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裏ボスは家出した  作者: Seabird(シエドリ)
第二章 裏ボスは謎解きした
17/22

驚く

 魔王を倒させるために勇者を導いていたはずだったが、今では何が正解か分からない。


 衝撃の告白を聞いたあの日から、俺は今後について真剣に考えるようになった。

 俺の苦悩とは裏腹に、平凡な毎日は続いた。シャリテとの関係性にも変化はない。

 変わったことといえば、業務内容ぐらいだ。昼、シャリテにご飯を届けるのは当たり前で、顧問という名の子守が、それから夕方過ぎまで続く。

 そう、正午から夜までずっと、俺は問題児()()の面倒を見ている。


 この学園が本気で心配になってきた。

 なにせ、3人も授業をサボっている生徒がいるのだ。


「君たちは学生というものを何だと思っているんだ……」


 学園端の森の中、目の前で戦っているラルとアルを見て、俺は呆れた。


 ラルは軍用ナイフを両手に握り、アルは矢を右手に持つ。

 ふたりとも近接戦闘が得意なようで、激しい火花を散らせて戦っていた。


 葉が擦れる風の音の中で、時折金属音が響く。

 昼過ぎの一番熱い時間帯、高い木々が影を作ってくれるが、それでも座っているだけで汗がにじむ。

 午後の授業はとっくに始まっているのに、この場には学園の生徒が居る。


「これは必要なこと」


 俺の隣に座っていたシャリテが、彼女たちを擁護した。

 手に負えないことに、ラルとアルを戦わせているのはシャリテなのだ。


「常識的に考えてだな、転校後すぐに授業をサボるって、相当だぞ」

「大丈夫。私も大丈夫だった」

「あのな、学生の本懐は学業だ。俺はシャリテも授業に出るべきだと思っている」


 自分でも不思議なことに、俺は本当に思っていた。

 少し前なら『勉強とかどうでもいいから早く魔王を倒しに行け』と考えていたはずだ。

 今の俺は、彼女を勇者ではなく”シャリテ”として見ているのかもしれない。


「それはウラの願い?」


 シャリテが俺の目を覗き込んでくる。


「どうだろうな、俺にも分からん……だが、なんで戦闘訓練なんかさせているんだ?」


 とりあえず、話を逸らそう。

 俺は本心を伝えられず、誤魔化してしまった。


「ラルはともかく、アルは弱い。学長の家に入ったら死んじゃう」

「……」


 俺はあえて黙った。反応したら負けだと思った。

 そんな危険な家……魔王城かな?


 いつの間にか確定事項になっていた学長宅への侵入。

 そもそもクラブ全員でサボりをしているような時点で、もう取り返しのつかない所まできているが、それでも気が乗らない。

 どっちに転んでも、終わりが見えてしまう。


 俺は木々の隙間から空を見る。癖になった行動だった。

 こうやって広い世界を感じると、どうでもよくなるのだ。


「ウラ?」


 シャリテが心配そうにしている。


「考え事をしていただけだ。それでだが、普通に考えて、アルがダメなら俺はもっとダメだろ」

「それは大丈夫」

「理由はなんだ?」

「ウラは強い」

「……ありがとな」


 純粋無垢な視線が俺に向く。

 俺はシャリテの頭を撫でてあげた。


 これから、ウラディル・マキア、そして裏出巻としての最後を飾ろう。

 学長の秘密がなんであれ、この業務が終わったら俺は人間界を去る。

 これ以上の感情は、裏ボスには必要ない。


「おーい、そろそろいいかー?」


 ずっと戦っているラルとアルに、俺は声をかけた。


 彼女たちは動きを止め、こちらに近いてくる。


「作戦会議をしよう」


 俺の人生で一番の出番になるかもしれない、学長の家攻略イベントについて……




 地面に座り、学長の家を模した模型を使って、侵入経路を確認する。

 この模型は、ラルが用意したものだ。彼女は隠密行動が得意なようで、夜にこっそり学長近くまで偵察しにいったらしい。


 木で作られた模型の形は、とても質素な一軒の住宅を表していた。

 実物は、この森とは反対側の学園端に存在している。これについては噂話で聞いたことがあった。


 この程度なら、なんとかなるのでは?

 危険な家と聞いて、とげとげしいものを想像していた俺は油断する。


「シャリテ、中の構造は分かるか?」

「中は別世界。それだけ」

「それだけか……ラル、窓とかから中を見たりはしなかったのか?」

「無理だよー。中は別世界だからー」

「さっきからなんだよ、それ……」

「実際に見た方が早いっすよ」

「アル、どういう意味だ?」

「家のことは知らないっすけど、あのエルフのことは多少知ってるっす」

「まて、今『エルフ』と言ったか?」


 会話の中、俺は引っ掛かった。

 人間界にエルフの概念はない。現に俺は、今の今までその単語を一度も聞いたことがなかった。


「あの学長のことっすよ。多少と言っても、昔、魔王さ……」


 アルは何かを言おうとして、口を手で押えた。

 隣でラルが、あちゃーと額に手を当てている。


「色々と情報が多すぎる、いったん整理させてくれ。アル、まさかだが君は、まぞ……」

「ウラ、行こう」

「シャリテ、急にどうしたんだ?」


 俺は急に、シャリテに抱えられた。


「ウラなら大丈夫。ウラなら倒せる」

「誰を倒すんだ? 俺は戦わないぞ」

「違う。私は知っている。ウラは、勇者」


 その言葉と共に、俺の視界が高速で移動を始めた。


 森を出て、広大すぎる学園の隅をなぞるように、進んでいる。


 シャリテの全速力は風を切り、少しの時間の後、俺を目的地へ導いた。


「もう何があっても驚かない。ただ、シャリテの好きなようにやってくれ」


 俺は状況を飲み込むことをやめた。

 どうせもう、終わりなのだから。


 シャリテは小さく頷き俺を降ろし、目の前、質素な住宅の玄関に向かう。

 俺も彼女に続いた。


「せんぱーい、速すぎですよー」「ちょっと待ってくださいっすー」


 ラルとアルも到着したようで、俺たちの後ろを歩き始める。


 玄関に辿り着き、シャリテが俺の方を向いた。

 俺は小さく頷き、覚悟を示す。

 俺たちは探偵クラブ。これからは謎解きの時間だ。


 施錠されていないドアが開き、中の様子が明らかになる。

 その時、シャリテがキリっとした声を発した。


「魔王城、攻略」

「そうだ、魔王城をこうりゃ……魔王城!?」


 俺は普通に驚いてしまった。

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