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裏ボスは家出した  作者: Seabird(シエドリ)
第二章 裏ボスは謎解きした
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秘密を探す

「すみません。ちょっと待ってください」


 走っている途中、俺はラルとシャリテに声をかける。

 最初は頑張っていたが、これ以上は危険だと判断した。


「ごめんなさい。てっきりウラさんなら、ついてこれると思って」


 前を走っていたラルが振り返り、俺に頭を下げる。


「いえいえ。ただ、私は見た目通りの普通の人ですので、ご理解いただければ……」

「違いますよ」

「え?」

「ウラさん、力を解放しちゃってください!」


 『頑張れー!』と拳を天に上げるラル。

 彼女が何を言っているのか、俺には分からなかった。


「えーと、どういうことです?」

「ウラは普通。私が確認済み」

「そうですか……てへ! ラル、勘違いしちゃった!」

「どういう勘違いですか……」


 シャリテの援護も入り、ラルは納得してくれたようだ。


「だったらラルが担いであげる!」


 その言葉と共に、俺の身体が浮いた。

 俺はラルに、小さな少女にお姫様抱っこをされていた。


「ダメ! それは私の役目!」


 シャリテの焦った声が森の中に響く。

 誰の役目でもないような気がするが……


「だったら捕まえてくださーい。追いかけっこです!」


 ラルが凄い勢いで駆け出した。

 木々が一瞬で視界の右から左へ流れていく。

 俺は抵抗もできず、ただなされるがままだ。


「殺気が心地いいですねー」


 ラルは暢気にしているが、俺は初めて感じるシャリテの本気の殺気に少し驚いていた。

 普通に怖い。それが将来の自分に向けられると考えると、さらに怖い。

 俺のメンタルもまだまだ成長の余地があるようだ。


 それからもラルは余裕の表情で逃げ続けていたが、俺が一日かけて歩く距離を進んだところで、笑みを消した。


「ウラさん、もう少しで学園に着きます」

「ありがとうございます?」


 走りながら話しかけてくるラルの口調は重い。

 俺は彼女の変わりように困惑してしまった。


「知ってますか? 魔法学園の七不思議を」

「生徒間での噂話程度なら」

「では話が早いですね。私はその内の一つ、”学長の謎”を解きたいと思っています」

「そうですか。確かに学長の年齢とか、私も気になりますね。でも、そのために転校までしたんですか?」

「やっとパズルのピースが埋まりそうなのです。やっと……」

「ちょっとラルさん、大丈夫ですか!?」


 ラルの目を覆う布の下から、涙が流れている。

 急すぎる展開に俺はついていけず、ただ心配するしかなかった。


「申し訳ないです。でも、あなたが最後のピースだったのですよ、ウラ()

「え、今なんて……」

「見えてきましたよー! 学園にとうちゃーく!」


 俺が聞き返そうとした時、視界が開けた。

 目の前には、何度も見た光景があった。


「あの森、学園の隅から繋がっていたのか……」


 シャリテがいつも修行をしていた学園隅の森。

 俺たちが迷っていた場所は、そこだった。


 いつの間にか振り出し戻っていたらしい。

 これが運命というものかのかは、俺には分からないが、不思議と必然に感じた。


「ラル! 今すぐにウラから離れて!」


 少しして森から出てきたシャリテが怒った声を出した。


 ラルは俺を地面に降ろし、両手をあげて降参する。


「先輩は知ってますよね? ここでの戦闘は禁止ですよ」

「む、それはそう。だけどラル、あなたは危険」


 シャリテの言葉には同意したいが、ルールはルールだ。

 とりあえず、今は落ち着いてもらおう。


「まあまあ。ラルさんは転校の手続きとかで忙しいですよね。では、ここでお別れしましょう」

「了解です! 先輩、ウラさん、また会いましょー!」


 元気に手を振りながら全速力で校舎に向かうラルを、俺は見送った。


「シャリテ、なんで怒っているんだ?」

「あいつ、ウラに触りすぎ。ウラは私の」


 シャリテは頬を膨らませ、俺の隣に立った。


 素直に分からなかった。

 なぜシャリテは、俺にそこまで執着(しゅうちゃく)する?

