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裏ボスは家出した  作者: Seabird(シエドリ)
第二章 裏ボスは謎解きした
13/22

武者修行をしたと思う

「やったぞシャリテ! 今日の昼飯だ!」


 俺はデカい魚を両手で抱え上げて、本能のままに叫んだ。

 こいつはきっと湖の主だ。昨日から狙っていたが、図体に似合わぬ素早い動きに翻弄されてしまった。

 少しずつ追い込み、やっとのことで無力化し、捕まえることができた。

 

「食べ放題!」


 シャリテも飛び跳ねて喜んでいる。

 彼女は水しぶきを上げ、髪の毛まで濡らしていた。


 下着姿で冷たい水に膝上まで浸かり、いったい俺たちが何をしているのかというと、それは食料の確保だ。森の中で見つけた湖で魚を捕り、タンパク質を確保している。

 自給自足の生活にも慣れていたもので、今ではこういった大物を狙えるまで余裕ができていた。


 そう、武者修行といえば山籠もり。

 俺たちは今、充実した毎日を過ごしている。


「……ん? なんか違うよな」


 俺は急に冷静になり、空を見上げた。

 照りつける陽の光は暑いぐらいで、湖の冷たさが心地いい。


「本当に、どうしてこうなった……」


 魚類特有の匂いが鼻に入る。

 俺はなぜこんなことをしているのだろうか……


 思い返せば、完全なる遭難だった。

 方向音痴を極めたふたりが何も考えずテキトーに行動した結果、次の街に辿り着くどころか、迷い込んだ森の中から抜け出せなくなった。

 途中で状況を打開すべくシャリテに担いでもらい移動したが、それが逆効果で、気がつけばこの世界特有の巨大な木々に囲まれ、自給自足のサバイバルをしていた。


 食料が尽き、シャリテの腹の音がこだまする森の中で、俺は計画を切り替えた。


 ここで勇者を死なせるわけにはいかない。

 何とかお腹いっぱいのご飯をシャリテに食べさせてあげたい。


 俺は時間を忘れるほど頑張った。

 木の実を取り、野草を摘み、魚を捕まえた。

 シャリテと簡易的な住処を建て終えた時には、俺でさえ達成感を感じ、彼女とハイタッチをして喜びを分かち合った。


 だが、今だから言える。


「何してたんだ、俺」


 とりあえず、この魚を食べてから考えよう。

 俺は湖の(ほとり)に作った拠点へと戻る。


 そこには石を積み上げてできた炊事場があった。

 俺は服を着た後、とりあえず、そこら辺に落ちていた鋭利な石を使い魚の鱗を取った。

 そして粗雑にではあるが内臓を取り除き、シャリテに火を頼む。


 火加減を確認し、俺は魚を焼き始める。

 内臓を取り除いた部分に、これまたそこら辺に生えていた野草を入れた。多少は味付けになってくれるだろう。


「普通にうまそうだな」


 俺は大きく平たい石の上で焼かれる魚を見て言った。

 タンパク質が焼ける匂いに雑味はない。湖の水が綺麗なおかげで、魚も大した下処理をせずに食べられそうだ。


 魚をひっくり返したりして、中までしっかり火を通す。変な寄生虫とかは勘弁だ。

 肉が硬くなる直前、そこを見極めるために魚を凝視する。これが意外と楽しい。


「よし、食べごろだ。待たせたなシャリテ、食べようか」


 目を輝かせながら俺の調理風景を見ていたシャリテに、俺は木を削って作ったフォークを渡す。


「「いただきます」」


 食材への感謝を込め、食事が始まった。


「うん、うまい」

「美味しい。ウラは達人」

「そうか? まあ、やっと核心を掴んできた感じがするな。これが、成長か……」


 俺は我ながらに完璧な焼き加減に頷く。


「ウラ、良かった……」


 シャリテが俺に向かって微笑んでいた。

 最近の彼女は笑うことが増えた気がする。以前は、そういえば、彼女の笑顔など見たことがなかった。


 感情は大切だ。

 それが力となり、勇者を高みへと導く。

 俺はさっき、何か考えていた気がするが、まあいいか。




 穏やかな雰囲気で食事は進み、魚が骨だけになるころには午後の良い時間になっていた。

 時の進みとは早いもので、生きるための行動だけで一日の大半は終わってしまう。


