ。

 出番を得るには、まずは世界を変える必要があるのかもしれない。


 俺は出番が欲しいだけだ。

 俺の裏ボスとしての物語を終わらせたいだけなのだ。

 与えられた職務を遂行したいだけなのに、世の中は思っているより複雑らしい。


「君はどう思う?」


 俺は背後に話しかける。


「お気づきになられていましたか。私はサージュ国軍諜報部に……」

「俺は忙しい。用件だけ頼む」

「はい。隊長からの伝言です」


 商人の格好をした女性が、俺の前に歩いて出る。

 諜報部とやらには”俺”が知られているらしい。優秀なことだ。


 感心していると、女性がいきなり土下座をした。


「どうか……」

「言いたいことは分かった。まあいいよ。出番は自分で作り出すものだ、なんとかする」


 女性の言葉を再度遮り、俺は立ちあがる。

 この世界に必要以上の干渉をするつもりはなかったが……仕方がない。


 俺は黒色の扉を生み出し、闇の向こう側へと進む。




 視界が開けると、近代的な景色が広がっていた。

 整備された道には、馬の無い車が走っている。

 道沿いに木造の家は見当たらず、代わりにコンクリートで建てられた中層のビルが並んでいる。


「発展してんなー」


 俺は暢気に呟いた。

 周りからの視線に気づいたのは、少し後だった。


 大きな警笛が聞こえた。

 周りの人たちが急いで建物の中に避難している。


 間もなく、俺は完全武装の軍人たちに囲まれた。


「サージュの者か!?」


 俺に対して銃口を向けながら、軍人は叫ぶ。


「サージュ? いや、違う。俺はただ……」

「転移魔法で直接乗り込んでくるとはいい度胸だ! しかし、貴様は完全に包囲されている!」


 これは話が通じないパターンだ。

 考えてみれば当たり前か。今は戦時中、皆ピリピリしている。

 俺は諦め、両手を上げた。


 そして、そのまま拘束され、車で連行された。




 車に揺られること数十分、どこかの建物、その正面玄関前で降ろされる。

 目を布で覆われてしまっていたが、俺には関係ない。ここが軍の施設だということは確認済みだ。


「感謝するよ。俺は方向音痴だからな」


 俺は全ての拘束を解き、身体を伸ばす。

 手間が省けた。後は偉い人にお願いをするだけだ。


「動くな!」


 俺は警告をされたが、無視して歩き始める。

 直後、発砲音が響いた。


 俺に当たった弾丸は、そのまま吸収され、消える。


「戦う気はない。話し合いで解決しよう」


 俺は全身を漆黒に染め、周りで怯える軍人たちに提案した。

 したのだが……

 俺の提案には、バタバタと人が倒れる音が返ってきただけだった。

 勇者を威圧するための見た目だ、仕方がない。


「全員気絶してしまったか」


 偉い人の部屋を聞こうとしたのだが、これではこの広い施設内を探し回ることになる。あまり事を荒立てたくはない。


 俺は見られていることに気づいた。

 上を見ると、壁にカメラのようなものがあった。


「は、な、し、あ、お、う」


 俺は人間に戻り、口を大きく開けて、そのカメラにアピールする。


 しばらくして、建物の扉が開き、賢そうな軍人が出てきた。


「師団長がお呼びです。我々にあなたと戦う意思はありません」


 丸腰の軍人は丁寧にお辞儀をした。

 話が分かる人は大歓迎だ。


 軍人の後に続き、俺は建物内を歩く。

 途中、無言なのも気まずかったため、適当な会話を挟んだ。


「判断が早いな」

「我々の国、いえ、この世界であなたに勝てる存在はいません」

「やってみないと分からないぞ」


 本当にやってもらわないと困る。

 いつまで経っても俺の出番が来ないではないか。


「我々は破滅を望んでいるわけではありません」

「ではなぜ、サージュに宣戦布告をした? 戦争など破滅への近道だと思うが」

「それは、サージュの国民を救うためです」

「救う、か……」

「はい。サージュの国民は騙されています。”勇者と魔王”という過去の物語を、無理やり……話が過ぎたようです、着きました」


 一番聞きたい内容を前に、目的地に到着したようだ。

