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【2巻3/1発売】竜医師フィルナは第二の人生で幸せになります~さようなら、騎士団長様~  作者: 屋根上花火
竜聖医編

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花芽ぐむキルシュヴァッサー17


 ジンさんが大切なメルキオールの鱗を差し出したところで、直接の利点はない。

 本来なら、初対面の私のお願いなど聞く義理なんてないだろう。


「ジン。頼みます」


 ラインさんも同じようにお願いしてくれた。

 その時、壁際に立っている看守が「一分前です」と告げた。

 ジンさんはわずかに視線を下げたまま、沈黙を保っていた。


(やっぱり、うなずいてはくれないか……)


 だからといって、ジンさんは何も悪くない。

 大切な相棒の形見の鱗を薬に使うと言われて、いい気はしなかっただろう。


 ラインさんはちらりと看守の方を見てから、「ジン」と呼びかけた。


「オリアス様が大切にしていた花のそばに、珍しい花が咲いていたそうです。何の種類か知っていますか?」


 「え?」と声を上げそうになって、慌てて飲みこむ。

 聞きたいことがあるとは言っていたけれど、どういう意味だろう。


(そうか、看守に聞かれたくないから隠語を使っているんだ……!)


 ジンさんはラインさんを見た。言っている意味はわからないのに、なぜか緊張してしまう。


「さあな、興味がない。好きに処分しろ。種は教会に預けている」


 ジンさんが言い終わると同時に、看守が「時間です」と面会終了を告げた。


 ◇◇◇


「だめでしたね」


 監獄の外に出て、周囲に人がいないことを確認してから、私は口を開いた。

 ラインさんも難しい顔をして、ため息をついた。


「まあ、メルキオールが生きていた唯一の証ですからね。手放したくはなかったのでしょう」


 その声には、相棒を失った彼への同情が含まれていた。

 とはいえ、キルシュヴァッサーの治療を諦めるわけにはいかない。

 

「他の竜医師に、ハイブリッド種の鱗を保管していないか聞いてみます」

「フィルナ様、お待ちください」


 その声に振り返ると、そこにはジンさんの牢屋まで案内してくれた看守が立っていた。

 彼は私に近づくと、手に持っていた小さな木箱を差し出した。


「ジン・グレンカイトから預かってきました。あなたにこの木箱を渡してほしいと」

「ジンさんから?」


 私はその木箱を受け取った。竜の姿が刻まれた、見事な細工の箱だった。

 そっと蓋を開けると、中には薄い緑色をした鱗がたくさん入っていた。光の加減で、その鱗は薄い赤色にも変化する。

 風と火の力を宿す美しい鱗を見て、思わず「わあ……!」と感嘆の声が漏れた。身体の奥から高揚感が湧き上がってくる。


「これは……メルキオールの鱗!」

「ジン……!」


 ラインさんも驚いたように声を上げて、嬉しそうに左目を細めた。

 看守は表情を変えないまま、淡々と言った。


「自分が持っている鱗はそれで全部だと言っていました」

「え……大切なメルキオールの鱗を、すべて譲ってくださったのですか?」

「はい。今を生きている竜に使ってあげてほしいと、そう言っていました」

「今を生きている竜に……」


 メルキオールの鱗は、どれもつやつやと美しく光を反射していた。

 毎日丁寧に手入れをしている証拠だった。

 本当は、この一枚一枚が愛おしくて仕方がないはず……。それでも彼は、その形見の鱗をキルシュヴァッサーや他の竜のために役立ててほしいと願った。


 彼の想いを無下にはできない。

 手の中の木箱が、ずしりと重くなった気がした。


「それでは、俺はこれで――」

「待ってください! 鱗を譲ってくださってありがとうございますと……一枚も無駄にはしないと、そうお伝えください!」

「わかりました。必ずお伝えします」


 看守はこちらに敬礼してから、監獄の中へと去っていった。

 私は門を閉ざした監獄に向かって、静かに一礼した。


「ありがとうございます。ジンさん」


 届かないとわかっていても、感謝せずにはいられなかった。

 ラインさんも同じように一礼してから、どこか懐かしむように小さく笑った。


「いつだって誰かのために戦ってきた男です。あの人らしいというか……」


 ラインさんの横顔を見ていると、憎しみ以上に、ジンさんへの厚い信頼のようなものを感じた。


 監獄を後にした私たちは、客人用の竜舎へ向かっていた。

 その道中、私は気になっていたことをラインさんに訊ねた。


「ラインさん。最後の会話は隠語ですよね」

「やはり、奥様にはわかりましたか。ええ、その通りです。看守の前でしたからね」

「聞きたいことがあると言っていましたが、答えていただけましたか?」

「はっきりとは答えてくれませんでしたが、少しだけ。俺はジンに、『ヘリアス様の父君、オリアス様に愛人はいたのか?』と質問しました」

「愛人……!?」

「オリアス様はジンのことを最も信頼していましたからね。彼なら知っていてもおかしくはないと思いました」


 なぜ今になって、愛人の有無を質問したのだろう。そう疑問に思いながらも、私は質問の答えが気になっていた。


「たしか、ジンさんは『好きに処分しろ。種は教会に預けている』と言っていましたね」

「その通りです」


 ラインさんはうなずき、少し眉を寄せてその意味を説明してくれた。


「つまり、こういうことです。愛人は存在した。そして、教会に預けた種というのは、恐らく愛人との間に生まれた子供でしょう」


次回更新は3/14です。

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― 新着の感想 ―
鱗くれたやったーって思ってたらえらい爆弾が投下された え、ヘリアス様に異母兄弟もしくは姉妹が存在するとな
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