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【2巻3/1発売】竜医師フィルナは第二の人生で幸せになります~さようなら、騎士団長様~  作者: 屋根上花火
竜聖医編

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祝福のエレスチャル18

 城下町の中央広場には、急拵えの巨大な演壇が設置され、そこを中心にして人々が集まっていた。

 「青い実をたくさん集める方法」として、私が提案したのは演説だった。


 つまり、人々に直接「青い実を譲ってほしい」とお願いする方法だ。

 ただし、「ただお願いするだけ」というわけではないけれど。

 

 演壇の左右は厚い布で仕切られている。

 私はそこでその時を待っている……わけではなく、近くの三階建ての屋上に立っていた。


「奥様、大丈夫ですか?」


 シーラが、心配そうに私の顔を覗きこんで訊ねる。


「だ、だいじょーぶ、です」

「声が震えておられますよ!? 何だかいつもと様子も違いますし!」


 そう言って、シーラは私の顔に浮いた汗をハンカチで拭ってくれた。

 せっかく綺麗に化粧をしてくれたのに、申し訳ない気持ちになる。


(アルトリーゼ家に来てから、人前に出るのは慣れたつもりだったのだけど……やっぱり緊張する)


 挨拶程度ならまだしも、これほどの大勢の前で演説するのは初めてだ。

 屋上から少し身を乗り出して広場を見下ろすと、そこには石畳を埋め尽くす人、人、人……。


「わあ……」


 思わず力の抜けた声が漏れる。

 人々はこちらを見上げて、今か今かと演説開始を待ち侘びていた。

 なぜ彼らに私たちの居場所がバレているかと言うと、屋上にはエアルとドゥルキスも待機しているから。


 エアルがバサリと大きく翼を広げると、下から歓声が上がった。

 目立ちたがりのエアルは得意げに胸を張る。


 一方ドゥルキスは、大人しくヘリアス様の背後に座っていた。アウデンティアの守護竜としての風格が漂っている。


「エアル、今日はお願いね」


 私はエアルのお腹に抱きつき、深呼吸を繰り返した。

 すると、エアルは翼でそっと私を包んでくれた。

 緊張していた身体から、ほんの少し力が抜ける。


「フィルナ」

「は、はい」

 

 ヘリアス様に呼ばれた私は、慌ててエアルから離れて背筋を伸ばした。

 さすがヘリアス様、彼は大勢を前にしても堂々としておられた。


「コレーの宝玉」


 ぽつりと落とされた言葉に、ぴくりと反応してしまう。

 ヘリアス様はさらに言葉をつづけた。


「どうやら入手できそうだ」

「本当ですか!?」


 思わず前のめりになる私に、ヘリアス様はくすっと笑った。

 コレーの宝玉はザクロの一種で、中の赤い粒が淡く光る、とても珍しい果実だ。

 

「すごいです、ヘリアス様! コレーの宝玉が手に入れば、四ヶ月も強制的に眠ってしまう竜の冬眠病が治療できますよ!」

「そうだな。どうやら、いつもの調子が出てきたようだ」

「あ……そういえば」


 気がつくと、両手の震えが治まっていた。

 ヘリアス様は私の手を取って言った。


「完璧に話そうとしなくていい。竜医師としてのあなたが何を伝えたいのか、それを考えるだけでいい」

「私が何を伝えたいか……」

「私もそばにいる。気軽な気持ちで挑むといい」


 にぎられた手から彼の体温と、私への強い信頼が伝わってくる。

 それに応えたい。気負っているわけでもなく、自然にそう思えた。

 その時、角笛の音が響き渡った。演説が始まる合図だ。


「さあ、行こうか」

「はい!」


 私とヘリアス様はそれぞれの相棒の背に乗り、空へと飛び立った。


「おお、来たぞ! ヘリアス様とフィルナ様だ!」

「火の竜に乗っておれるぞ!」


 民衆はどよめき、次いで大歓声が上がった。

 エアルはそれに応えるように「キャア!」と上機嫌に鳴いた。

 対抗するように、今度はドゥルキスが鳴いた。

 

 喧嘩が始まりそうな気配に、私たちは素早くエアルたちを演壇へと降ろした。

 羽ばたきで生じた強風が人々の頭上をなでて、帽子や小物を吹き飛ばす。けれど、その刺激すら楽しむかのように、人々は悲鳴まじりの歓声を上げた。


 好意的な歓迎に、内心ほっとする。

 そう思いながら、エアルの背中から滑り降りたその瞬間――


「ヘリアス様とシセラ様の親密な関係について、フィルナ様はどうお考えなのでしょうか?」


 一瞬でざわめきが静まり、人々の視線がその声の主に集中した。


 最前列から私に声をかけてきた三十代くらいの男性は、腕章からして新聞記者のようだった。

 彼は獲物を捉えたかのように、にやりと目を細めた。


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