 軍人がドアをノックし、中から『入れ』と声が返ってきた。


 ここは偉い人の部屋のようで、中には大きな執務机があった。


「はっはっは! やっぱり勝てないわ!」


 机の奥で座っていた男が、握っていた拳銃を笑いながら地面に投げた。

 傷の多い顔に無精ひげ、歴戦の戦士といった風貌だ。


「戦う気はない」


 俺は机の前のソファに勝手に座る。

 いつも通り、会話をしよう。

 俺の願いが聞き入れられなかったら、その時はその時だ。


「今、怖いことを考えたかな?」

「本題に入ろう。俺はただ、戦争を止めて欲しいだけだ」


 俺は単刀直入に言った。


「分かった。止めよう」


 即答だった。

 俺は目を見開いてしまう。


「判断が、早いな……」

「まあ、あんたには勝てないからな。国が滅ぶよりはマシだ」


 そう言った師団長は受話器のような物を取り、テキパキと指示を出し始めた。


 その様子見ながら、俺は腕を組む。

 なんだか申し訳なくなってきた……

 裏ボスというのは、この世界の理から外れた存在だ。

 ここまで好き勝手やっても、いいのだろうか? 

 まあいいか。


「よし、これで進軍中の部隊は引き返すだろう。あとはうまく講和でもするかね」


 一通り指示を出し終え、師団長は息を吐いた。


「邪魔したな」


 俺は用件を終えたため、ここを去ろうと立ち上がる。


「サージュは亡霊の国だ」


 部屋を出ようとした俺の背中に、師団長の声がかけられる。

 俺は続きが気になり、立ち止まった。


「数百年前から時が止まっている。勇者と魔王なんて時代遅れの産物に捕らわれ、国民はまるで物語の中の登場人物だ。我々はただ、彼らに自由を与えたかっただけだ」


 俺は師団長の言葉を聞き、ドアを開ける前に一言残した。


「全ての登場人物には役割がある」



 ……



 人間界での調整を終えて、俺は再び魔王城で待機した。

 昔に戻ったが、今回ばかりは違う。


「そろそろ出番か……」


 俺は生み出した扉から外に出る。

 それは、魔王の”裏”に繋がっていた。正確に言えば、人ひとりを余裕で隠せるほど大きい玉座の裏だ。


「私は諦めないわ……」


 玉座に座っていた魔王が、闇の粒子となって消えていく。

 ちなみに、彼女は転移魔法を使っただけだ。


「やりましたわ!」「やったぁ!」


 勇者たちの勝利の喜びが聞こえた。


 だが、そんな中で一人だけ、冷静な勇者がいた。


「油断、ダメ」


 その口調に、俺は聞き覚えがある。


 俺は口角を上げ、拍手をしながら歩き出す。

 玉座の裏から姿を現し、威厳と恐怖を込めた声を出す。


「残念だったな」


 俺は今、最高に生きている。


 出番と言うにはあまりにも歪な形だ。

 それでも、舞台の上でスポットライトを当てられた時のような、この気分を出番と呼ぶのだろう。


「勇者、残念」


 俺のセリフの後、一人の勇者が俺の隣に立った。


「まさかですわ。あなたが黒幕でしたのね」

「ええ……これは予想外だよぅ」


 勇者たちの絶望の顔が、俺の口角を上げる。

 数百年も待ったこの瞬間。

 さて、どう楽しもう。

 俺たちは負ける気などさらさらない。

 勇者たちはどうやって攻略する?


「「貴様らの戦いは、これからだ」」


 俺たち裏ボスは手を握り、ずっと準備していたセリフを言う。


 黒と白が混じり合う中、小さな銀色が光った──




 裏ボスは家出した 完

これにて完結です。

短編として書いていた小説に物語を付けたし、連載という形でお届けしました。

読んでくださった皆様が少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

そして、応援してくださった方々、本当にありがとうございます。この場で感謝を伝えさせていただければと思います。

では、またいつか、どこかでお会いできれば幸いです。


シエドリ


追記

完結に伴い、タイトルの一部を変更しました。

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