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裏ボスは家出した  作者: Seabird(シエドリ)
第二章 裏ボスは謎解きした
15/22

職務を遂行する

 昨日は随分と寝た。たくさん寝るのはいいことだが、寝れば寝るほど眠くなるのはなぜだろうか。

 そんなどうでもいいことを考えながら、俺は雑草を抜く。


 今日からまた、魔法学園の雑用係としての仕事が始まった。

 今頃、講堂では始業式が行われていることだろう。俺には関係のない話だ。


 残暑が厳しい中庭で、俺はスコップで雑草の根を掘り起こす。

 額に汗がにじむが、気にせず黙々と作業する。


 しばらくすると、講堂の方面から大勢の生徒たちが出てきた。

 時間が経つのは早いようで、もう昼時だ。


 俺は中庭のベンチに座り、ぼーっと空を見上げる。

 昼食を何にしようかな、などと考えながら、もう少ししたら来るであろう依頼を待つ。


 午前の授業の終わりを告げる鐘の音が鳴った。


「ウラさん、ちょっといいかな?」


 いつもの声がかけられる。確かポペリといった男だ。


「配達ですか?」


 俺はいつも通りの流れで手に付いた汚れを落とす。

 今日も昼の仕事があるようだ。


「いや、今日は別のお願いがあってね。これは私からの個人的なお願いでもあるんだ」

「それは珍しいですね」

「そうなんだよ。本来は私の仕事だったんだけど、ちょっと手が回らなくなって。おっと、最初に言うべきだったね。ウラさんにはあるクラブの顧問になって欲しいんだ」

「顧問……いえ、私、雑用係なんですけど大丈夫ですか?」

「それなら気にしないで。学長の許可も取っているよ。はい、じゃあ頼んだからね」


 ポペリは書類を俺に渡し、いそいそと教室の方向へ走っていった。

 忙しいのは分かるが、ずいぶん投げやりだな。

 俺は嫌な予感がしながらも、書類に書いてあったクラブ室へ向かうことにした。




 嫌な予感は当たっていて、クラブ室のドアを開けた瞬間、俺は閉じた。

 今まで感じたことのない、最悪の空気がクラブ屋の中には漂っていた。


 俺は見なかったことにして、廊下を引き返そうとする。

 しかし、それは叶わぬ願いで、俺の身体は魔法の糸で巻き取られ、そのままクラブ室の中に引きずられていった。


 入ってしまったものは仕方がない。とりあえず状況を把握しよう。

 俺は椅子に座り、目の前に座る問題児たちに声をかける。


「シャリテ様、ラルさん……すみません、名前を教えていただいてもよろしいでしょうか?」


 俺はこの褐色の少女を知っている。

 彼女は、エペ・スパーダのパーティにいた弓使いだ。


「俺はアルっす! ウラさん、よろしくっす!」

「私のことは知っているのですね」

「もちろんっす! なんせ我らが、我らが? 忘れたっすけど、知ってるっす!」


 それを知っていると言っていいのか。

 まあ、本人がそれでいいのなら、俺があえて追及することもない。

 精神を操られていた彼女は、きっと記憶を混濁させているのだろう。


「ウラ、この人たちはなに?」

「シャリテ様は何も聞いていないのですか?」

「学長が、ここでウラが待っていると言った。それだけ」


 学長の意図が分からないが、俺は雑用係として、与えられた仕事をこなすしかない。

 覚悟を決め、俺は持っていた書類に目を落とす。


 それは『魔法学園探偵クラブ、創設の願い』という申請書だった。

 申請者の名前はラル。

 そしてクラブ員の欄に、アルという少女の名前が書いてあった。さらに、書き加えられたようにシャリテの名前が連なっている。


「アルさん、でいいのですよね?」

「はいっす!」


 俺の呼びかけに対して、アルは元気よく手を上げた。

 ラルと同じで元気な娘だ。


「えっと、アルさんも今日転校してきた、という認識で合っていますか?」

「そうっすよ! 忘れたっすけど、訳あって転校してきたっす!」

「は、はあ……分かりました。それで、なんでこのクラブに? まさかですけど学長に言われたとか……」

「ラルに誘われたっす! 同じ転校生仲間っすね!」


 アルはラルを向いてウインクをした。

 仲が良さそうだ。ふたりとも同じ雰囲気だし、すぐに打ち解けたのかもしれない。

