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裏ボスは家出した  作者: Seabird(シエドリ)
第二章 裏ボスは謎解きした
19/22

裏を知る

 俺はツッコまない。

 赤色のマントを羽織り頭に角まで生やしている学長を見ると、流れに乗ってあげることが礼儀だと思った。

 だからせめて、本気の演技をお返ししよう。


「魔王! この剣に誓って、悪は許さない!」


 俺は叫んだ。

 学長が悪だとも、魔王が悪だとも思わないが、口上というのは場の雰囲気的に大切だ。


 学長は玉座に座りながら、意味深な笑みを浮かべている。

 彼女がどういった計画で、この場を用意したのかは分からないが、楽しんでいることだけは見て取れた。


 学長は動かない。

 これは、俺からいくべきなのか?


「ウラさん、学長が悪だと分かっていたのですね」


 ラルが真剣な声音で話しかけてきた。

 役にハマりきっている。すごい。


 これは俺の演技力を一段階上げないといけないな。


「そうだ。思い返すと、奴はいつも、あの笑みを浮かべていた」


 これは真実だ。

 学長は、俺が苦労している情報を肴に酒を飲むような性格をしている。


「そうです。まさか、今になって新たな干渉をするとは思いませんでしたが、彼女はエルフ、そして、この国”サージュ”の敵、魔王です」

「ああ、許せない……いくぞ!」


 俺はスコップを片手に駆け出す。

 どうせ、テキトーにそれっぽい戦いを演出して、俺たちが勝って終わりだろう。


 そう、思っていた……


 俺が一歩踏み出した瞬間、俺の両隣を残像が通り抜けた。


 直後、だだっ広い玉座の間に、無数の金属音が響き始めた。


「最初は強く当たって、後は流れで……じゃないのかよ……」


 俺は唖然として立ち尽くしている。

 ラルとアルが、学長とガチバトルを始めたのだ。


 彼女たちの一撃一撃は相手の命を確実に奪うためのもので、学長はそれらを笑いながら防いでいる。

 これは演技でも冗談でもない、と俺はすぐに理解した。


「なんで、こうなったのだろうな……」


 さて、どうするべきか。

 ここで普通の俺が戦ったとして、一歩間合いに入った瞬間に即死する。

 だが、ここで立っているだけでは、意味がない。


 仕方がない。

 どうせ、今回で終わりだと薄々感じていた。


 俺は作業用の手袋をはめ、両手、両脚、そして目を裏ボスに戻す。

 目以外は服で隠れているから大丈夫だろう。

 裏ボスであることがバレたくないと、この期に及んでも思ってしまう自分がいた。


 俺は一足で跳び、学長の元に向かう。

 スコップを振り、彼女の右腕を狙った。


 しかしそれは、謎の黒い球体によって防がれた。

 黒い球体はスコップを飲み込み、更に大きくなる。


 俺はラルとアルを抱え、距離を離すため後方に飛び退いた。


「それはなんだ!? 学長、教えてくれ!」


 気がつくと、俺は演技を忘れ叫んでいた。


 玉座すら飲み込んだ黒い球体は、床を抉り綺麗な断面を残した。

 破壊ではない、消滅だ。


「勇者ウラディル、君はなぜこれを知っているんだい? あと、私は魔王だよ」


 学長はいつも通り、愉悦に溢れた顔を浮かべている。


「冗談を言っている場合ではない!」

「いや、冗談ではないが……」


 彼女は白を切っているが、俺は本物の魔王を知っている。


「あくまでもお遊びのつもりか……ラル、アル、学長の身体の一部がほんの少しでも黒く染まったら、全力で退け」

「ウラさん……了解しました」

「りょ、了解っす!」


 俺はふたりに指示を出し、再度駆け出す。

 スコップはもう消えた。

 徒手格闘の時間だ。




 3対1という数的不利がありながらも、学長は余裕で対処していた。


「勇者たちよ、なぜそうも焦っているのだ」


 途中で小言を挟みながらも、彼女は全ての攻撃を避ける。


「学長、俺は本気だ」


 そうは言ったものの、本気など出せようもない。

 ウラディルとしての俺はすでに消えていたが、それでも全身を裏ボスに戻すことはしなかった。

 全てを消し去ることは容易だが、裏を返せば、俺には消し去ること”しか”できないのだ。


 学長にはお世話になった。彼女はこの世界でできた俺の家族だ。たぶん。

 何はともあれ、この戦いは不本意である。


「はあ……優しいね、ウラ様は」


 戦闘の途中、小さな呟きが聞こえた。

 その直後、学長の動きが不自然に遅くなる。