 俺が異世界人だから、という理由だけでは説明がつかない。それぐらいは俺でも察せている。

 ラルがさっき言ったことも気になるし……


「とりあえず、学長の所に行くか」


 俺はシャリテの頭を撫でてあげて、いつもの職場に戻ることにした。




 俺たちはゆっくりと歩き、学長室へ向かった。

 寮に帰る生徒たちが、大きな荷物を持ってせわしなく動いていた。

 夏休みの出来事を友人同士で話す彼らを見ると、ここが学園だという実感がわく。

 だが俺にとっては昨日ぶりといった感覚で、懐かしさなどない。


「それで、武者修行はどうだった?」


 学長室のドアを開け、すぐに聞かれた。


「楽しかったですよ。修行になったかと言われれば、なんとも返せませんが」


 俺はソファに座り、身体を伸ばす。

 疲れてはいないが、久しぶりにベッドで寝たい気分だ。


「シャリテ様も……その様子だと、本来の目的は果たせたようだね」


 学長は満足そうに頷いた。

 言っている意味が分からないが、それはいつものことだ。


 それからは大した話もなく、事務的な会話が進んだ。

 俺はてっきり、学長がシャリテのことを心配していると思っていた。

 なんというか、いつも過ぎる感じだ。


「ふたりとも、長旅ご苦労様。今日はゆっくり休んで、明日からまた頑張ろう」


 学長が締めの言葉を言い、本当に最後まで何事もなく、俺たちは解散となった。


 俺はドアを開け、廊下へと出た。

 ラルが言っていた学園の不思議。それを調べていけば、この世界の真実に近づけそうな気がした。一見すると関係ないようだが、これは俺の直感だ。


 まずは情報収集をしよう。

 俺は歩きながら、隣にいるシャリテに話しかける。


「学長の様子だが、あれは普通でいいのか?」

「いつも通り」

「そうか……」

「でも、何かに警戒していた、気がする?」

「そう言われれば、確かに?」


 俺とシャリテは目を合わせ、お互いの頭上ではてなマークを浮かべた。


「うーん……じゃあ、また明日」


 俺は学長室がある校舎の出入口で、シャリテと別れる。

 寮に帰って、早めの就寝といこう。


 さっき、何かを考えていた気がするが、まあいいか。



 ******



 裏ボスとシャリテが出ていった学長室で、一人の少女がエルフの前に立っていた。


「こんにちは、……さん。ここでは学長さんと言ったほうがいいでしょうか」


 少女の話した言葉の一部は、この世界に存在していないものだった。


「こんにちは、ラルム君。ここではラルと名乗っているのかな」


 エルフは微笑みながら、少女を見ている。


「私の子供たちに、干渉しないでくれると嬉しいのだけどね」

「それはお互い様です」

「女王様からの命令では……ないな、ありえない」

「はい、私の隊は独立しています」

「まったく。正式な入学手順を踏まれたら、私は断れないんだよ」


 エルフはため息を吐き、微笑みを消す。


「とりあえず、その両手に持ったナイフを下げてくれるかい? ここは学び()だよ」

「仕事ですので、ご容赦ください」

「だったら私も、学長として教育をしよう」


 エルフの言葉と共に、少女の”両手”が消えた。

 突如現れた黒い球が、彼女の両手を軍用ナイフごと吸い込んだ。


 しかし少女の手首から血が滴ることはなく、その断面からゆっくりと再生を始めている。


「374年ぶりの再会ですよ。流石にひどいと思いますが」


 少女は冷静さを保ったまま、エルフに苦言を(てい)した。


「君だって、いつも私を殺そうとするじゃないか」


 エルフは再び微笑んだ。


 その様子を見て呆れたのか、少女は(きびす)を返し、ドア開ける。

 彼女の両手は、すでに治っていた。


「あなたも監視対象であることをお忘れなく」


 廊下へと出る前に、少女は忠告した。


「制服、似合っているよ」


 そう言ったエルフの笑顔は、どこか嬉しそうで、そして寂しそうでもあった。

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