 だとしたら先程はなんだったのか、疑問だが。


「シャリテ様、私はこのクラブの顧問になりました。顧問として、クラブ活動を強制する気はありません」

「大丈夫。私は私の意思でここに居る」


 シャリテは覚悟の決まった表情を見せる。

 セリフはカッコいいが、学園のクラブ活動ぐらい気楽に考えて欲しい。


 俺が『やれやれ』と思っていると、ラルが真剣な声音で話しかけてきた。


「ウラさん、お願いがあるのですが」

「いいですよ、私にできることなら」

「ありがとうございます。では、素のウラさんで接してくださいませんか。正直に言って、話しにくいかもです……」

「俺もそう思うっす! もっと友達みたいで大丈夫っす!」


 アルも手をあげて同意してしまった。

 これは少し困った。

 学園内では、あくまでも俺は雑用係。仕事としての自分でいるつもりだった。

 だが、これも依頼だと考えれば、受けないわけにはいかない。


 俺は少し考え、頷く。


「そうか。だったら、これからは普通にさせてもらう。話をクラブ活動に戻そう」


 俺は愛想笑いを止め、書類の内容を進めることにした。

 三人は満足そうにしているし、問題はないようだ。


「このクラブの目的は、目的は……魔法学園七不思議の一つである学長の秘密を探ること、か……よく許可されたな」

「ラルの交渉術、すごいでしょー」

「ああ、すごい。だが、この目的をどうやって達成する?」

「それはねー……」


 ラルが溜めを作った。

 場に緊張が張りつめる、こともなく、皆が呆れた顔で彼女を見ていた。


「学長の家に侵入しま……」

「ダメだ」


 俺は即座に却下した。

 あまりにも短絡的な考えに、ため息がでる。


「だいじょーぶだよー、みんなー」


 誰も何も言葉を返さない。


「ちょっと無視しないでー。ラル、泣いちゃうよー」


 ラルは泣く振りまでしているが、もちろんスルーされる。


 所詮は少女たちのおままごとだ。

 俺は気に留めることもなく、ただ職務を遂行することにした。



 ******



 これは裏ボスがクラブ室に入る少し前。

 そこでは、ふたりの少女が殺気を飛ばし合っていた。


「ラルム、お前のこと”は”覚えてるっす。なぜこの学園に来たっす? しかも、こんなところに俺を呼び出して、どういうつもりっす?」


 褐色肌の少女が怒気を含んだ声で言った。


「アルコさん、ご無沙汰しています。私はただ、職務を遂行しに来ただけですよ」


 ピンク髪の少女は左手に軍用ナイフを握りながら、淡々と返した。


「この学園に来て、俺の記憶は曖昧っす。お前が何かしたっす」

「いえいえ、それも全部、学長の秘密が明かされれば分かることです」

「お前、あのエルフについて何を知ってるっす……」


 褐色肌の少女が矢を取り出し、構える。

 今にも戦闘が始まりそうな雰囲気だ。


 その時、ドアが開いた。


「気配を感じなかったっす」「私が気配を感じ取れなかったとはね」


 ふたりが驚いた顔を向けた先には、ポニーテールの少女が居た。


「続けて」


 ポニーテールの少女は、感情のない顔で言った。

 場の空気が一瞬で彼女に支配される。


「やめておくっす。どうせこいつには勝てないっす」

「学園内での戦闘は禁止されているからね。やめておこう」

「そうした方がいい」


 三人はそれぞれ椅子に座り、互いに向き合った。


「ご挨拶が遅れ申し訳ございません。現在の私は、サージュ国軍諜報部、部隊長のラルムです」

「そうなんだ」

「姿がお変わりになり、気づくことができませんでした。不徳の致すところです。しかし、女王様に近づき、あなたは何を考えておられるのですか?」


 ポニーテールの少女は答えを返さず、殺気だけを質問者にぶつける。


「エルフに聞け、ということですね」


 ピンク髪の少女は両手に持った軍用ナイフを握り締めた。


「こ、怖いっす……いったい何者なんすか……」


 褐色肌の少女は今にも気絶しそうで、身体を震わせていた。


「ウラが来た」


 急に発せられた嬉しそうな声。

 ポニーテールの少女はドアを向き、初めて表情というものを見せた。

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