祝福のエレスチャル18
城下町の中央広場には、急拵えの巨大な演壇が設置され、そこを中心にして人々が集まっていた。
「青い実をたくさん集める方法」として、私が提案したのは演説だった。
つまり、人々に直接「青い実を譲ってほしい」とお願いする方法だ。
ただし、「ただお願いするだけ」というわけではないけれど。
演壇の左右は厚い布で仕切られている。
私はそこでその時を待っている……わけではなく、近くの三階建ての屋上に立っていた。
「奥様、大丈夫ですか?」
シーラが、心配そうに私の顔を覗きこんで訊ねる。
「だ、だいじょーぶ、です」
「声が震えておられますよ!? 何だかいつもと様子も違いますし!」
そう言って、シーラは私の顔に浮いた汗をハンカチで拭ってくれた。
せっかく綺麗に化粧をしてくれたのに、申し訳ない気持ちになる。
(アルトリーゼ家に来てから、人前に出るのは慣れたつもりだったのだけど……やっぱり緊張する)
挨拶程度ならまだしも、これほどの大勢の前で演説するのは初めてだ。
屋上から少し身を乗り出して広場を見下ろすと、そこには石畳を埋め尽くす人、人、人……。
「わあ……」
思わず力の抜けた声が漏れる。
人々はこちらを見上げて、今か今かと演説開始を待ち侘びていた。
なぜ彼らに私たちの居場所がバレているかと言うと、屋上にはエアルとドゥルキスも待機しているから。
エアルがバサリと大きく翼を広げると、下から歓声が上がった。
目立ちたがりのエアルは得意げに胸を張る。
一方ドゥルキスは、大人しくヘリアス様の背後に座っていた。アウデンティアの守護竜としての風格が漂っている。
「エアル、今日はお願いね」
私はエアルのお腹に抱きつき、深呼吸を繰り返した。
すると、エアルは翼でそっと私を包んでくれた。
緊張していた身体から、ほんの少し力が抜ける。
「フィルナ」
「は、はい」
ヘリアス様に呼ばれた私は、慌ててエアルから離れて背筋を伸ばした。
さすがヘリアス様、彼は大勢を前にしても堂々としておられた。
「コレーの宝玉」
ぽつりと落とされた言葉に、ぴくりと反応してしまう。
ヘリアス様はさらに言葉をつづけた。
「どうやら入手できそうだ」
「本当ですか!?」
思わず前のめりになる私に、ヘリアス様はくすっと笑った。
コレーの宝玉はザクロの一種で、中の赤い粒が淡く光る、とても珍しい果実だ。
「すごいです、ヘリアス様! コレーの宝玉が手に入れば、四ヶ月も強制的に眠ってしまう竜の冬眠病が治療できますよ!」
「そうだな。どうやら、いつもの調子が出てきたようだ」
「あ……そういえば」
気がつくと、両手の震えが治まっていた。
ヘリアス様は私の手を取って言った。
「完璧に話そうとしなくていい。竜医師としてのあなたが何を伝えたいのか、それを考えるだけでいい」
「私が何を伝えたいか……」
「私もそばにいる。気軽な気持ちで挑むといい」
にぎられた手から彼の体温と、私への強い信頼が伝わってくる。
それに応えたい。気負っているわけでもなく、自然にそう思えた。
その時、角笛の音が響き渡った。演説が始まる合図だ。
「さあ、行こうか」
「はい!」
私とヘリアス様はそれぞれの相棒の背に乗り、空へと飛び立った。
「おお、来たぞ! ヘリアス様とフィルナ様だ!」
「火の竜に乗っておれるぞ!」
民衆はどよめき、次いで大歓声が上がった。
エアルはそれに応えるように「キャア!」と上機嫌に鳴いた。
対抗するように、今度はドゥルキスが鳴いた。
喧嘩が始まりそうな気配に、私たちは素早くエアルたちを演壇へと降ろした。
羽ばたきで生じた強風が人々の頭上をなでて、帽子や小物を吹き飛ばす。けれど、その刺激すら楽しむかのように、人々は悲鳴まじりの歓声を上げた。
好意的な歓迎に、内心ほっとする。
そう思いながら、エアルの背中から滑り降りたその瞬間――
「ヘリアス様とシセラ様の親密な関係について、フィルナ様はどうお考えなのでしょうか?」
一瞬でざわめきが静まり、人々の視線がその声の主に集中した。
最前列から私に声をかけてきた三十代くらいの男性は、腕章からして新聞記者のようだった。
彼は獲物を捉えたかのように、にやりと目を細めた。




