表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【2巻3/1発売】竜医師フィルナは第二の人生で幸せになります~さようなら、騎士団長様~  作者: 屋根上花火
竜聖医編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

286/293

花芽ぐむキルシュヴァッサー23

※血の表現などあり。


 ティムさんが亡くなったと聞いて、私はフロリアンさんと一緒に拘置室へ向かった。

 関係者ではない私がいても、邪魔になるだけだと思ったけれど、フロリアンさんから「竜に感染する病の可能性もありますから」と竜医師として同行が認められたため、ついていくことにした。

 それに、拘束されているはずのティムさんがどのように亡くなったのか、その原因が知りたかった。


 拘置室は、調査官たちが勤務する施設の地下にあった。

 地下へとつづく階段を下りると、拘置室と呼ばれる個室に繋がる廊下が真っ直ぐ伸びている。


 ティムさんが拘束されていた部屋の前には、すでに人だかりができていた。

 私に気づいたウルリッヒ様が、「見ない方がいいとは思いますが……」と警告してくれた。


「ありがとうございます。ですが竜医師として、ティムさんがどのように亡くなったのか確かめたいと思います」

「そうですか。では、中へどうぞ」


 ウルリッヒ様は一歩後ろに引いて、道を開けてくれた。

 先に部屋に入ろうとしたフロリアンさんは、一瞬凍りついたように立ちすくんだけれど、意を決して中に入った。

 私も覚悟を決めて、そのあとにつづく。


 ティムさんは椅子に座ったまま、机に上半身を伏せて亡くなっていた。

 机には血が広がっていて、床にまで滴り落ちていた。


「ティム……」


 フロリアンさんが複雑な顔をして、ティムさんの背中を見つめてつぶやいた。

 ウルリッヒ様によると、部屋は施錠されていて、ペンなどに仕込んでいた毒で自害したのではないか、とのことだった。

 自害と聞いて、フロリアンさんが眉を顰める。


「なぜ自害だとわかるのですか?」

「遺書が残されていたからね。自分がセイレニア教のスパイであることも記されていたよ」

「ティムが、セイレニア教のスパイ……」

「お、奥様の予想した通り、安楽死の決定を早めたのって、そういうことだったんですね……!」


 一緒についてきたシーラが、遺体に怯えながらも興奮したように言った。

 その隣にいたラウラさんが、恐ろしいことを聞いたとばかりに顔を真っ青にした。

 

 私はウルリッヒ様から許可を得て、手袋をつけてから、ティムさんの服を脱がせて背中を確認した。

 すると、ティムさんの右肩にセイレニア教の紋章が刻まれていた。それを見て、フロリアンさんたちは一斉に息を飲んだ。


「本当に彼がスパイだったのか」

「信じられない……」


 調査官たちの間に、動揺の声が広がる。

 私はその紋章が本物かどうか、その細部を確認した。


「海面に立つ女神が槍を掲げている紋章……間違いなくセイレニア教のものですね」

「では、やはりティムは……」


 フロリアンさんが痛みをこらえるような顔をした。

 他の調査官たちも、ティムさんがスパイで間違いないと納得しかけたその時――


「でも昨日見た時は、そんなものなかったはずですが」


 とシャーロット先生が発言したので、その場にいた全員が、その言葉に驚いていた。

 なぜ彼女がティムの背中を見たことがあるのかと、調査官たちは顔を見合わせている。

 

 すると、フロリアンさんが言葉を選ぶように、慎重に訊ねた。


「なぜあなたがそのようなことを知っているのですか? まさかとは思いますがこの男、あなたに変なことを……?」


 その意味がわからないのか、シャーロット先生はきょとんとした表情で答えた。


「いえ、ティム上級調査官の執務室の前を通りかかった時、『背中に虫が入った』と言って、執務室から慌てて飛び出してきたので、とってあげたんです。この建物は自然保護区内にありますし、虫も多いですからね」

「そ、そういうことでしたか」


 周囲の大人たちが一斉にほっとした顔をしたので、シャーロット先生は目をぱちくりとさせた。

 私もほっと息をついてから、口を開いた。


「シャーロット先生が背中を見たのは、いつ頃の話ですか?」

「昨日の早朝で、竜舎に向かう前の話です。その時はまだ紋章はありませんでした。私と一緒にいた補助竜医師も見ています」


 私はもう一度、その紋章に視線を向けた。

 紋章に顔を近づけると、独特なにおいがした。


「発色をよくするために、顔料に竜の鱗が混ぜてありますね」


 思い浮かんだことをそのまま口にしながら、さらに紋章付近の肌の状態を確認する。


「紋章を彫ったばかりなら、一週間は肌が炎症するはずです。それが見られません」

「で、でも、何かで隠されているようには見えませんでした」


 シャーロット先生は慌ててそう言った。

 私は「疑っていませんよ」と小さく微笑みかけた。


「だとすると、何者かが死後に紋章を彫ったということになりますね」


 私の言葉に、調査官たちがざわめいた。


「ティムは、誰かに殺されたということですか」


 ウルリッヒ様が、険しい顔をしてティムさんの背中を見つめた。


「その可能性が高いと思います。おそらく、この紋章を彫った人は、シャーロット先生たちがティムさんの背中を見ていたとは思わなかったのでしょう」


 私の発言を最後に、その場に重苦しい沈黙が流れた。

 


次回更新は3/29です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ティムのことは嫌いだけど死後に尊厳をあれこれされるほどのことはしてないでしょうに セイレニア教は邪教にも程がある それとは別にシャーロット先生がティムに酷いことされてたかも知れない、と気を遣いながら…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