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裏ボスは家出した  作者: Seabird(シエドリ)
第二章 裏ボスは謎解きした
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考える

 ドアの奥には、物理法則を無視した空間が広がっていた。

 天井には大きなシャンデリアが吊り下げられていて、正面には弧を描き二又に分かれた階段がある。

 どこかの豪邸のエントランスホール、創作物でしか見たことがないような場所がそこにはあった。

 学長が規格外の実力者であることを考えたら、これぐらいは許容範囲内だ。


「魔王城ではないのか……」


 俺は胸をなでおろし、シャリテの後に続いて家の中に入る。

 室内を覆う人間的で明るい色調は、魔界のどんよりとした空気に似合わない。この事実から、ここが魔王城ではないことが分かった。


「ここは魔王城。勇者のウラが頑張る」


 そう言って、シャリテは俺の後ろに下がった。

 ラルとアルは、その更に後ろに居る。


「そういう設定か?」


 俺は『やれやれ』と首を振り、特に理由を聞くこともなく歩き出す。

 学長の家に勝手にお邪魔するだけで飽き足らず、勇者ごっこがしたいらしい。だとしたら、俺に主人公の座を譲るとは、何とも優しいことだ。

 とりあえず、右の廊下を進もう。学長の秘密とやらがどこに隠されているのかは分からないが、それっぽい部屋ぐらいはあるはず。


 最初こそは何も警戒していなかったが、俺はすぐに歩くのを止めた。

 目の前、エントランスの中央に、岩の人形が現れたのだ。


 あまりにも急だった。

 元からそこにいたかのように、それは立っている。


 だが、格好の敵である俺を、人形は攻撃しない。

 ただじっと、そこで待機していた。


「シャリテ……教えてくれ」


 あまりにも不自然な光景に、俺は状況の判断ができない。

 これはただの飾りなのか、はたまた家の防衛システム的な何かなのか。

 豪華絢爛で丸みを帯びた家の内装とは対照的に、岩の人形は武骨だった。


「これは最初の敵、一番弱い」

「いや、なぜ家の中に魔物がいるのか、それを教えてくれ」

「それは……それは?」


 首を傾げ、考え込むシャリテ。


「分からないのか?」


 俺はそんな様子の彼女に聞いた。


「魔王城?」

「ここは魔王城ではないな」

「魔王城じゃない?」

「そうだが……大丈夫か?」

「魔王に辿り着くには、敵を倒す。そのはず」

「いや、確かにそうだが、わざわざ城内でやる必要もないだろ。そこまできたら、魔王が相手をした方が早い」

「確かに」

「はあ……頼むよ」


 シャリテはこの会話で何か納得がいってくれたようだ。

 俺は急に馬鹿馬鹿しくなり、人形を無視して廊下へ進むことにする。

 おおよそこれは、シャリテのごっこ遊びに付き合うために、学長が用意した飾りだろう。


「なんなんすか、これ……」


 アルの呆れた声が聞こえた。

 それは俺が聞きたい。




 結局人形は動くことがなく、俺は家の中を安全に探索した。

 ひとつ分かったのは、この家の構造がおかしいことだ。

 廊下を進むとエントランスのような開けた空間があり、その奥にさらに廊下があり、そして空間があり、をずっと繰り返している。

 家と言うには不自然で、迷路のような構造は、誰かが意図して作った迷宮のようだった。


 また一つ、開けた空間に出た。

 俺がその中央に近づくと、魔物が現れる。


「今度は、ドラゴンか……」


 俺は無視して、隣を通り過ぎた。

 先程は漆黒の鎧を纏いし骸骨騎士だった。

 徐々に強そうな見た目に魔物がなっている気がするが、気にしたら負けだ。


 俺は淡々と先へ進み、部屋を探す。


 廊下の途中で、ドアを見つけた。

 ドアを開けると、宝箱が置いてあった。


「今度は、ポーションか……」


 その中を確認し、俺は蓋を閉じる。

 このように、開けた空間の先の廊下には、宝箱”だけ”が置いてある部屋があった。


 単調すぎる演出は、探索のやる気を削いでいく。

 俺は早足になり、終わらせることだけを考え始めていた。


 先へ先へと進み、ついには重厚な両開きの扉が現れた。

 もうこの家の構造など分かりようもない。2階があったはずだが、それは飛ばしてもよかったのだろうか。


「ウラ、ついに辿り着いた」

「ソウダナ、ガンバルゾー」


 両拳を握り気合を入れるシャリテに、俺は棒読みで返した。

 そして扉を開ける前に、後ろのふたりを確認する。


「筋書き通り、というわけですね……」


 ラルは軍用ナイフを取り出し、戦闘態勢を整えていた。


「噂は本当だった、っす……」


 アルは顔面を蒼白にしながらも、右手は矢を握っていた。


 俺は彼女らの演技を見て、感心した。

 ごっこ遊びにこれだけ付き合ってくれるとは、シャリテも良い友を持つことができたようだ。


 だとしたら、空気は読むべきだろう。

 ここで場を白けさせるほど、俺のノリは悪くない。


「皆、安心しろ。俺たちの絆は、無敵だ」


 自分でも『決まった』と思いながら、俺は扉を開ける。

 俺の背丈の倍以上はあるその扉は、軽く押しただけで、自動的にゆっくりと動いた。


 扉の先が、見えた。

 奥の玉座に座っているのは、見知った顔だ。


 俺は勇者らしく、勇気に満ち溢れた顔で、聖剣に見立てたスコップを構える。

 その切っ先は玉座に向けられていて、これから最終決戦が始まることを告げていた。


「よくぞ来た勇者よ。世界の半分を貴様にやろう」


 威厳のある声が発せられた。

 学長、セリフが滅茶苦茶ですよ……

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