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裏ボスは家出した  作者: Seabird(シエドリ)
第二章 裏ボスは謎解きした
20/22

謎を解いてしまった

「そこまで完璧に演じなくてもいい……」


 急展開の連続で止まっていた俺の脳が再び動き出した。

 冷静になれ、状況を見極めろ。客観的事実に基づき、仮説を立てるのだ。


「シャリテ、その姿はなんだ?」


 俺の声は震えていた。

 冷静を装っていても、この状況に動揺するなというのは無理がある。


 シャリテは俺をじっと見ている。

 といっても彼女に目などはなく、人型の漆黒が俺の方を向いているだけだ。


「この姿、変。でもウラなら……なんでもない」


 悲しそうな声が聞こえ、漆黒のなにかは消えた。


 三人だけになった玉座の間。


「ウラさまが、2人っす?」


 しばらくの沈黙の後、アルの唖然とした声が聞こえた。

 シャリテがいなくなった以上、別の人に聞くしかない。


「状況を整理する。まずはアル、君は誰なんだ?」

「俺は……あなた様はう、ウラ様でいいんすよね?」

「その様子だと、気づかれたみたいだな」

「魔王様の命令で捜索していたっす。俺は魔王軍四天王ホベルトが配下、アルコっす。ちなみにホベルトさんは、魔法学園(ここ)でホベンって名前で働いてるっす」

「そうか……分かった」


 魔王が軍を率いていれば、それを総動員して裏ボスを探すだろう。だとしたら、たった一人の個人が逃げ切れるはずもない。現に、絶対安全と言われたこの魔法学園にまで魔王軍が入り込んでいたらしい。

 俺は組織というものを軽視し過ぎていた。

 そして、俺を探していた組織というのはもう一つある……


「ラル、次は君の知っている情報を教えてくれ」

「先ほど言わせていただいたとおり、私は諜報部の者です。失礼ですが、ウラ様の本当の姿を確認させてください」


 今更隠すこともない。

 俺は身体を”漆黒のなにか”に変える。


「これでいいか? 俺はただ、自分の存在を確認したいだけだ」

「ありがとうございます。ウラ様、お願いがあります」


 ラルは握っていた軍用ナイフを落とし、両膝を床につけた。


「やめてくれ。俺は君たちに何もしてやれない」


 綺麗な土下座の姿勢をされ、俺は目を逸らす。


「いえ、何もしなくていいのです。どうか、世界をこのまま、維持していただけないでしょうか?」

「言っている意味が分からない」

「私は今、確証を得ました。ウラ様とシャリテ様は、この世界の次元を管理する”二対の鍵”です」

「そうだったのか……」


 俺は不思議と納得していた。

 勇者召喚が行われとき、次元の境界が不安定になっているのを感じていたからだ。


「続けてくれ」

「はい。シャリテ様には、15年前に同じお願いをしました。あの時の彼女は、外の世界に絶望していました。だからあの時の私は、現女王様を誘導し、シャリテ様には人間として生きてもらうことにしたのです。今思えば、あれは延命に過ぎなかったのかもしれません。結局、エルフの介入で元通りになりましたので」

「シャリテの覚悟は、演技だったのか……」


 俺は普通に落ち込んでしまった。

 本気で魔王を倒してくれる勇者がついに現れたと思っていた。

 そんな彼女が俺の未来だと信じていた。


 俺の様子を察したのか、ラルは立ち上がり笑顔を見せた。


「シャリテ様は本気で人間になろうとしていました。本気で自分が勇者だと思い込んでいました。それらは全て、ウラ様のためでしょう」

「なぜ俺なんだ……」

「ここからは私の推測です。シャリテ様はウラ様と出会って、人間として出会って、幸せだった。だから人間になりたかった。そして、ウラ様が勇者を探していると感じ取り、勇者としての自分を作り上げた。ハッキリ言えるのは、あの告白は本物だったということです」

「シャリテは俺の正体を知っているのか?」

「いえ、ご存じありません」

「ありがとう……続きは後でいいか?」

「はい。どうか、シャリテ様を抱きしめてあげてください」


 俺は話を区切った。

 やるべきことは分かっていた。




 俺は感覚のまま、次元を超えた。

 自分の存在を、時間と空間にのせるような、身体が覚えていた行動だった。


 辿り着いたこの場所、真っ白な空間には見覚えがあった。

 俺が魔王城で待機していた部屋と同じだ。色合いを白にしただけで、一通りの家具だけが設置されている質素な部屋。窓はなく、扉もない。


「私は裏ボス。知っているのはそれだけ」


 ”漆黒のなにか”ではなく”純白のなにか”がそう言った。

 彼女は床に座り、膝に顔を埋めている。


「魔王が倒された時、私は本当の自分を見せる。ウラには知って欲しかった。でもウラには……嫌だった……」

「すまないな、あの姿にさせてしまって。ただ、すごいな。俺にも分からなかった。エペとかいう勇者に、本気で操られてただろ?」


 俺はいつも通りの口調で話しかけた。


「あれは真っ白に戻してしまいたい記憶、白歴史」


 純白のなにかは顔を赤らめた。

 顔などないが、俺には分かる。


「同じさ。出番を求めたとき、俺もやったからな」


 俺の言葉を聞き、純白のなにかは立ち上がった。

 振り向いた彼女と、ここで初めて目が合う。


「私はずっと、寂しかった」

「俺もだよ」


 漆黒と純白が重なり合う。

 温かい。

 裏ボスってなんだよ、と思ったが、もう何でもいいか。


 忘れていた感情を、今は享受(きょうじゅ)しよう。

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