 今日の俺たちは、森で食べられそうなキノコを採ることにした。

 キノコについては、今までスルーしていた。毒が怖かったのだ。

 しかし、俺たちは進まないといけない。新たなことへの挑戦が未来を切り開く、そう信じて。


「これ、大丈夫だと思うか?」


 俺は倒木に生えた赤色のキノコを指差し、シャリテに聞いた。


「確認する」


 シャリテはそう言って、そのキノコを食べてしまった。

 俺はその光景を見て固まってしまう。


「これはダメ、美味しくない。多分毒入り」

「そうか……キノコはやめておこう」


 シャリテなら大丈夫だ、という謎の確信はあるが、危険に対して自分から向かっていくこともない。

 こんなことなら、魔法学園の図書館で、もっと調べておけばよかったな。

 俺はため息をつき、空を見上げ、みあげ?


 人間が、落ちてきた。


「シャリテ、糸で網を作ってくれ!」


 俺は急いで叫び、頼みを理解してくれたシャリテが魔法の糸を木々に張り巡らせ、空中に網を張った。


「助かったー!」


 ピンク色のツインテールで、目には布を巻いている少女。

 彼女は魔法で作られた網の上で(はず)んでいた。


 シャリテが魔法を解除を解除し、少女は頭から地面に落ちる。


「あいたたー。ラル、頭打っちゃったよー。あれれ、お兄さんたちだーれ? ってそこのお姉さん! 魔法学園の先輩じゃないですか! ラルっていいます! よろしくお願いします!」


 ラルと名乗った少女は立ち上がると、凄い勢いで頭を下げた。

 確かに彼女は魔法学園の制服を着ている。だからこそなぜ、ここに居る?


「まず、見えている、でいいのですよね?」

「大丈夫です! ばっち見えてますよ!」

「ははは、元気ですねー」


 俺は学園の雑用係としての自分を呼び出し、対応することにした。


「私はウラディル、魔法学園で雑用係をしています。気軽に”ウラさん”とお呼びください」

「私はシャリテ。あと、ウラは私の雑用係」

「おお! ということは、魔法学園は近いのですね。よかったー! でも急がないと、始業式に遅れちゃう! 転校初日に遅刻って、ラル、本当にドジっ子なんだから!」


 ラルは自分の頭を拳で叩き、下を出して『てへぺろ』と言った。

 

 俺は思った。

 キャラが濃すぎる。胃もたれしそうだ。


「待ってください、始業式ですか?」

「そうだよ! 今日で夏休みは終わり!」


 確か夏休みは20日間、つまり……


「シャリテ……俺らって、すごいな」


 俺はまだ、時間感覚が戻っていない。気がついたら夜になり、気がついたら朝になっているだけで、その循環に対して長いも短いも感じられなかった。

 だが、シャリテの無頓着さは、流石としか言いようがなかった。


「ウラさんたちはなぜここに? ちなみにラルは、魔法学園への近道で来たんだ。木々の上をぴょんぴょん跳んでたら、足を滑らせちゃったけど、てへ!」

「聞きたいことが色々あるのですが……」

「ウラさんはちょっと待ってください!」


 そう言ったラルはシャリテに近寄り、質問を始める。


「先輩はなんで飛ばなかったのですか? 空を飛べないとしても、ほら、木のてっぺんかにいって、ぴょーんと上に跳べば、遠くの街ぐらい見れたはずですよ」

「それは、怖かった……から」

「うーん。先輩がそんな人じゃないとは、初対面のラルでも分かりますよ」


 確かにそれは考えたが、シャリテが高い所が苦手だと言っていたから、俺は諦めていた。


「楽しかったですか?」


 ニヤニヤしながらいう少女。

 どこかで見たことのある表情だ。


 シャリテは少しムッとした顔でラルを見る。


「音どころか気配すら感じなかった。ラルは何者?」

「ごめんなさい! 今は急いでいるので、続きはまたいつか! 方向はあっちですよ! じゃあ、しゅっぱーつ!」


 俺とシャリテはラルの勢いに負け、彼女の後をついていくことになった。


「まあ、俺は楽しかったよ」


 不機嫌になったシャリテに俺は言った。

 『私も……』と小さな声が返ってきた。

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