「く、魔力切れ、か……」


 俺たちの攻撃を躱し、距離を取った学長が言った。

 彼女は膝をつき、息を切らしている。嘘くさい演技だ。


「あなたはまだ、魔法を使っていません」


 ラルが軍用ナイフを学長に投げる。

 その攻撃は簡単に防がれると思われた……


「なぜですか?」


 攻撃した本人であるラルが驚いている。


 学長の腹に、深々とナイフが刺さっていたのだ。


「ここは一応、学園内でね。未来ある子供たちの学び場を壊したくないのだよ。だから、そろそろ彼女には満足してもらおうかな」


 学長の身体、その胸の部分が淡く光る。


「くっ、今急所に攻撃を受けると、私は倒されてしまう」

「……はあ……あとで、聞かせてもらいますからね」


 俺はため息をつき、学長に近づいた。


 そして、左手に握った裁定用のハサミを彼女の胸に刺す。

 避けることも防がれることもされず、それは深々と奥へ進んだ。


「勇者よ、ありがとう……楽しかった、よ……」


 学長は倒され、闇の粒子となって消えていった。

 最後のセリフはしっとり系で、嫌な余韻が玉座の間に流れる。

 最後の最後にラスボスが善人を演じると、倒した側の後味は最悪だ……


 おおよそ、どこかに転移しただけなのだろうが、これでは話を聞けない。

 学長の家(ここ)からは何も言わずに、俺は人間界を去る予定だったが、一旦彼女を探す予定が生まれてしまった。


「逃げましたか……それにしても、エルフの考えていることは分かりませんね」

「流石は魔王様のお姉様っす」


 ラルとアルはまだ消化不良なようで、演技を続けていた。

 いや、あの黒い球体を見た後だ、俺でもこれが演技ではないことぐらい理解できる。


「ラル、アル、君たちの知っていることを教えてくれ」


 俺は彼女たちに向き、真剣な表情で問う。


「それでしたら、ウラさんの秘密も教えてくださると嬉しいです」


 そう言って、ラルは彼女の目を覆っていた布を取った。

 綺麗な緋色の瞳が露になる。

 エルフに向けられていた以上の、本気の殺気が俺にぶつけられた。


「自己紹介が遅れました。私はサージュ国軍諜報部、部隊長のラルムです。あなたを調査するために、この学園にきました」

「ラル、なにしてるっすか!? ウラさんにそんなことを言っても……」

「はあ……精神操作の魔法ですよ。本当に諜報員向いてませんね」

「なにを言ってるっす……」


 唖然としているアルに、ラルは近づく。

 そして、彼女の首元に両手を当てた。


「な、なにを、する、っす……」


 首を絞められ、アルは苦しそうにもがいた。


 だが、しばらくしてラルの手は離され、アルの首元には布が巻き付けられていた。それは、先程までラルが目元に巻いていたものだった。


「少々強引にいきました。これで世界が鮮明に見えるでしょう」

「よくも! よく、も……」


 アルは最初こそは怒ったが、俺の方を見て、すぐに言葉を失った。


 玉座の間は静寂に包まれる。


「ウラ様……」


 やっとのことで発せられたアルの声は、大きな拍手の音でかき消された。


「残念、戦いはこれから」


 間の奥から出てきたのは、シャリテだった。

 いつの間にか姿が見えなくなっていたが、まさか演出のために隠れていたとは……


 俺の中でのシリアスな雰囲気が台無しになる。

 いかにも『黒幕です』と言っているような彼女の姿を見ると、すべてが馬鹿馬鹿しくなった。


「シャリテ、君は裏ボスかい?」


 俺はいつもの声で聞いた。


「私は裏ボス」

「だったら、それではダメだ。そんな可愛い姿を現したとしても、魔王を倒して安心している勇者に絶望は与えられない」


 俺は『やれやれ』と首を横に振る。

 何百年も温めていた裏ボス論が、自然に出てしまった。


 シャリテは顔を赤くして、俯いてしまう。少し恥ずかしかったのだろう。

 

「か、可愛い……?」

「そうだ」

「そう……」

「理解してくれたか? だったら、もう一回やろう」

「うん」


 シャリテは頷き、玉座の間の奥、柱の陰に隠れる。


 俺は待つ。

 ”俺”を演じるのなら、完璧にやって欲しい。


 しばらくして、拍手の音が再度反響し始めた。


「残念、戦いはこれから」


 シャリテが出てきた……

 違う。


 ”漆黒のなにか”が出てきた──


「え……」


 俺の思考は完全に停止した。

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